2025年予備試験論文本試験(選択科目)講評
令和7年11月
辰已法律研究所 教材編集部
倒産法 公開:2025年11月7日
小問⑴では、本件抵当権が別除権に該当すれば破産法65条1項によりB銀行の担保不動産競売手続開始の申立てが認められることになるので、別除権に該当するかが聞かれていました。基本的な論点からの出題でした。
小問⑵では、別除権付破産債権者の破産債権の行使方法及びその届出方法が聞かれました。不足額責任主義と見込みの不足額を届け出るといったことを条文を示して説明することになります。こちらも基本的な問題でした。
設問2も破産法からの出題で、破産手続き開始決定と係属中の訴訟手続との関係が聞かれておりました。①訴訟においては、訴訟手続きが中断する(破産法44条1項)ことは、それほど難しくないですが、その後訴訟はどうなるかといったところは、条文を探せるかが重要でした。②訴訟は、異議等のある破産債権を有する破産債権者は、どのような申立てができるかといったことが聞かれておりまして、これも条文を探せるかが重要でした。
設問3は、破産手続開始決定後に、民事再生手続開始の申立てがなされた場合の手続きが聞かれました。民事再生法の手続問題でありかつあまり聞いたことのない論点からの出題でございましたので、比較的難易度が高かったと思われます。①は民事再生法の趣旨から現場で考えることになり、②は、条文を見つけられれば何とかなる問題でした。
普段の勉強から条文を意識することが重要といえます。
1 ⑴について
Bは、本件貸付債権6000万円から回収見込みの額の4000万円を控除した、2000万円を不足額と見込まれる額として届出をすることになります。
1 ①の訴訟について
①の訴訟は、A社を当事者とし、またC銀行のA社に対する消費貸借契約に基づく貸金返還請求権という「破産債権」(2条5項)に関する訴訟です。44条1項の「破産財団に関する訴訟」には「破産債権」に関する訴訟も含まれますので、①の訴訟は、「破産財団に関する訴訟」(44条1項)に当たり中断します。
そして、「破産債権」に関する訴訟については、当該破産債権が債権調査の手続で争いなく確定した場合は、その訴訟手続はそのまま終了し、受訴裁判所は訴訟終了宣言判決を致します。
①の訴訟の対象であるC銀行がA社に貸し付けた債権は、破産管財人Xが認め、他の破産債権者からの異議も出ていないため、破産債権として確定します(124条1項)。そのため、①訴訟は、破産手続との関係でそのまま終了するという影響を受けます。
2 ②の訴訟について
②の訴訟の対象債権である、D社のA社に対する売掛債権は、破産管財人Xが認めていません。
このように異議等のある破産債権を有する破産債権者は、異議者等の全員を相手方として、裁判所に破産債権査定申立てをすることができます(125条1項)。ただし、破産手続開始当時訴訟が係属する場合は、破産債権査定申立てをすることができません(125条1項但書)。そして、異議等のある破産債権に関し破産手続開始当時訴訟が係属する場合は、破産債権者は異議者等の全員を被告として、訴訟手続の受継の申立てをしなければなりません(127条1項)。そのため、D社は、②訴訟についてXを被告として、訴訟手続の受継の申立てをすることになります。
以上から、②訴訟は、破産手続との関係で被告を変えて受継されるという影響を受けます。
設問3(条文は民事再生法)
1 ①について
破産手続開始決定、民事再生手続開始の申立てがなされた場合、「必要があると認めるとき」は、利害関係人の申立て又は職権によって、破産手続の中止命令が発せられます(26条1項1号)。ここで、「必要があると認められるとき」とは、民事再生法の趣旨である事業の再建を図る必要がある場合をいうと考えられます。
本件では、破産手続開始の申立前から破産者Aによる事業再生計画案の立案が遅れていますし、A社に粉飾決算の疑いや不明瞭な資金流出があり、これに対するA社からの具体的な説明はなされませんでした。また、B銀行に対する借入金元本の弁済期限が到来したにもかかわらず、A社は特段の対応をとろうとしませんでした。
そのため、事業の再建を図ることは困難であり、先行する破産手続のもと、破産管財人Xが財産を管理する方が、債権者の保護になります。そのため、破産手続を中止する必要はないと考えられます。
