論パだけでは太刀打ちできない倒産法の耐え方
1 倒産法を選んだ理由
私が倒産法を選択した理由は、自分のゼミの先生が民事訴訟法とともに倒産法についても教えており、①自分の民訴ゼミで培った知識が基礎として活かせるかも…と考えたのと、②倒産法は実務ですぐに役立つ知識だと先輩に教えていただいたからです。
また、倒産法を勉強すれば民法に強くなる(裏を返せば、民法が得意でないと倒産法は厳しい)と聞いていたので、民法が苦手な自分はこの機会に苦手を克服しようという気持ちでこの科目を選択しました。
2 インプットにどれぐらいの所要時間が必要か
私は、学部で倒産法の授業を取らずにロースクールで初めて同科目を学んだため、ロースクール1年目において完全に初学者の状態でした。
まず、破産法、民事再生法は授業で全体の手続の流れと主要論点を学び、それだけでも時間に換算すると2~3か月は掛かっていると思います。
両方の授業の単位を取った後の初回の司法試験受験の際には、予備校のテキストと授業のレジュメで主要論点を把握した状態で臨みましたが、惨敗でした(20点)。
そのため、さらなるインプットが必要と判断し、その後1年をかけてずっとアウトプットと並行しつつインプットを行っていました。そのため、ロースクール時代から通算で1年半くらいインプットには掛かっている計算になります。もっとも、インプットのやり方をもっと効率的に行えば短期間で一気に詰められると今では思いますので、必ずしも上記の時間を要するというわけではありません。
ただ、倒産法は予備校テキストに載っている主要論パ把握だけでは歯が立たない、手続に関する条文の検索や百選の細かい論点についても問われる(他の主要7科目と比べても)かなり難易度の高い科目であると自分は感じているので、インプットは他の科目よりも時間を掛ける意識でやった方が良いかと思われます。
私は、令和6年度の司法試験倒産法においても、授業でもあまり扱わず特に論点化されているわけでもない細かい手続に関する条文を答えさせる問題があり、条文を見つけるのにかなり手間取ってしまった苦い記憶があります。したがって、細かい手続の内容と関連条文まで頭に入れてスムーズに問題を解こうとするのであれば、さらにインプットが必要であったということになります。
3 論文試験対策に最も役立った書籍や講座
私は、初回の受験の際に百選は授業で扱った主要論点に関連する箇所しか読まずに臨んだため、全く歯が立ちませんでした。その後、百選を1から100まですべて読み、論証化する作業を経た後に過去問演習をすると過去の自分では解けなかったであろう問題(百選を通読することで初めて知った論点)にも対処することができ、模試でもA判定を取るまでに成長しました。
したがって、倒産法は判例学習が他の科目に比して非常に重要な科目であり、判例百選が自分の倒産法学習の中で一番役立った書籍であるといえます。
また、役に立った講座としては辰已の答練の倒産法が挙げられます。辰已の答練は、皆が聞いたことはあるが未だに出題されていない主要論点について出題され、他人に書き負けないための練習として非常に良い機会となりました。過去問演習にプラスして直前期の筆力維持に役立つ講座といえます。
選択科目をいつどれぐらいの時間をかけたか、他科目との比率
私は、選択科目について本格的に判例学習等を始めたのは不合格となった年の12月ごろです。10日間をかけて一気に判例を学び、その後は1週間に1日のペースで倒産法の過去問演習をする日を設け翌年の4月くらいまでそのペースで学習を続けました。
そして、5月~6月には最後に知識を補完するという目的で1週間ほど集中的に倒産法の短文問題演習を行いました。累計の時間は明確には分かりませんが、倒産法については不合格になってから8か月ほどずっと学習していたことになります。
他科目との比率について、公法系や民事系等と比較するとほぼ同じ比率で勉強することを意識していました。初回受験の前には選択科目をどこか舐めてかかっていた面があり、他科目を重点的にやろうという意識で勉強していましたが、予想以上に本試験が難しく結果も足切りギリギリとなってしまったため全面的に意識を変えないとマズいと思いました。
そこで、倒産法については1番時間を割かなければならないと焦り比率としては一番大きい科目になるように最初は調整していました。しかし、他の科目にも伸ばさないといけないものがいくつかあった関係で、最終的には同じくらいの比率に落ち着いてしまいましたが、倒産法がおろそかには絶対ならないようにしようと意識していました。
