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2025年司法試験本試験論文式試験 講評

選択科目(倒産法)  公開:2025年11月7日

【本試験の分析(辰已法律研究所作成)】
 
1 はじめに
 本年度倒産法の第1問は、破産法からの出題でした。破産財団に関する訴訟手続といえるか否か、否認権の種類、否認権行使の可否及び否認権行使の効果(価格償還請求の基準時)といった破産法の基本項目に関する出題がなされました。
 第2問は、民事再生法からの出題でした。民事再生法においては原則として管財人が選任されないことの趣旨、再生債務者が果たすべき義務、管理命令の申立ての可否、再生手続廃止決定後の破産手続きへの移行、再生手続廃止決定後の再度の再生手続開始の申立ての可否という、現場思考が試される部分から出題がなされました。
内容としては、第1問は基本的な問題でございましたので、それほど難易度は高くなかったかもしれませんが、客体や時期などの比較を求めておりましたので、その点をうまく出せたかがポイントとなりました。
 第2問は手続的な問題でありかつ勉強が手薄な部分からの出題でございましたので、比較的難易度が高かったかもしれませんが、落ち着いて条文から考えれば十分に回答可能でした。条文を見つけられたかが重要であったと思われます。
 
2 問題文
 
3 本問の分析
〔第1問〕
1 設問1について
 本問は、破産者を当事者とする破産財団に関する訴訟手続き(破産法44条1項)に該当するかの問題です。破産財団に属する訴訟とは、破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産たる破産財団(破産法34条1項)に属する訴訟をいいます。
 ⑴の訴訟は、破産者AのBに対する不法行為に基づく損害賠償請求であるので、破産者が破産手続き開始時において有する財産といえ、破産財団に当たります。そのため、当該訴訟は中断します。⑴の訴訟は、「破産債権に関するもの」ではないので、破産管財人たるXが受継することになります(破産法44条2項前段)。受継の申立てはBも行うことができ(破産法44条2項後段)、Xは受継を拒絶できません。
 ⑵の訴訟は、破産者AがEに対して慰謝料を請求するものでございます。慰謝料は差押禁止財産(34条3項2号)に当たるため、債務名義の成立などで金額が客観的に確定した場合には、「破産財団」にあたります。⑵の訴訟は、第一審裁判所に継続中であり、慰謝料の金額が客観的に確定していないため、破産財団に当たりません。そのため、訴訟手続きは中断せず、継続することになります。

2 設問2について
小問⑴について
 破産管財人Xは、162条1項1号により否認することが考えられます。
 まず、令和5年1月から3月までにAがなした弁済ですが、Aは令和4年6月以降、C及び消費者金融への返済を怠っているため支払不能にあたります。もっとも、令和4年11月にAはC及び消費者金融2社と和解をなしているので、Aは支払不能から回復したといえます。そのため、Xは否認をすることはできません。
 次に、令和5年4月以降にAがなした弁済ですが、令和5年4月以降は、Aは本件和解契約で定められた弁済をなしていないため、支払不能が認められます。Cは、Aが支払不能であったことを知らなかった(162条1項1号イ)と反論することが考えられますが、Cへの弁済も隔月になっていたことからCは支払不能であったことを知っていたといえます。従って、Xは否認をすることができます。
小問⑵について
 現金20万円についてですが、否認権が行使された場合、破産財団について原状回復義務が生じます(167条1項)。ただ、無償行為否認(160条3項)の場合は、Dは現存利益を返還すれば足ります(167条2項)。
 Aは令和4年6月以降、C及び消費者金融への返済を怠っていますが、これと本件遺産分割協議とは因果関係がございませんので、支払停止前6カ月以内にした無償行為とはいえません。無償行為否認とはいえませんので、現金20万円を請求することになります。
 次に、本件土地についてですが、破産管財人Xは、本件土地の返還に代えて価格の償還を請求できます(価格償還請求)。
価格償還請求をする際の価格の算定基準時ですが、否認権の行使によってはじめて財産が破産財団に復帰し、管財人の処分も可能になることから否認権行使の時と考えます。従って、Xは300万円の2分の1の150万円を請求することになります。
 