したがって、Aの破産手続は、そのまま続行されます。
2 ②について
次に、破産手続開始決定後、再生手続開始決定がされた場合ですが、この場合、破産手続は中止します(39条1項)。
また、再生手続が終了すると破産手続は続行されますが、再生計画認可決定が確定すると破産手続は失効します(184条本文)。もっとも、再生計画認可決定確定後に再生手続が廃止(193条、194条)又は取消決定(189条1項)が確定(同条6項)したときは、裁判所の職権による破産手続開始決定がされます(250条2項)。
租税法 公開:2025年11月7日
A社は、令和元年中に甲1不動産の売却・引渡しを完了していることから、売却額8000万円が同事業年度の益金の額に算入されます(法22条2項、22条の2第1項、4項)。そして、これに対応する売上原価として、取得額7000万円が同事業年度の損金の額に算入されます(法22条3項1号)。
なお、上記取得額は時価よりも低額ですが、Bにおいて時価譲渡が擬制されないこと(所59条1項2号参照)との平仄から、法22条2項の適用上、A社においてその差額1000万円を取得時に受贈益として認識することにはなりません。
この点、近い将来において乙マンションを譲渡した際の譲渡所得に係る譲渡費用(所33条3項)として扱われるのではないかが問題となりますが、判例によれば、譲渡費用の該当性は、現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断されます(最判平成18年4月20日)。本件の事実関係によれば、譲渡を目的として解体がなされたものではないことから、譲渡費用には該当しないと考えられます。
しかるに、「固定資産」(所2条1項18号)である乙1不動産については、所38条1項及び2項に従い、建物部分の取得価額である1000万円から、所49条1項に基づく償却費累積額である150万円を控除した金額、すなわち850万円が、取壊しによる損失の金額となります(所51条5項、令142条1号)。
よって、所51条4項に基づき、損失を考慮する前の不動産所得の金額である100万円(=400万円-解体費用300万円)の限度で、取壊しによる損失の金額を必要経費に算入することが認められます。
経済法 公開:2025年11月7日
知的財産法 公開:2025年11月7日
設問2
Yは本件特許権について無効の抗弁を主張することになる。検討すべき無効理由として、先願について確認した上で、拡大先願の検討をすることになる。
出願βは出願αより先に出願されているものの、拒絶査定が確定していることから、先願の地位を有しないことを明らかにし、拡大先願の検討を行うことになる。
労働法 公開:2025年11月7日
設問1
1 本問では、Xが本件労働契約上の労働時間である1日7時間を超えて労働した時間について割増賃金を含む賃金請求が認められるかが問題となっています。問題文にもあるように、本件では「具体的な金額を示す必要はない。」とされてますので、通常の賃金計算や割増賃金の計算をするのではなく、Xが稼働した時間が労働時間に該当するか否かという点を具体的に検討し、最後はXの主張が認められるどうか結論を示しましょう。
2 本問では、大星ビル管理事件(最判平成14年2月28日)を想起できたかどうかが重要なポイントになります。まずは、かかる判例が示す「労働時間」(労働基準法(以下「労基法」とする)32条)の定義をきちんと書きましょう。その上で、「労基法上の労働時間に該当するか否かは、…使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる」という上記判例の判断基準を明確にすることが重要です。
本問で特徴的なのは、①レストランAの営業時間前の準備時間と営業終了後の片付けの時間の合計1時間と、②就業規則上、休憩時間とされた午後2時から午後5時までの3時間にXが稼働していた事情がそれぞれあることです。就業規則上の休憩時間(午後2時から午後5時)と本件閉店時間(午後2時から午後5時30分)に時間のズレがあったので、どの時間帯をピックアップして書くか迷う受験生もいたと思いますが、Xは、1時間分の通常の労働時間に対する賃金と、3時間分の割増賃金(労基法37条)を請求する訴えを提起しているので、①②の時間帯に分けて書けば十分だと思います。いずれにしても、Xが店長Bの指揮命令下にあったかどうかにつき、具体的問題文の事情を使って検討することが最重要ですので、あてはめで差がつかないように反対事情も使いながら検討しましょう。最後は①②が労働時間に該当するか否かの結論を示してください。
