2024年司法試験本試験論文式試験 講評

選択科目(倒産法) 公開:2025年11月11日
第2問は、民事再生法からの出題でした。再生計画案の可決要件、議決権額の定め方、届出のない再生債権・自認債権の取扱いといった手続の問題、及び、届出債権に争いがある場合の手続、さらに継続的契約の解除に際しての違約金条項の取扱いという重要な論点が出題されました。
倒産法と民事再生法の両方からの出題がなされた点、手続法と実体法の双方が問われた点は例年通りといえます。第1問、第2問ともに、手続を問う出題がやや多く、その場で条文を探すことが求められました。
A社が債務超過に陥った後に、A社の代表取締役Bは、独断でA社から弟に対する1000万円の貸付けを実行させ、同貸付けについて回収が見込めない状況となり、A社に損害が生じています。そこで、破産管財人Dとしては、役員の責任の査定の申立て(破産法178条1項)によりBの責任を追及することが考えられます。本問では制度趣旨に言及することも求められていますので、同手続きは破産手続内で簡易迅速に役員の責任を追及することを制度趣旨としていること、役員に対する法人の損害賠償請求権は破産財団所属財産であり、この行使により破産財団の増殖につながることを指摘するとよいでしょう。
また、破産管財人Dは、Bが役員報酬の振込先としてE銀行口座を指定していたことを把握していますので、Bに対する損害賠償請求権の将来の回収のために、役員の財産に対する保全処分の申立て(破産法177条1項)を行い、E銀行のB名義の預金口座の仮差押えを行うことも考えられます。
なお、本問は、Bの責任追及手段について問われていますので、Bの弟に対する否認権の行使についての言及は不要(むしろ減点要素になりうる)と思われます。
本問は、破産者が財産を隠匿していると疑われる場合に、破産者の資産状況等の情報を収集するための調査や手続が問われています。
まず、破産者には破産に関する説明義務(破産法40条1項1号)、及び、重要財産開示義務(破産法41条)があり、破産管財人は、破産者に対して、破産に関する説明を求め、破産財団に関する帳簿、書類その他の物件の検査をすることができます(破産法83条1項)。
また、破産管財人、裁判所が説明を求めても破産者が応じない場合には、裁判所は破産者の引致を命じることができます(破産法38条)。
なお、本問は情報収集の手段を問われていますので、裁判所による財産引渡命令(破産法156条)への言及は余事記載と思われます。
3 設問3について
本問は、破産手続開始前の事業譲渡を対象とする否認権行使の可否を問うものです。
①の場合、事業譲渡の対価4000万円は事業価値とみあっており相当な対価を得ている事案ですので破産法161条に基づき否認できるか検討することになります。
まず、A社は、事業譲渡代金を受領した直後に、同代金をA社の取締役Fからの借り入れへの弁済としてFに支払っていますので、この事実に基づき、隠匿等の処分のおそれ(同条1項1号)、及び、隠匿等の処分意思(同条1項2号)の認定ができるか検討の必要があります。さらに、事業譲渡先のE社の代表取締役Bは、A社の代表取締役でもあることから、同条2項1号の推定により同条1項3号の受益者の悪意が認定できるか、検討をした上で、否認の可否について論じる必要があります。参考判例として東京高裁平成25年12月5日判決(金融商事判例1433号16頁)が挙げられます。
②の場合、事業譲渡代金が事業価値より低額であることから、破産管財人としては破産法160条に基づく否認を検討することが考えられます。本問では、譲渡先のG社は事業譲渡に際してA社の窮状について説明を受けていますので受益者の悪意は認定できるでしょう。他方で、G社は事業譲渡に当たりA社の債務3000万円について債務引受けをしていることから、本問の事業譲渡が廉価売却といえるか、詐害行為と評価できるか検討した上で、否認権行使の可否を論じることが求められます。
小問⑵は、届出再生債権の議決権額の定め方を問うものです。議決権額については民事再生法87条に定めがあります。Bの届出債権のうち、再生手続開始後の遅延損害金について議決権はありませんので(民事再生法87条2項)、売掛金500万円及び再生手続開始までの遅延損害金10万円の合計額が議決権額となります。
小問⑶は、外国通貨による届出再生債権の議決権額の定め方を問うものです。外国通貨建ての金銭債権は、再生手続開始時の評価額を議決権額とされていますので(民事再生法87条1項3号ニ)、Cの売掛金200万ユーロについて、再生手続開始決定時の1ユーロ140円により評価した額が議決権額となります。
小問⑷は、届出がない再生債権及び自認債権の取扱いに関する問題です。届出のない再生債権については、再生債務者が自認した場合でも、議決権はありません。また、再生計画認可決定確定後の取扱いについて、自認債権については届出再生債権と同様に再生債権に基づく弁済を受けることができます。他方で、認否書への記載がもれたDについては権利変更の一般的基準に従い権利変更はされますが、劣後的取扱いがなされることになります(民事再生法181条1項3号、2項)。
小問⑵は、再生債務者が継続的売買契約を解除した場合に、違約金条項に基づく契約相手方の違約金請求の可否を問うものです。Eとしては、再生手続開始前のA社との契約に基づく違約金請求権であり再生手続にて行使できると主張するでしょう。他方、A社による解除は双方未履行双務契約の解除と考えられます。そこで、A社としては、違約金条項に基づき一律かつ高額な違約金を定める本件違約金条項は、再生債務者に解除権を付与した民事再生法49条の趣旨に反するから、本件売買契約の即時解除には適用されないなどと反論することが考えられます。いずれの結論もありえますので、論理的に自分なりの結論を論じることが求められます。参考判例として、東京地裁平成28年12月9日決定(金融商事判例1515号36頁)が挙げられます。
選択科目(租税法) 公開:2025年11月11日
本年度の試験においても、国税通則法を含む租税法全般を対象として、基本的な理解を問う出題がなされています。所得税法の出題が中心的になされており、法人税法の出題が例年と比較して少ないという点がやや特徴的ではあるものの、条文操作・基礎知識・判例の理解を問う設問がバランスよく出題されていること、回答すべき事項が明確に指示されていることなどから、出題傾向・出題形式は概ね例年通りであるといえます。難易度については、例年通りと考えられます。
