環境法という“穴場科目”
1 環境法を選択した理由
私が環境法を選択した理由は4つあります。
1つ目は、なるだけ強敵が少ない科目を選択しようと考えたことです。労働法や経済法、倒産法といった人気科目は、選択者数が多い分、優秀な人も多く選択する科目です。自分は当初経済法を選択していましたが、経済法の理解に伸び悩みを感じており、経済法で良い成績を取れるイメージが湧きませんでした。また、知財法や租税法は、弁理士や会計士有資格者といった、より専門的に学習を深めた人たちも参入するため、厳しい戦いを迫られるだろうと思いました。その点、環境法は受験者が少なく、専門性を有している受験生も想定されないため、相対的に上位に上がりやすい科目であると考えました。
2つ目は、行政法と親和性が強い科目であるため、行政法が得意科目であった自分にとっては有利な科目であると考えたからです。
3つ目は、典型的な法律科目とは異なり、法解釈のみならず立法事実や政策論を問われることも多い科目であり、現役の行政官である自分にとって、興味の持ちやすい科目であったことです。
4つ目は、他の科目と比べてそれほど学習量が特段多いわけではないことです。イメージとしては、刑法の総論の分量を半分にして、各論とくっ付けたくらいの学習量かと思います。
2 環境法を選択したメリット・デメリット
(1)環境法のメリット
環境法のメリットは、①対策方法に迷いが生じにくいこと、②基本7法と親和性の高い科目であること、③強敵が少ないため相対的に良い成績を取りやすいこと、だと思います。
①については、環境法は基本的に過去問の反復が最も効果的な対策となります。他の科目では参考書や演習書等が豊富にあるため、どの教材を使って対策するか迷いがちですが、環境法は参考書や演習書がほぼ存在しない反面、司法試験(・予備試験)の過去問をやり込むというシンプルな方法で安定した得点を狙うことが可能な科目です。
②については、環境法は行政法や民法(不法行為分野)を中心として、基本7法の知識を使う場面が多々あります。そのため、環境法を学習することで、基本7法の理解をも深めることができるという相乗効果を期待できます。特に、行政法と民法(不法行為分野)については、それらの対策が環境法の対策にも直結していると言っても過言ではないほど関わりが深く、行政法や民法で学んだ論点をそのまま環境法で答案に書くことも普通にあります。
③については、環境法を選択した理由でも述べた通りです。
(2)環境法のデメリット
環境法のデメリットは、①演習書等が少ないこと、②実務で使うイメージがなく興味を持ちづらいこと、が挙げられると思います。
しかし、①については、環境法のメリットで述べた通り、その裏返しとして対策方法に迷いが生じにくいという利点があります。
また、②については、司法試験の選択科目が必ずしも実務での専門性に直結するわけではないため、効率的に試験対策を行う観点からは、対策しやすい科目を選ぶのがよいと思います。そのため、「環境法など全く興味が湧かず、勉強する気になれそうにない」ということでもない限り、環境法は一つの選択肢として十分考慮に値する科目かと思います。
3 勉強方法
予備試験に選択科目が導入される前年(令和3年)の12月から環境法の学習を開始しました。まずは北村先生の『環境法』(弘文堂)を通読し全体像を理解した後、すぐに司法試験の過去問演習に着手しました。予備試験(論文)は令和4年7月でしたが、それまでに過去問全年度分を5周くらいは解いたと思います。また、同時並行して論証集を作成し、空き時間に覚えるなどしていました。このような勉強法は、予備試験合格後、司法試験対策を行うにあたってもほぼ同様です。
4 受験対策として私がやって成功した方法
(1)過去問の検討
今までに述べた通り、基本的には司法試験過去問の反復学習を行っていました。これまでの過去問の蓄積があり、環境法の出題パターンは過去問演習で一通り網羅できるものと思われます。過去問を繰り返し、典型的な出題パターンとその処理方法を頭の中に刷り込むことが、環境法で得点するための最大のポイントだと思います。
(2)論証の作成・暗記
環境法も他の法律科目と同様、「論点」がありますので、それに対応する「論証」をあらかじめ用意しておくことで、問題検討・記述の省力化を図ることができます。自分の場合は、過去問で繰り返し問われている事項や、基本書で厚く書かれている箇所をピックアップして論証化し、それを暗記していきました。その際は、JELF(日本環境法律家連盟)が司法試験受験生に配布している「論証集」を参考にしていました(お問い合わせすれば無料でデータをもらえます)。
5 受験対策として使用した本
(1)『論文対策 1冊だけで環境法』(辰已法律研究所)
過去問演習を行うのに必携の1冊です。現状、市販されている環境法の司法試験過去問題集はこれだけしかありません。なおかつ、この本は解答例がついているため、どのように環境法の答案を書けばよいかの相場感を掴むことができ、この本を抜きにして環境法の対策はできない、と言っても過言ではありません。この本を周回して、過去問の出題パターンを習得し、環境法の勘所を養うことが、環境法で上位を取るための必要条件であると言えます。
(2)『環境法(第6版)』(弘文堂 北村喜宣著)
司法試験対策として必要十分な情報量を備えている基本書です。600頁超と分厚いですが、ロースクール生を読者として想定しており、比較的読みやすいため、最初に一度通読して全体像を掴むのに使えます。その後は、過去問演習を重ねていく中で、辞書的に使用する形でも有用な基本書です。
(3)『環境法判例百選(第3版)』有斐閣 大塚・北村編著
著名な判例の事案、判旨を押さえるために百選を使いました。特に令和5年の司法試験では、判例の知識や射程を問う問題が複数出題されました。これまでは、判例の理解を問うような出題はあまり多くなかったのですが、今後は、他の科目と同様、特定の判例を念頭に置いた出題が増える可能性があります。そのためには、百選に掲載されているレベルの著名な判例の知識を一通り身に付けておく必要があります。
6 受験対策として、辰已講座の利用方法とその成果
司法試験に向けて、辰已の「スタンダード論文答練」を受講しました。答練を通じて、初見の問題を、本番と同様の制限時間・枚数で書く訓練を重ねました。特に環境法は演習書が少ないため、「初見の問題」を見る機会が他の科目に比べて少ないと思います。そのため、答練は初見の問題に触れることができる貴重な機会であり、問題へのアプローチ・処理方法を学ぶ上で大いに役に立ちました。
7 自己の反省を踏まえ、これから受験する人へのアドバイス
①環境法にこれから取り組まれる方は、まずは基本書(あるいは入門書)を一周して、環境法という科目の全体像を掴みましょう。この点は、他の法律科目と同様です。
②予備試験受験生の方は、司法試験・予備試験の過去問を繰り返し反復し、環境法の典型的な出題・処理パターンを身に付けることを優先しましょう。予備試験での選択科目出題は、今年(令和5年)が2年目であり、「基本的理解を試す」という出題の趣旨からしても、司法試験にも未だ出ていないような真新しい問題は出題されにくいと思われます。それだけに、既出の問題をどれだけ正確かつ迅速に処理できるようになるかが、予備試験環境法の得点力を大きく左右するものと思われます。
③司法試験を受験する方は、典型的な出題パターンの解法を固めたうえで、余力があれば、基本書のやや細かい記述や百選の少し重要度の下がる判例にも目を通しておくとよいと思います。令和4年は大防法のK値規制方式の意味、令和5年はライフ事件(容リ法11条の違憲性の主張ポイント)といった、過去に出題歴のない箇所からの問題もありました。このような近年の出題傾向に対応するため、(あくまで基本的な部分をしっかり押さえたうえで)やや細かいところにも目配せしておくのがよいと思われます。