3 ①②が労基法上の労働時間に該当しても、本件では1日7時間とする労働契約に基づいてXの賃金が定められていることから、①②が労基法上の労働時間に該当するからといって、直ちに労働契約上の賃金請求権が発生するわけではありません。
もっとも、大星ビル管理事件(最判平成14年2月28日)は労基法上の労働時間の判断に続けて、「労働契約は労働者の労務提供と使用者の賃金支払に基礎を置く有償双務契約であり、労働と賃金の対価関係は労働契約の本質的部分を構成しているというべきであるから、労働契約の合理的解釈としては、労基法上の労働時間に該当すれば、通常は労働契約上の賃金支払いの対象となる時間としているものと解するのが相当である」としています。この判例に従い、本件でも①の時間帯の賃金請求は認められると考えるのが自然と思われます。また、②の時間については労働契約の合理的解釈をしても労働契約上はあくまで休憩時間と位置づけられて無給になりそうですが、本件休憩時間は労基法上の労働時間と位置づけられるならば、労基法上の労基法13条の適用により、労基法37条違反として、同法所定の基準が補充されるので、結果として、②の時間帯についても労基法13条及び37条に基づいて割増賃金の請求ができると思われます。
設問2
本問は、Xの割増賃金の請求に対して、職務手当の支給で弁済済みとするY社の主張が認められるかが問題となっています。この点については、高知県観光事件(最判平成6年6月13日)や日本ケミカル事件(最判平成30年7月19日)が参考になります。
割増賃金に代えて、本件のように職務手当を支払うことも、労基法に従って計算される割増賃金額を下回らない限り適法になります(労基法13条、同法37条)。もっとも、法律上必要な割増賃金の額を計算できるようにするため、当該手当が割増賃金に代わる趣旨のものであると認められ(対価性)、かつ、通常の賃金にあたる部分と区別することができることが必要になります。本件では、就業規則の定めや労働契約書の記載内容に着目しながら、具体的事実を拾って、Y社の主張が認められるか自身の結論をだせばよいと思います。
環境法 公開:2025年11月7日
設問2は、水濁法上の届出や計画変更命令といった手続的規制の理解が問われています。
設問3は、排水基準不適合のおそれが生じた場合の水濁法上の法的措置が問われています。
設問4は、環境訴訟における損害賠償請求の要件論が問われています。
3 〔設問3〕は、排水基準不適合のおそれが生じた場合の法的措置を問う内容です。
排水基準違反のおそれがある場合での、A県知事のD社に対する改善命令、一時停止命令(水濁法第13条1項)が問われています。
排水基準違反のおそれの要件に着目した未然防止原則への言及、改善命令違反への罰則(水濁法第30条)への言及の他、排水基準違反への罰則(水濁法第12条、31条1項1項1号、2項)との対比への言及もあればなおよいと考えられます。
4 〔設問4〕は、環境訴訟における損害賠償請求の要件論を問う内容です。
まず、養殖魚全滅については、養殖業者GのD社に対する不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償請求の法的構成が挙げられます。要件をみたすことを端的に示すことが求められています。
また、住民らの生命・身体に害が及んだ場合の損害賠償請求訴訟と比較する際、法益侵害の内容の違い、立証の負担の違いに着目し、さらには、生命・身体への健康被害の損害や因果関係の立証の困難さと比較検討することが考えられます。
水濁法の排水基準違反がどの要件と関わるのか、過失や違法性との関係を指摘できるとなおよいと考えられます。
国際関係法〔公法系〕 公開:2025年11月7日
1 設問1について