総収入金額には、本件土地の売買代金額である3500万円が算入されます。この点、Aは令和4年中に手付金300万円を受領していますが、問題文②記載の法的性格に照らすと、売買代金に充当された時点(令和5年)において所得実現ないし権利確定が認められます。なお、本件では時価譲渡の擬制はありません(所59条1項2号参照)。
取得費には本件土地の取得価額である3000万円が(所38条)、譲渡費用には100万円がそれぞれ算入されます。
そこで、Aとしては、更正の請求(通23条1項1号)を行うことが考えられます。
そして、この300万円は、Bの債務不履行に対する損害賠償金としての法的性格を有することから、対価性が認められず(資産譲渡の対価ではない。)、一時所得に分類されます。
Aの令和2年分の確定申告を通じて過大徴収額の精算を行うことができれば便宜的であるようにも思えますが、この方法は認められないというのが所得税法の建前です(最判平成4年2月18日)。
このように、趣味・娯楽に関する損失については、消費という所得の処分的性格から、損益通算を認めないこととされています。
選択科目(経済法) 公開:2025年11月11日
第2問は、私的独占(独占禁止法2条5項、3条前段)、取引拒絶(一般指定1項2号)、拘束条件付取引(一般指定12項)、排他条件付取引(一般指定11項)、取引妨害(一般指定14項)等を検討することが考えられますが、事実関係を丁寧に分析し、市場に与える影響を踏まえ、的確に論じることが求められる問題です。
第1問及び第2問のいずれも、分析すべき内容の難易度が高いため、答案の型を守りつつ、応用的な問題意識を含め、自身の検討結果をしっかりと整理して論じられるかが合否の分かれ目になるのではないかと思われます。
⑴ 行為要件について
入札に参加するのは販売業者9社であることから、まず、「他の事業者」又は「相互に…拘束」の要件において、メーカー9社、卸業者Y社及び販売業者9社が、それぞれ違反行為の主体となるのかを説得的に論じることが求められています。
他方で、「共同して」の要件については、本件取決めがなされたことをもって認められることを、端的に論じることになるでしょう。
⑵ 効果要件について
「一定の取引分野」については、メーカー9社、卸業者Y社及び販売業者9社により、取引段階を超えて行われた入札談合であることを踏まえ、的確に論じることが求められます。
「競争を実質的に制限する」については、メーカー9社のシェアが合計約9割であること、入札談合の結果9割の落札に成功していること、落札できなかった残り1割はY社がアウトサイダーの入札価格を見誤ったものにすぎないことなどを指摘し、論じることになるでしょう。
「公共の利益」については、入札談合は受注機会の均等化等を目的としたものであることなどを指摘し、端的に認定することになります。
⑶ 違反行為の終了時期
X2社(Z2社を違反行為者と認定している場合にはZ2社も検討対象になり得ます。)については、令和5年12月7日以降、本件取決めに基づく行動を取らなくなったため、同日以降は違反行為から離脱したといえるかが問題となります。離脱の有無については、東京高判平15.3.7(岡崎管工事件)を参考に規範を定立し、説得的に論じることが求められます。
他方で、X2社以外のメーカーらについても、令和6年6月28日の公正取引委員会の立入検査により違反行為が終了することを認定することが求められます。
なお、違反行為の終了時期を認定するにあたっては、前提として違反行為の成立時期を認定する必要があります。
⑷ 課徴金について
Y社を違反行為者とする場合には、Y社に対する課徴金の有無及びその金額の算定過程を明らかにして検討することが求められています。
算定基礎については、Y社の「違反行為対象商品…の売上額」(独占禁止法第7条の2第1項1号)が10億円であることを認定することが考えらえれます。
算定率については、Y社は受注予定者を決定する役割を担っていたことから、「継続的に他の事業者に対し当該違反行為に係る商品…に係る対価…取引の相手方について指定した者」に当たり、通常より5割加算した算定率(1.5)を適用することが考えられます。
⑴ 各行為の分析的な評価について
X社は、(a)Zを通じて全国一律の価格でαの供給を行っていたところ、Zに対して、Y社製αについて、地域ごとに価格に差を設けた取扱いに応じないようにさせる行為、(b)Y社が低価格販売をしようとした地域(本問における「両地域」(以下「両地域」といいます。))の需要者に対し、Y社からαの供給を受けないようにさせる行為、(c)Yがαの利用に必要な新型γを製造・供給し始めたところ、需要者に対して、明確な根拠もなく、「新型γではX社製αは利用できない。」と説明し、新型γの供給を受けないようにさせる行為に及んでいます。各行為を単独で見ると、(a)は拘束条件付取引、(b)は取引拒絶、拘束条件付取引又は排他条件付取引、(c)は取引妨害等により検討することが考えられます(以下各行為を併せて「本件行為」といいます。)。
私的独占の問題では、後述のとおり、「排除」行為該当性の検討の中で、不公正な取引方法に該当する行為があるか否かが考慮要素の一つとなります。そのため、論述の枠組みとしては、①本件行為が不公正な取引方法に該当するか否かを検討した上で、更に私的独占まで認められるか否かを検討する流れ、②私的独占を検討する枠組みの中で、不公正な取引方法を指摘する流れ、の2パターンがあります。もっとも、本問は、本件行為が、Y社の参入阻止や全国一律の価格でのαの販売の継続を狙った共通の目的による一連の行為と評価し得ることなどから、①の枠組みよりも、②の枠組みの方が論じやすく、かつ、より事案の実態にも即した検討ができたのではないかと思われます。
⑵ 私的独占について
ア 行為要件
「排除」行為とは、正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性ある行為であり、他の事業者の事業活動を継続困難にし、又は新規参入を困難にする効果を有するものをいいます(NTT東日本事件(最高裁判決平成22.12.17)、JASRAC事件(最高裁判決平成27.4.28)参照)。