〔第2問〕
1 設問1について

小問⑴について
 民事再生法は、事業を維持・継続しながら、事業の再生を図る「再建型」の手続ですので、管財人は選任されず再生債務者が事業を継続して財産を管理することが認められております(民事再生法38条1項)。もっとも、再生債務者は、公平かつ誠実に、業務の遂行や財産の管理をする義務を負います(民事再生法38条2項)。
小問⑵について
 管理命令は、「再生債務者の財産の管理又は処分が失当」であるときに求められます(民事再生法64条1項)。
 事業譲渡において上記の要件が認められるか否かは、譲渡価格だけでなく、雇用関係や取引先との関係などから将来の事業の継続性を踏まえて考慮することになります。本件でD社は、B社よりも譲渡価格の点では優位するが、雇用関係や取引先との関係ではB社が優位します。またB社の信用や本件借入れなどの点からも将来の事業の継続性が認められます。
 従って、「再生債務者の財産の管理又は処分が失当」とはいえず、管理命令の申立ては棄却されます。

2 設問2について
 再生手続廃止決定後決定確定前の場合
 再生裁判所に当該再生債務者についての破産手続開始の申立てをすることができます(民事再生法249条1項前段)。
 再生手続廃止決定後決定確定前の場合
 裁判所は、破産手続開始原因事実があると認めるときは、職権で、破産手続開始決定をすることができます(民事再生法250条1項)。
 
3 設問3について
 まず、再生手続廃止決定確定後の再度の再生手続開始の申立てが許されるかで問題になりますが、これを禁止する条文がなく、再生計画が認可された場合でも、新たな再生手続開始の決定がされることも予定されていること(190条1項)から許されます。
 次に、本件の再度の再生手続開始の申立てが、25条4号の「不当な目的」ないし「誠実にされたものでない」にはあたるか検討します。
この要件は、以前の再生手続廃止決定がなされた事情を踏まえて、判断することになります。
 前回の再生手続廃止原因となった主な理由は、B社の事業譲渡価格がD社よりも低かったことが挙げられます。もっとも、B社は、今回事業譲渡価格をD社と同額の1億5千万円に引き上げております。そのため、本件の再生手続開始の申立ては、「不当な目的」ないし「誠実にされたものでない」に該当しません。
裁判所は、再生手続開始の決定をすることができます。
 
4 的中情報★★★
 現在調査中です。判明次第,公開いたします。

選択科目(租税法)  公開:2025年11月7日

【本試験の分析(辰已法律研究所作成)】
 
1 はじめに

 本年度の試験においても、所得税法・法人税法に関する基本的な理解を問う出題がなされています。問題文の分量が例年よりも多いという特徴はあるものの、所得税法の出題を中心として、条文操作・基礎知識・判例の理解を問う設問がバランスよく出題されていること、回答すべき事項が明確に指示されていることなどから、出題傾向・出題形式は概ね例年通りであるといえます。難易度についても、概ね例年通りであると考えられます。

2 問題文
 
3 本問の分析
 以下では、条文を示すに当たり、所得税法を「所」、所得税法施行令を「所令」、法人税法を「法」とそれぞれ略記します。
 
〔第1問〕
1 設問1
 雑損控除(所72条1項)の適用の有無を検討することになります。同項によれば、「生活に通常必要でない資産」(所62条1項、所令178条1項各号)が適用除外とされていることから、本件車両がこれに該当するのかが問題となります。具体的には、所令178条1項2号該当性について、サラリーマンマイカー事件判決(最判平2・3・23)を踏まえた上、本問の具体的事情を当てはめていくことになります。

2 設問2
 本件奨励金が所23条ないし33条の所得分類に該当しないことは明らかであり、一時所得又は雑所得が候補となります。この点、本件奨励金は、最長5年間にわたり継続的に交付を受けるものであることから、一時所得の要件である「一時の所得」(所34条1項)に該当せず、雑所得(所35条)に該当することになります。