5 その他、みなさんに伝えたいこと
(1)受験戦略として
まず、結論から言うと司法試験の受験戦略として倒産法はあまりお勧めできません。
倒産法で点数を稼いで上位を目指すには相当の勉強量と時間を要し、コスパの面で言えばかなり悪い部類に入るといえるためです。
倒産法を選択するのであれば、相応の覚悟と時間的余裕が必要となります。人によっては倒産法から別科目に選択科目を変えるのもアリだと思います。
(2)近年の傾向
また、令和5年以降の司法試験倒産法は難化傾向が続いており(ロースクールの先生や実務家の先生が仰っていました)、ここで相対的に高得点を取ることがかなり難しくなっているといえます。皆があまりできないという点で大きく沈むことはないにせよ、手続説明で誤った知識を書くとしっかり減点されるため足切りも珍しくないといえます。
(3)民法との相乗効果
上述の通り、倒産法を勉強すれば民法が得意になるという言説も個人的には疑問が残る結果となりました。確かに、譲渡担保や所有権留保が倒産法においても問題となる場面があるため民法で扱った判例と同じものが倒産法でも登場し、その点で民法と倒産法がリンクする感覚は確かに体験できるとは思います。しかし、それも限定的であり、民法が倒産法の問題を解くうえで大きくカギとなると感じられる場面は個人的にはあまりありませんでした。自分はあまり民法が得意ではないのですが、譲渡担保などが出た際に関係図がしっかり書けるほどの基礎知識があれば倒産法ではそれで十分かなと思います。倒産法は民法の知識よりも(当然とは思いますが)倒産法独自の知識(手続や関連条文)がメインとなるといえます。
(4)論証パターンについて
また時間の面で言えば、倒産法は予備校のテキスト等でも論証パターンがあまり出回っておらず、基本的には自分で論証パターンを作っていく形になります。初回受験の惨敗の経験から言えることとして、こと倒産法においては予備校のテキストの論パでは正直全然カバーしきれていないことの方が多いです。
もっとも、近年では手続の流れを問う問題が多く、そもそも論証パターンを要しない場面も多々あります。しかしながら、論証パターンが活きる場面もゼロではないためこれを準備しておかないと相対的に沈むことになります。
以上より、「時間に余裕がないと倒産法はキツい」というのはこういう要因があるといえます。
(5)やっておくと効果がある勉強
それでも、倒産法を選択するという方のために、個人的に必ずやっておくべきと考える勉強方法をお伝えしたいと思います。これをやっておけば高得点を取れる保証はできませんが、とりあえず「耐える」ことはできるかと思います。
①基本書でおおまかな手続の流れを頭に叩き込む。その際に条文をセットで確認する。
②判例学習⇒論パ化する
③とにかく条文を読む。①では出てこなかった条文を含めすべての条文に目を通す。
自分が一番強調して伝えたいのは③の条文素読です。倒産法は他科目と異なり、全ての条文が試験で正面から問われる可能性のある「条文メイン」の科目です。授業で教わらなかった、判例に出てこなかった条文であっても手続の内容を問われた際にその条文をパッと検索できるかが合否を分ける大きなポイントとなります。今年の司法試験の会場でも、倒産法の受験者が座っているゾーンでは開始30分ほどあまりペンの音が聞こえませんでした。皆が普段あまり出てこない条文の検索に追われ、六法をめくっていたためです。
ここで、普段からすべての条文に目を通し、なんとなく条文の場所が分かっている人や手続と条文が頭の中でしっかりリンクできている人は他の受験生と大きく時間的な差をつけられたのではないかと感じています。「すべての」条文を読んでおけばよかった…と後悔した私のようにならないためにも、ぜひ皆さんには日頃から全条文に触れてほしいと思います。
6 最後に
色々と脅すような文を書いてしまいましたが、倒産法は難しいですが深くて面白い科目です。これを実務家になって一から学ぶのは(自分は)大変だなと感じます。司法試験でこのひとヤマを越えることは実務家としての大きなアドバンテージになるのではないかと感じておりますので、チャレンジ精神のある方は是非挑んでください。応援しております。
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辰已は羅針盤です
一橋大学法科大学院【既修】2023年入学 2025年卒業予定
2023年予備試験合格
【受講歴】スタンダード論文答練福田クラス 全国公開模試 他