「正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性ある行為」については、本件行為の不公正な取引方法への該当性を指摘することに加え、本件行為が、X社の唯一の競争者として新規参入してきたY社の参入阻止や全国一律の価格でのαの販売の継続を狙ったものであると考えられることなどを指摘して論じることが考えられます。
他方で、「事業活動を継続困難にし、又は新規参入を困難にする効果」については、本件行為の結果、Y社製αの両地域における販売が難しくなり、販売数や売上が想定より下回ることとなったことなどを指摘して論じることが考えられます。
イ 効果要件
「一定の取引分野」については、X社もY社も、全国を12の地域に分割し、αの製造販売を行っていることから、各地域に市場が分割されるか否かを説得的に論じることが求められます。αは製造後に利用できる時間が短く、一つの製造拠点から配送可能な範囲が限定されていることを踏まえ、需要の代替性、供給の代替性の有無を検討するとともに、本件行為が両地域を対象として行われていることも指摘して論じることが考えられます。
「競争を実質的に制限する」については、Y社が新規参入するまで、X社はαを製造販売する唯一の業者であり市場支配力を有していたこと、本件行為によりY社製αの両地域における販売が難しくなり、販売数や売上が想定より下回ることとなったことなどを指摘し、X社が市場支配力を維持、強化したといえるかを説得的に論じることが求められます。
最後に、「公共の利益」についても、一言触れる必要があるでしょう。
選択科目(知的財産法) 公開:2025年11月11日
第2問も基本的な部類に属する問題でした。過去問を研究していた受験生にとってはある程度のことが書けたのではないかと推察されます。
⑴ Xの主張の当否について
技術的範囲の解釈:本件出願の特許請求の範囲には「物質A及び物質Bからなる合金」と記載されていますが、明細書では「物質B」として適切なのは「物質b1」のみであり、「物質b2」は不適当とされています。この記載に基づけば、特許請求の範囲の「物質B」は「物質b1」を意味するものと解釈されます。
新規性喪失の拒絶理由:特許審査官が指摘した新規性喪失の拒絶理由に対し、Xは「物質Bは物質b1を意味する」と主張し、補正なく特許査定を受けています。したがって、本件特許請求の範囲において「物質B」は「物質b1」に限定されていると見るべきです。
結論:Y1製品は「物質A及び物質b2からなる合金β」であるため、本件特許請求の範囲には含まれません。よって、Xの主張は当たらないと考えられます。
⑵ 特許法第104条の3第1項の抗弁について
主張の内容:Y1は、本件出願の6か月前に公表された論文に「物質A及び物質b2からなる合金β」が記載されており、これが先行技術として存在することを主張できます。これにより、新規性の欠如を主張します。
妥当性:この主張は妥当です。先行技術が存在することで新規性が否定されるためです。また、物質b1と物質b2が物質Bの下位概念であるため、特許請求の範囲に物質b2が含まれていれば新規性の欠如が認められる可能性が高いです。
⑶ Xの論文による影響について
Xの主張:Xは、自身の論文が公知技術として存在するため、新規性を主張することが難しいと考えられます。
Y1の主張の妥当性:Xの論文が存在することで、Y1の主張の妥当性がさらに補強されます。Xの論文は、物質A及び物質Bからなる合金が公知技術であることを証明するものであり、本件特許請求の範囲に新規性がないことの根拠となります。
結論:Xが自身の論文を発表している場合、特許法第104条の3第1項に基づくY1の抗弁が妥当であり、本件特許の新規性の欠如を主張することができます。
XのY3に対する販売停止請求について
Y3の反論:Y3は、Y2が通常実施権を許諾されていることを知っていたが、10万トンの上限については知らなかったため、「善意の第三者」として保護されるべきだと主張するでしょう。
実施権の範囲:Y2製品が10万トンの範囲内で製造されたものと追加で製造されたものを区別することが困難なため、Y3が譲り受けた製品が許諾範囲内の製品かどうかを判断できません。
結論:XはY3に対して販売の停止を請求できますが、Y3が善意の第三者であることを主張する場合、その請求が認められるかどうかは裁判所の判断に委ねられます。
〔第2問〕
Dの行為がBの著作権を侵害するかどうかについて検討します。著作権法上、建築物は著作物として保護されます(著作権法第2条第1項第1号)。Bが設計したA図書館は創作性のある建築物であり、Bに著作権が認められます。Dが自店舗の外壁や屋根をA図書館と同じ形に改築する行為は、Bの著作権の複製権(著作権法第21条)を侵害する可能性があります。複製権は、著作物を無断で複製する行為を禁じるものであり、Dの改築行為がA図書館の特徴的なデザインを模倣しているため、Bの著作権を侵害する行為とみなされる可能性が高いです。
2 設問2
⑴ BはDに対し、著作権侵害を理由として差止請求や損害賠償請求を行うことが考えらます(著作権法第112条、第114条)。Dの絵はがきβは、A図書館の特徴的な屋根や外壁を明瞭に写しており、これはBの著作権である著作物の無断複製に該当する可能性があります。撮影された建築物が公共の場に恒久的に設置されたものである場合、著作権法第46条により一部の利用が許容されることがありますが、絵はがきの販売は営利目的であり、この条文の適用範囲を超える可能性があります。
⑵ Cは、Dが販売する絵はがきβに絵画αが写っていることを問題視し、著作権侵害を理由に販売停止を求める訴訟を提起することができます。Cの主張は、絵画αが無断で複製され、販売されている点に基づきます(著作権法第21条)。Dは、絵はがきに写っている絵画αが小さく、一部であることを理由に「引用の適用」(著作権法第32条)を主張するかもしれませんが、この主張は妥当でない可能性があります。なぜなら、引用の要件である「主従関係」が成り立たないためです。絵はがきの主たる内容がA図書館であり、絵画αが付随的に写っている場合でも、独立した著作物としての著作権侵害が成立する可能性が高いです。
3 設問3