3 設問3
 まず、いわゆる違法所得であっても課税対象となるかが問題となります。所得税法は包括的所得概念を採用していると解されること(所36条1項参照)や、届出義務違反をもって民泊に係る私法上の契約の効力が否定されるものではないと解されることを踏まえれば、Aの収入は課税対象となります。
 次に、その所得分類については、不動産所得、事業所得又は雑所得が候補となります。この点、Aの民泊に係る収入は役務提供の対価を含むものであることから、不動産所得(所26条)には該当しません。そうすると、事業所得(所27条)と雑所得(所35条)との区別が問題となるところ、関連する裁判例に照らすと、社会通念に照らして対価を得て継続的に行う事業と称するに至る程度の規模のものといえるかどうかを検討すべきことになります。本問の具体的事情を当てはめれば、「事業」とは認められず、雑所得に該当することになります。
 
4 設問4
 以下のとおり、いずれの支出も設問3の所得の金額の計算には影響がありません。
①:必要経費(所37条1項)の要件である業務関連性ないし必要性を欠くため、必要経費には該当しません。
②:必要経費あるいは本件別荘の取得費(所38条1項)のいずれに算入されるのかが問題となります。事実関係の詳細が必ずしも定かではありませんが、支出の時期や目的に照らすと、取得費に算入されるものと考えられます。
③:罰金を必要経費に算入することは認められません(所45条1項7号)。
 
〔第2問〕
1 設問1
 本問の1000万円は、法22条3項2号の「費用」に該当するものであるところ、その内容・性質からすれば、法37条7項かっこ書にいう「その他これらに類する費用」に該当するため、寄附金には該当しません。
 そこで、次に、いわゆる債務確定基準に照らして年度帰属を検討すべきことになります。この点、令和6年1月中の贈呈が具体的給付原因事実であることや、対象期間満了までは金額に変動が生じ得ることから、令和5事業年度における1000万円全額の損金算入は認められません。
 
2 設問2
 役務提供の益金算入時期(年度帰属)は法22条の2第1項、2項に従って判断されます。本問の事情のもとでは、令和6事業年度において7500万円が益金算入されることはなく、令和7事業年度において、実際の宿泊実績に応じた金額が益金算入されることになります。
 
3 設問3
 所得の年度帰属は権利確定主義に従って判断されます(所36条1項参照)。Cは令和5年中に当選しているものの、令和6年1月の贈呈をもって旅行に係る権利(A社に対する具体的な請求が可能な法的地位)を確定的に取得したとみることができるため、その年度帰属は令和6年分と考えられます。
 また、所得分類については、対価性のない一時の所得であることから、一時所得(所34条)となります。
 
4 設問3後段
 社外取締役としての地位に基づく給付であれば給与所得(所28条)に該当しますが、アンケート回答時期や当選経緯に照らし、そのような要素が一切認められないと評価するのであれば、結論は変わらずに一時所得となります。

5 設問4
 前述の権利確定主義のもとでは、Dの経済的利益は、令和7年中に権利確定したものと認められ、同年分の所得として扱われます。
 また、その所得区分については、いわゆる借用概念論に照らせば、所24条1項にいう「配当」に該当せず、配当所得には該当しません(最判昭35・10・7参照)。結論としては雑所得(所35条)に該当することになります。
 この場合、雑所得の金額が20万円であるところ、本問の事情のもとでは、令和7年分の所得税の確定申告は不要です(所121条1項1号)。
 
4 的中情報★★★
 現在調査中です。判明次第,公開いたします。

選択科目(経済法)  公開:2025年11月7日

【本試験の分析(辰已法律研究所作成)】
 
1 はじめに
 第1問は、事業者団体規制(独占禁止法8条)について問う問題であり、事業者団体による構成事業者に対する行為が、どの市場に、どのような影響を与えるのかについて、2つの行為の違いを意識しながら分析することを求めた基本的な問題です。
 第2問は、拘束条件付取引(一般指定12項)等を検討することが考えられるところ、販売委託事業の特殊性を踏まえ、複数の市場への影響を的確に論じることが求められる問題です。
 第1問及び第2問のいずれも、昨年に比べ、難易度を抑えた基本的な問題になっているため、基本的な要件を忠実に論じられているか否かにより差が付いたのではないかと思われます。
 