現在民間企業で勤務するXの外交官時代の過去のスピーチに対して、外交特権免除が及ぶか否かが問題となります。まず、人的免除として、外交官は任務遂行中の行為か否かにかかわらず、刑事裁判権からの免除を享有します(外交関係条約第31条1項)。また、時間的範囲として、外交官の特権免除は、接受国を去る際に消滅しますが、任務遂行に当たって行った行為の裁判権免除は、特権免除消滅後も存続します(同第39条2項)。この「任務遂行に当たって行った行為」は、公務そのものに限定されず、公務に向かう途中の交通事故なども含まれます。
本問において、Xは現在外交官ではありませんが、外交官時代に行ったスピーチは、「外交官として行ったスピーチ」であることが問題文からわかります。そのため、当該スピーチは、人種差別の扇動にあたるか否かにかかわらず、「任務遂行に当たって行った行為」として、退任後も刑事裁判権免除の対象となります。B国大統領がA国によるXの起訴が外交関係条約違反であると述べたのは、この裁判権免除が根拠となります。
2 設問2について
一見設問1と重複する出題であり、解答に窮したかもしれません。本問では、刑事裁判権免除も関係し得ますが、Xと異なり外交官Yは逮捕されているため、第一義的には身体の不可侵が問題となります(外交関係条約第29条)。外交官の身体の不可侵は絶対的な免除のため、いかなる理由でも逮捕・抑留は認められません。
また、外交関係法は、自己完結レジームとされます。外交官による違法な諜報活動に対しては、逮捕ではなく、ペルソナ・ノン・グラータの通告を行うのが外交関係法上の第一義的な対応といえます(同第9条)。それでも派遣国が当該外交官を召還しなかった場合には、国外退去命令や外交関係の断絶などの措置で対応をとるべきであると考えられます。いずれにせよ、Yの逮捕は自己完結レジーム外の行為として、外交関係法上否定されると反論できます。
3 設問3について
国際司法裁判所(ICJ)は、国連憲章に基づき許可を与えられた団体から要請された場合に、勧告的意見を付与することができます(ICJ規程第65条1項)。国連憲章第96条によると、総会と安保理は、いかなる法律問題についてもICJに諮問することができます(第1項)。また、総会の許可を得た国連の他の機関と専門機関も、その活動の範囲内において生ずる法律問題についてICJに諮問することができます(第2項)。
国際機関Pは、総会と安保理ではないため、国連憲章第96条2項に該当する団体であることが求められます。問題文で、Pは国連とは別の国際機関であるとされているため、「国連の他の機関」(経済社会理事会等)ではなく、国連の専門機関であることが条件となります。また、α条約の不明確な規定の意味が、Pの活動の範囲内の法律問題であることも条件となります。
より正確には、国連の専門機関でない国際原子力機関(IAEA)も、1957年の総会決議1145(XII)で承認された国連・IAEA関係協定第10条1項に基づき、ICJへの勧告的意見の諮問が許可されています。IAEAは、国連とは独立した国際機関ですが、同協定により国連総会及び安保理と協力関係に立つ特殊な機関です。この先例に従えば、国連・P関係協定の締結により、PがICJに勧告的意見を諮問することが許可される可能性はありますが、予備試験でここまでの解答は求められないように思います。
国際関係法〔私法系〕 公開:2025年11月7日
難易度としては、これまでの予備試験と同様に、基礎的な内容の問題であったと言うことができると思いました。
⑵ 本問は、プライバシー権侵害に基づく損害賠償請求の準拠法を問うものです。プライバシー権侵害に基づく損害賠償請求の準拠法は、法の適用に関する通則法19条によると考える見解(中西康=北澤安紀ほか『国際私法[第3版]』(有斐閣、2022年)250頁、松岡博編『国際関係私法入門[第4版補訂]』(有斐閣、2021年)133頁等)と、同法17条によると考える見解(小出邦夫編著『逐条解説法の適用に関する通則法[増補版]』(商事法務、2014年)224頁等)があります。これらの見解を踏まえて、私見を論じながら法性決定をした上で、同法19条又は17条によって、適用される法を導き出すことが必要になります。さらに、同法20条にも当てはめて、明らかにより密接な関係がある他の地があるかを検討しながら、準拠法を決定していくことになります。