A市がA図書館の屋根の一部を撤去する工事を計画している場合、Bは著作者人格権の一つである同一性保持権(著作権法第20条)に基づき、工事の差止を請求することが考えられます。同一性保持権は、著作物の内容や形状の無断変更を防ぐ権利です。A図書館の屋根の特徴的な部分を撤去することは、Bの意図したデザインを大きく損なうものであり、この権利の侵害に該当する可能性があります。したがって、BはA市に対して工事の中止を求めることができるでしょう。しかし、公共の利益や建物の使用価値向上などの観点から、A市の計画が正当化される場合、Bの請求が認められない可能性もあります。裁判所は、著作権者の権利と公共の利益のバランスを考慮して判断することになります。
選択科目(労働法) 公開:2025年11月11日
論文本試験の労働法の設問については、第1問が個別的労働関係に関する出題であることは一貫しています。これに対し、第2問については、集団的労働関係に関する出題されるか、もしくは個別的労働関係に関する論点と集団的労働関係に関する論点との融合問題が出題される傾向にあります。本年度については、第1問は、例年通り、個別的労働関係に関する出題がされ、第2問では、集団的労働関係に関する出題がなされており、出題の領域(個別法か集団法か)という点については、従前からのオーソドックスな形となりました。労働法の設問領域については、近年、第2問について集団的労働関係法だけでなく、個別的労働関係法との融合問題が出題される、あるいは第2問の小問の一部に、集団的労働関係法ではなく、個別的労働関係法からの出題がなされる等、集団的労働関係法のウェイトが下がる出題形式となる年度もありますが、少なくとも集団的労働関係法に関する出題が全くなされないといった例はなく、集団的労働関係法の領域の学習についても、一定の注力が必要であることは、今後も変わらないものと思われます。
なお、近年は、比較的直近に注目される裁判例が示されているテーマや、学会で注目されているテーマがしばしば出題される傾向にあります。今年度については、後述するように、比較的古くから議論があるオーソドックスな論点からの出題が中心となっているものの、第一問では、近年、注目すべき下級審裁判例が散見され、学会においても実務においても議論となっている、いわゆる「スタッフ管理職」をめぐる問題を念頭に置いた出題がされています。昨年度は派遣労働における団体交渉義務、労働協約の規範的効力の限界、と一昨年度の第2問目では、2018年に改正が行われたばかりのパート有期法(しかも、2020年秋の最高裁判決で論点の1つとなった、賞与に関する格差)が問われる論点が出題されており、以上のような傾向からすれば、受験生としては、直近の法改正や議論となった(下級審判決を含む)裁判例、ここ最近(5~10年程度で)学界で議論となっている論点や、重要な最高裁判例が示された論点については、今後とも、重点的にフォローをしておく必要がありそうです。
他方で、全体的にみた場合には、今年度の出題も、昨年度と同様、比較的オーソドックスな論点からの出題が中心となっており、一昨年度までの数年間にみられた、特定の出題委員が執筆した体系書においてのみ言及されている論点や、特定の出題委員が近年精力的に議論を行っている論点が出題されるといった極端な傾向は薄れているようです。
なお、出題される論点それ自体はオーソドックスな論点ではあるものの、当該論点についてどのような法的な問題があるのか、どのような議論がある(あり得る)のかといった、各論点についての理論的な理解が適切になされていないと、十分な回答が難しい問いが中心となっている点も、昨年度に引き続きの傾向と言えるかと思います。以前の労働法の試験では、事例中における事実関係を適切に抽出し、あてはめをおこなう能力が問われる、いわば「あてはめ力」勝負と言ってもいい出題が多くみられました。これに対し、近年は、当該論点についての一定以上の法理論的な深い理解や、応用力がなければ対応することが難しい出題が増えているように思います。このような近年の傾向からすると、(むろん、あてはめについての技術的なトレーニングも必要ではあるものの)個々の論点についてのきちんとした理論的な理解や、応用的な考察力を高める学習が、今後はより重要となってくるかもしれません。
①設問1について
設問1は、直接的には時間外労働に係る割増賃金の請求が問題とされていますが、事例の「1」部分の記載から、要するにⅩが労働基準法41条2号にいう、いわゆる「管理監督者」に該当するか否かが問われている設問だと言えます。
労基法41条2号所定の「管理監督者」が統制については、古くから議論されている重要論点であるだけに、論点としてなんとなく把握している受験生は少なくないと思います。他方で、「管理監督者」該当性判断については、最高裁判例などで定式化された基準が存在するわけではありません。下級審判決においても、学説や行政解釈においても、どのような要素を重視するかについては、考え方が微妙に分かれており、それは「管理監督者」がなにゆえに労働時間規制から除外されるのか」をどのように理解するのか(経営との一体性(+部門管理者としての責任)ゆえに労働時間規制になじまない(いわゆる機密管理者・秘書と同様の理由) and/or 自身の業務の裁量性・専門性および管理的な立場にあることの帰結としての労働時間決定に関する裁量 and/or 割増賃金の支払いを必要としない程度の高い処遇)に関わってきます。したがって、標準以下の解答と、高評価となる回答との第一の分かれ目は、「管理監督者に係る労働時間規制の適用除外の趣旨」をきちんと示したうえで、それを踏まえた形で判断基準を提示できているか、ということになるでしょう。この点を理解し、表現できていない答案は、結局、規範の定立(判断基準の提示)についてもあてはめについても、単なる根拠の薄い羅列となってしまい、得点が伸びないものと思われます。第二のポイントは、いわゆる「スタッフ管理職」の「管理監督者」該当性という比較的新しい論点をめぐる議論をきちんとフォローできていたかという点にあろうかと思います。教科書・体系書レベルではまだそれほど深く触れられていませんが、近年、本問で示されたような、いわゆる「スタッフ管理職」が、労働基準法41条2号所定の「管理監督者」に該当するかをめぐっては、裁判例が相次いでおり、こうしたスタッフ管理職の増加という企業実務の変化と相まって、議論が多い論点になっています(沼田雅之「経営上の重要事項の企画立案を担当する管理職従業員の管理監督者性-日産自動車事件」(ジュリスト1544号)など参照)。このスタッフ管理職の取扱いについては、行政解釈上、管理監督者にあたり得ることは示されている一方、その判断基準(特に、従来用いられてきたライン管理職にかかる判断基準がそのまま適用され得るのか)については明らかにされておらず、学説上も、スタッフ管理職については緩やかに管理監督者該当性を認めるべきとする学生がみられる一方、そもそも、ライン管理職とは性格が違う以上、判断基準も異なる(例えば、労働時間決定に係る裁量等を重視すべきとする)見解も存在します。これに対し、下級審裁判例は、これまでのところ、従来のライン管理職対する判断と同様、経営との一体性を重視して判断する傾向にあります。上記の通り、そもそも「管理監督者」該当性自体についてさえ、判例による明確な基準が示されていない以上、答案においてどのような判断基準を示したとしても、論理的に妥当する構成であれば差し支えないとは考えられますが、上記のようなスタッフ管理職に係る議論を踏まえているか否かによって、答案の論理性や説得力には大きく差が出たものと予想されます。近年、裁判例等において議論が高まっている論点について、その議論状況をきちんとフォローしておくことの重要性が示された設問と言えるでしょう。
まず、本件においてXに賞与が支給されなかったことが、就業規則50条の定め(いわゆる支給日在籍要件)によること、Xが不支給となった「評価対象期間」にはY社に在籍し、勤務していたことが確認できます。そこで、「評価対象期間」には在籍していたにも関わらず、支給日に在籍していないというだけで、賞与の支給対象としないことが許されるのか、という点が問題となります。この点、判例が支給日在籍要件につき直ちに違法・無効とはしていないことは、少なからぬ受験生は承知していると思いますが、まずはここまでをきちんと説明できることが出発点です(なお、支給日在籍要件が許容される理由づけも説明できることが望ましいでしょう)。問題は、支給日在籍要件自体が直ちに否定されるわけではない一方、その適用が認められない場合があることも判例で明らかになっている(会社都合による支給日延期の事案)ことです。そこで、次のステップとして、本件のように、使用者から(懲戒)解雇された結果、支給日に在籍できなくなった場合についてはどうか、という点を検討する必要があります。この点は、学説上は議論が分かれており、解雇による退職は労働者の選択の余地がないものである以上、支給日在籍要件の適用は認めないとする見解と、(懲戒)解雇による退職は労働者に責のある退職事由であるので、支給日在籍要件を適用して賞与を不支給とすることも許容されるという見解に分かれています。いずれの見解も論理的には成り立ちうるものですし、この点(解雇と支給日在籍要件との関係)についての最高裁判例はありませんので、いずれの立場で論じたとしても、そこは問題にならないでしょう。重要なことは、何が問題となるのかを正確に指摘すること(ここでは、(懲戒)解雇の有効性は問題となっておらず、あくまでも、支給日在籍要件の適用が許容されるかの問題です)と、いずれの結論をとるにせよ、その根拠を的確に説明できることかと思われます。
③設問3について
ここでは、まず退職金の法的性質がどのような者かについて論じておく必要があります。これについても、様々な議論はありますが、一般的には賃金の後払い的性質と厚労法相的な性質を併せ持つとされており、そのことを、Y社における退職金制度の内容からきちんと説明しておくことが、最初のポイントと言えるでしょう(本件Y社の退職金制度は、かなりざっくりとした制度なので、厚労法相的な性格をどう裏付けるか、少々難しいところではありますが、勤続年数が一定数を超えたあたりから支給率が急激に上がる→長期勤続に対する高評価→金属による功労報奨的な性質を有するといった感じで説明する感じになるでしょうか)。
そして、Y社における退職金の性質を踏まえたうえで、懲戒解雇を理由とした退職金の不支給が認められるか(Xによる退職金の請求が認められるか)を検討することになります。この点、前提として、Y社における退職金が功労報奨的な性質がない(薄い)という評価を前提とするなら、懲戒解雇を理由とする不支給は認めにくいということになるでしょう。他方、Y社の退職金に、功労報奨的な性質を認めるという評価を前提とするなら、Xの懲戒解雇に係る事情が、在職中の功労を抹消するほどの重要なものであったかという、事実に対する評価の問題となります(なお、退職金に、退職後の生活保障的な性質を認める立場をとる場合、その点も考慮要素となるでしょう)。本件の場合、飲酒運転による人身事故を起こしたこと(重大な事由と評価できそう)、他方で、相手方は軽傷であること、勤務時間外(私生活上)の非行であり、勤務内容とは関係性の薄い非行である(例えば、自動車会社の労働者による自動車事故等ではない)ことは、在職中の功労への打撃を小さくする要素となり得ます。実名報道については、結果としてY社の社会的評価に重大な影響を与えたと評価し得る一方、報道自体はXのコントロールの及ばない領域の話であるとして評価の対象外とする理屈もあり得るでしょう。これらの事実関係から、在職中の功労を抹消するほどの重大な非行であったと評価できるかについて、論理的で説得力のある論証が展開できていたかが、評価の分かれ目となったかと思われます。
⑵ 第2問について
第2問は、労組法7条所定の不当労働行為の成否を問う、集団的労働関係に関して言えば非常にオーソドックスな出題となっており、かつ、後述の通り、集団的労働関係法の重要論点と、近年の最高裁を踏まえた出題となっていて、第1問に続き、こちらもあまり細かいところを問うたり、奇をてらったところのない出題となっています。まず基本的な前提として、設問に「労働委員会に不当労働行為の救済申し立てをすることを検討している」と記載されており、救済手続については、本問では問われていないことになります(もちろん、来年度以降、手続についての理解を問う出題がされる可能性もあるでしょう)。そのうえで、労組法7条2号の団交拒否を主張する立論およびその成否の検討、3号の支配介入を主張する立論およびその成否の検討が必要となります。立論にあたっては、設問中におけるY社のどのような行為が不当労働行為を構成しうるのかについても、具体的に示していくことが必要となるでしょう。
①労働組合法7条2号(団交拒否)について
労組法7条2号の団交拒否については、まず、手当の廃止に関するX組合との交渉において、Y社は交渉自体には応じています。そこで、これについて問題とすべきは、いわゆる誠実交渉義務違反の成否になろうかと思います。すなわち、「計算資料の外部非公表」等を理由として、「1枚紙の文書を示す」にとどめ、他の提出資料等がなかったこと等を問題とすることになるでしょう。これについては、いわゆる使用者に誠実交渉義務があること、およびその内容を根拠をもって説明したうえで、Y社による上記対応が誠実交渉義務違反となるか否かを評価すればよいでしょう。次に、令和6年4月中旬における6回目の交渉以降、団体交渉に応じていないことをもんだいとすることになるでしょう。これについては、Y社からの反論として、「業務手当の廃止はすでに適正な手続きを経て実施済みであり…今更交渉しても無意味である」との反論がされていることを踏まえて、団交拒否の成否を論じる必要があります。このような、すでに決定済み・実施済みの事項について、交渉を求める(応じる)権利(義務)があるのかという問題については、ごく最近の最高裁判決である山形大学事件(最高裁令和4年3月18日判決)で正面から論じられているところであり、同判決で最高裁が示した、団体交渉の意義(団体交渉義務の趣旨)を踏まえた形で論じることができているかどうかが、評価の分かれ目となるところかと思われます。
②労働組合法7条3号(支配介入)について
労組法7条3号の支配介入の主張については、X組合の主張を踏まえると、a. A組合とチェック・オフ協定を締結したこと(にもかかわらず、X組合とは締結しないこと)、b.A組合とユニオン・ショップ協定を締結したことを挙げる必要があるでしょう。加えて、当初、X組合とチェック・オフ協定を締結しなかったこと(これについてまっとうに交渉に応じなかったことにつき、7条2号違反の問題とすることも考えられるでしょう)も、組合の弱体化を意図した支配介入と主張することもあり得るかもしれません。また、Y社がA組合につき「従業員の利益を考える組合の出現を心から歓迎する」と述べたこと、ニューズレターに記事が掲載され、従業員に配布されたこと(組合の掲示板ではなく、従業員の掲示板を用いることができたこと)も、X組合弱体化の意図によるものとして支配介入と申立てる余地もありそうですが、前者については、発言自体はA組合との交渉でなされ、公然となされたものではないこと、後者についてはあくまでもA組合が主体となって行ったものであり、Y社が主導したとか、X組合との明確な差別的取り扱いをした事実も見当たらないことから、これ自体を取り上げて、支配介入と申立てるよりは、Y社によるX組合弱体化の意図をうかがわせる事情として取り上げるのがよいのかと思われるところです。
まず、aのチェック・オフ協定をめぐる問題については、当初のY社のについては、チェック・オフ協定と労働基準法24条の問題として検討するべきように見えますが、ここで問題となっているのは、最終的にA組合とはチェック・オフ協定を締結したにもかかわらず、X組合とはチェック・オフ協定を締結していないという、組合間差別(中立義務違反)の問題として論じることになるでしょう。なお、過半数組合がチェック・オフ協定を締結した場合、その労働基準法24条に係る適用除外の効力は、事業場全体に及ぶことになるため、少数組合もチェック・オフ協定を締結することが可能になる。したがって、当初Y社が当初示していた、「少数組合の場合は法律上も無理がある」の意味する「少数組合は過半数組合でない以上、チェック・オフ協定(労基法24条所定の適用除外協定)を締結できない」という主張は当を得ないこととなる。これらを指摘した上で、本件チェック・オフ協定に係る最終的な対応が、組合間差別(中立義務違反)による支配介入を構成することになると思われます。
これに対し、A組合とのユニオン・ショップ協定の締結については、判例の立場に沿うならば、Y社の主張する通り、その効力はX組合の組合員には及ばないことになり、A組合とのユニオン・ショップ協定の締結それ自体をもって、直ちに組合弱体化による支配介入を構成するものとは考えにくいところです。
結論として、支配介入の問題については、上記した、A組合とのチェック・オフ協定の締結を問題としたうえで、その他の事情については、Y社によるX組合の弱体化の意図をうかがわせる事情として用いるのが無難であると考えられます。
選択科目(環境法) 公開:2025年11月11日
第1問は、設問1は2021年の温対法改正の内容が問われています。設問2は、温対法にかかる法制度と伝統的な規制手法との関係の理解が問われています。設問3は、環境基本法等の条文知識や公害に関する理解が問われています。
第2問は、設問1は、廃棄物該当性及び業許可の関係が問われています。設問2は、廃棄物該当性と業許可の裁量の理解が問われています。設問3は、廃掃法の欠格事由に関する理解が問われています。設問4は、適正処理が行われない場合の対応の理解が問われています。
〔小問1〕は、地域脱炭素化促進事業計画の認定の手続を問う内容です。
〔小問2〕は、地域脱炭素化促進事業計画の認定の効果を問う内容です。同認定により、森林法上の許可があったものとみなされること(温対法22条の6)、自然公園法上の許可があったものとみなされること(温対法22条の8)、本件工作物とされる事業用電気工作物の設置(電気事業法38条)は環境影響評価法上の第一種事業であることから、環境影響評価法上の第一種事業の配慮書作成義務も省略されること(環境影響評価法3条の3第1項、温対法22条の11)等が考えられます。
〔小問1〕は、特定排出者に対する排出量算定・報告・公表制度における情報的手法を問う内容です。
〔小問2〕は、個別の事業者に対する排出量取引制度(キャップ・アンド・トレード制度等含む)における経済的手法を問う内容です。
シロクマ判決の知識があれば題意の把握がより正確となると考えられます。同判決の知識がなくとも、資料から、公害該当性が主要な争点となることに気付き、公害該当性を検討することが問われています。その際、「地球環境保全」(環境基本法2条2項)及び「公害」(同条3項)が分けて規定されていること等に言及することが考えられます。
なお、健康被害について言及できるとなおよいと考えられます。また、シロクマ判決の知識がなくとも、公害該当性に関する判断の枠組・基準を一定程度示すことができればなおよいと考えられます。
1 設問1について
魚の残渣等の産業廃棄物(廃掃法第2条第4項第1号)該当性及び調理くず等の一般廃棄物該当性の場合分けを問う内容です。また、C社が廃掃法施行令第6条の2及び第2条の基準に則り産業廃棄物の処理業の許可を得る必要(廃掃法第14条)があることを問う内容です。さらに、C社が一般廃棄物処理業の許可を要することを問う内容です(廃掃法7条)。加えて、C社が処理業に得ている既存の許可の範囲が限られ、本件工場に対応していないことを問う内容です。業許可における収集・運搬と処分の違いを踏まえるとなおよいと考えられます。
〔小問1〕は、カマボコ製造過程において発生する魚の残渣等の収集運搬に関する業の許可は産業廃棄物の業許可である一方、甲社の社員食堂から出た残飯等の収集運搬に関する業許可は一般廃棄物の業許可であることを問う内容です。そして、一般廃棄物の業許可は、産業廃棄物の業許可の場合(廃掃法第14条5項、10項)と異なり、一定の裁量が認められていること(廃掃法第7条5項)を問う内容です。
〔小問2〕は、取消訴訟の原告適格を問う内容です。また、一般廃棄物処理業について、専ら自由競争に委ねられるべき性格の事業ではないとの考え方を問う内容です。
〔設問3〕は、欠格要件を問う内容です。まず、役員該当性を問う内容です。また、その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由の有無等を問う内容です。
4 設問4について
〔設問4〕は、適正処理が行われない場合の対応を問う内容です。
〔小問1〕は、マニフェスト制度を問う内容です。まず、産業廃棄物該当性を問う内容です。また、適正処理困難通知制度(廃掃法第14条第13項)を問う内容です。さらに、マニフェスト交付者たる甲社による適切な措置を講じる義務(廃掃法第12条の3第8項)を問う内容です。
〔小問2〕は、汚染者負担原則を問う内容です。また、産業廃棄物管理票交付者としての対応を怠っていた甲社に対する措置命令(廃掃法19条の5第1項第3号へ)の検討が求められます。中核市の市長に命令権限があること(廃掃法第24条の2第1項)に触れることができればなおよいと考えられます。
選択科目(国際関係法〔公法系〕) 公開:2025年11月11日
2つ目のP共和国の国家承認の宣言については、尚早の承認に基づく反論ができます。領土、住民、政府という国家成立の3要件のうち、とりわけP共和国による領土の支配が確立していなかったと考えられ、その段階での国家承認は違法な干渉行為であるといえます。
国連憲章上、第7章に関する表決において、紛争当事国である理事国が投票を棄権すべきことは規定されていません。国連加盟国は、加盟時に、主権平等に反しうるこうした規定の欠如に同意している以上、主権平等を根拠として紛争当事国の非常任理事国による投票の棄権を義務づけることは難しいように思われます。現に、第7章に関するウクライナ戦争の審議に際しては、多くの国が、常任理事国ロシアに対して、拒否権の行使を控えるよう主張しましたが、拒否権(紛争当事国による反対投票)は妨げられませんでした。
なお、国際連盟時代は、理事会における紛争審査や制裁の決定においては、紛争当事国は表決から除外されることが規定されていました(国際連盟規約第15、16条)。現在の国連においても、ICJでは、平等性確保の観点から、一方当事国の国籍裁判官がいる場合には、他方当事国に特任裁判官の選定が認められています(ICJ規程第31条)。こうした諸規定に主権平等は内在していると考えられる以上、明文規定がない限り、主権平等に基づく表決制度の例外を主張することは、難しいかもしれません。
また、ICJにおける紛争解決も考えられます。ニカラグア事件によれば、安保理は紛争の政治的解決を、ICJは法的解決を導く機関であり、同時に同一問題を取り扱えると考えられます。ただし、ICJで審理するためには、何らかの管轄権の基礎が必要となります。その他、経済社会理事会や人権理事会等における理事国資格の停止や非難などの圧力もありうるでしょう。グテーレス事務総長とプーチン大統領の会談や、レインボーウォリア号事件等に触れつつ、事務総長による仲介等を求めることも考えられます。
本問では、B国は海洋法条約の締約国でないため、第97条の内容が一般慣行と法的信念に基づき慣習法化していることに触れたうえで、B国による管轄権行使が当該慣習法に違反するとA国が主張することが考えられます。
同時に、干渉にも該当しないと反論できます。武力行使が禁止された今日において、干渉とは、命令的ないし強制的介入のことをいいます。いかなる行為が命令的かの判断は難しいですが、A国が行ったODAの停止は、報復(retorsion)の典型例です。報復は、それ自体国際法に違反しない非友好的な措置をとることで、相手国の履行を迫る、紛争の強制的解決手段です。報復は一般に認められているため、干渉には該当しないといえるでしょう。他方で、国連憲章第2条4項違反の主張は、武力が行使されていない以上、武力による威嚇を意味するものと考えられます。A国の「必要な全ての手段を用いる」との発言は、湾岸戦争時の武力行使容認決議と同じ表現であり、武力行使(による威嚇)を連想させます。ただし、この表現は、PKOなどでも頻繁に用いられており、比例性原則がはたらくことに留意する必要があります。つまり、必要な手段は、(相手の行為の中止等の)目的を達成するために必要な範囲内に限定されるため、相手が武力行使をしていない場合には、武力行使を含みえません。そうであれば、A国は、この表現をもって武力による威嚇とはいえないと反論できるでしょう。
賠償については、原状回復(第35条)、金銭賠償(第36条)、満足(第37条)の順に考えます。まず、原状回復として、A国民XやA国船αの解放を求めるべきでしょう。また、違法な抑留等に対する金銭賠償も求められると考えられます。本問では、損害が発生しているため、原状回復と金銭賠償で違法性は払拭されうると考えられます。そのため、陳謝等の満足については、主張はできると思いますが、B国に受け入れられないかもしれません。
選択科目(国際関係法〔私法系〕) 公開:2025年11月11日
昨年と同様に、今年の「国際関係法(私法系)」の問題は、第1問が国際財産法、第2問が国際家族法に関するものでした。問われていた内容は基本的な事項でしたが、解答量が多かったのではないかという印象を持ちました。第1問と第2問それぞれへの配点も、50点ずつでした。
〔設問1〕
〔小問1〕
⑴ 日本の民事訴訟法によって、日本の国際裁判管轄権の有無を判断することになるため(「手続は法廷地法による」の原則)、まずは、同法の管轄原因の存否を検討することになります。本問では、Yの日本の営業所と、訴え1との関わりがあまりないとも言えるため、同法3条の3第4号(営業所所在地管轄)及び5号(事業活動地管轄)の管轄原因が存在するかの検討において、特に、訴え1が「業務に関するもの」と言うことができるかについて、論じる必要があると思われます。管轄原因が存在すると結論する場合には、同法3条の9の特別の事情があるかについて論じることも必要になるでしょう。
なお、同法3条の3第3号(財産所在地管轄)については、同号括弧書の「その財産の価額が著しく低いとき」に該当するため、同号の管轄原因はないと説明すればよいでしょう。
⑵ まず、本問では、契約の準拠法について、明示の選択も、黙示の選択もないことから、その準拠法は、法の適用に関する通則法(以下、「通則法」)8条によって決定されることを説明する必要があります。そして、同条2項によれば、特徴的給付の理論により、日本法が最密接関係地法(1項)と推定されることを説明しなければなりません。その上で、本問の状況においては、この推定が覆り、甲国法が最密接関係地法(1項)となるかを論じればよいでしょう。
〔小問2〕
消滅時効の準拠法に関しては、(a)甲国法が民事訴訟法に規定するように、訴訟法上の制度と考える見解、(b)日本法が民法に規定するように、実体法上の制度と考える見解に分かれることを最初に説明する必要があります。その上で、どちらの見解によるべきかを論じた上で、通説である後者による場合には、甲国法による旨の明示の選択があることから、通則法7条より、甲国法によることを説明することになります。それによれば、Yの主張が認められることになりますが、その甲国法を適用した結果が、通則法42条の公序条項に該当するか、私見を論じればよいでしょう。
〔設問2〕
仲裁法によれば、仲裁地が日本国外である場合も含めて(3条2項)、仲裁合意の対象となる民事紛争について、裁判所に訴えが提起されたとき、その裁判所は、被告の申立てがあれば、その訴えを却下しなければなりません(14条1項本文)。
乙国を仲裁地とする仲裁合意条項がある本問で、裁判所が同法14条1項本文により訴えを却下するかを判断する際には、訴え2が、「仲裁合意の対象となる」ものであるかが問題となり、その準拠法が問題となります。(a)最判平成9年9月4日(民集51巻8号3657頁:リングリングサーカス事件判決)や、(b)仲裁地が乙国である一方で、本件契約の準拠法が甲国法であることをふまえると、仲裁合意の準拠法(効力)は甲国法となるため、訴え2は仲裁合意の対象となると論じ、裁判所は訴え2を却下したことを説明することになります。
〔第2問〕
〔設問1〕
〔小問1〕
まずは、養子縁組の成立は、ADの縁組とBDの縁組に分けて考えることを指摘しなければなりません。
そして、ADの縁組については、通則法31条1項によって、養親Aの本国法である日本法(前段)に加えて、セーフガード条項が適用される事項(子の承諾等)については、子の本国法である乙国法が累積的に適用されます(後段)。したがって、ADの縁組については、甲国法は適用されず、乙国法は、セーフガード条項が適用される範囲で適用されると説明すればよいでしょう。
他方、BDの縁組については、同項によって、養親Bの本国法である甲国法(前段)に加えて、セーフガード条項が適用される事項については、子の本国法である乙国法が累積的に適用されることになる(後段)ことを、いったん説明しなければなりません。その上で、同項前段によって指定される甲国法に関しては、同法41条本文の反致が成立するので、日本法が適用されることを説明する必要があります。以上より、BDの縁組についても、甲国法は適用されず、乙国法は、セーフガード条項が適用される範囲で適用されると説明すればよいでしょう。
乙国法が適用されるのは、セーフガード条項が適用される事項についてのみですので、実親との親族関係が断絶する縁組が乙国法に存在しないことは、縁組の成立に影響しないことに注意しなければなりません。
〔小問2〕
⑴ BDの縁組については、通則法31条1項によって、養親Bの本国法である甲国法(前段)に加えて、セーフガード条項が適用される事項については、子の本国法である乙国法が累積的に適用されます(後段)。したがって、甲国法②を満たすことが要件となります。甲国法②は、日本法上の特別養子縁組の成立の審判(家事事件手続法164条)で代行できることを説明すればよいでしょう。
⑵ ADの縁組とBDの縁組では、セーフガード条項により、養子の本国法である乙国法上の要件を満たさなければなりません。本問では、乙国法③が、このセーフガード条項の対象となる事項かについて論じることになります。セーフガード条項の対象となる事項であると考える場合には、乙国法③によって養親子関係が成立しない結果になるので、乙国法の適用が、通則法42条の公序条項に該当するかについて論じることが必要になるでしょう。
〔設問2〕
〔小問1〕
はじめに、録画により遺言を行うことができるかは、「遺言の方式」の問題であると法性決定されることを指摘しなければなりません。そして、その準拠法は、通則法ではなく(通則法43条2項本文)、「遺言の方式の準拠法に関する法律」によること(同法律1条)を説明する必要があります。その上で、同法律2条では選択的連結が採用されており、行為地法(1号)である丙国法の要件を満たす(同法律8条の公序条項にも該当しない)と考えられることから、録画により遺言をすることができる旨を説明すればよいでしょう。
〔小問2〕
通説では、遺留分に関する問題は、通則法37条1項ではなく、同法36条によると考えられており、法性決定において、この点に関する私見を論じる必要があります。その上で、Cの遺留分減殺請求は、前者による場合には、Bの遺言時の遺言者の本国法、後者による場合には、Bの死亡時の被相続人の本国法である甲国法によることを説明すればよいでしょう。
現在調査中です。判明次第、公開いたします。