2 問題文
 
3 本問の分析
〔第1問〕
 第1問は、事業者団体である協会が、構成事業者であるAの製造販売業者に対して、設問⑴では、乙市内の建築現場を運搬先に指定する需要者に対してAの特例取引を行うことを一切禁止する行為(以下「行為①」といいます。)、設問⑵では、甲県内における各基準料金を決定し、遵守させる行為(以下「行為②」といいます。)について独占禁止法上の問題点を分析する問題です。
 協会が事業者団体(2条2項本文)に当たることを、協会の設立目的等を適示し、端的に認定した上で、各要件を検討していくことが求められます。
 
1 設問⑴について
 行為①は、総会ではなく、幹事会で決定したものであるため、まず、事業者団体の団体としての決定に基づく「行為」(8条柱書)に当たることについて、規範を定立した上で、従来の幹事会の決定の運用に関する事実を適示して、論じることが求められます。
 その上で、行為①については、8条4号該当性を検討することが考えられます。
 行為①が、「構成事業者」の本来自由に行うことができる特例取引という「活動」を「制限」するものであることを認定した上で、「不当に」なされた行為といえるか、すなわち、公正競争阻害性が認められるかを論じることが求められています。
 公正競争阻害性を論じるにあたっては、行為①の影響が及ぶ市場を分析し、具体的にどのような影響があるのかを検討する必要があります。例えば、乙市内の建築現場を運搬先に指定する需要者を対象とした市場において、乙市内の建築現場からみて基準運搬時間を超える場所にしか工場を持たない会員の事業活動を困難にする影響があると考えることができるでしょう。
 加えて、行為①は、「Aの販売価格の下落に伴うAの品質劣化を回避して、合格標章への社会的信頼を維持するため」として行われており、正当化事由が認められるかについても論じることが求められています。目的の合理性、手段の関連性、必要性、相当性を分析し、正当化されるか否かを検討することとなります。

2 設問⑵について
 行為②は、行為①と異なり、総会で決定したものであるため、端的に「行為」(8条柱書)に当たることを認定した上で、8条各号該当性を検討することとなります。
 まず、行為②は、「構成事業者」が本来自由に決定できる各割増料金を協会が定めた価格に遵守させるものであるため、8条4号該当性を検討することが考えられます。また、行為②の結果、甲県におけるAの各割増料金は、約10%高止まりするようになっており、市場価格に影響しているため、8条1号該当性も検討することが考えられます。
 8条4号該当性については、行為①と同様、「活動」「制限」を認定した上で、公正競争阻害性を検討し、「不当に」なされた行為といえるかを論じることになります。
 8条1号該当性については、「一定の取引分野」を認定した上で、会員の割合や合算市場シェア、行為②の結果などを指摘し、「競争を実質的に制限」する行為といえるかを論じることになります。
 また、行為②は、「過小積載及び不使用返送の常態化」に伴う会員からの要請に基づくものであることを理由に、正当化されるか否かを論じることも求められるでしょう。

〔第2問〕
 第2問は、X農協が、β調達等のための融資に当たり、組合員が生産するαのうち、80%まではX農協に出荷することを条件として遵守させる計画(以下「本計画」といいます。)について、独占禁止法上どのように評価すべきかを論じる問題です。
 本計画は、融資取引に当たり、組合員が本来自由にできる取引先の選択を制限する条件を付けるものであるため、拘束条件付取引(一般指定12項)該当性を検討することが考えられます。
 拘束条件付取引を検討するにあたっては、まず、本計画が「拘束する条件」をつけるものといえるかどうかを、規範定立した上で、X農協以外に同等の低金利融資の貸手が見付からない状況であることを適示し、論じることが求められます。
 次に、本計画が「不当に」なされるものといえるかどうかについて、市場を画定した上で、市場にどのような影響を与えるのか、公正競争阻害性を検討することとなります。
具体的には、本計画は、甲地域産のαの販売委託事業について、商系業者の取引を奪うものであるため、甲地域産のαの販売委託事業市場において、排除型の公正競争阻害性を検討することが考えられます。また、販売委託手数料を軽減するなどしていた商系業者の取引を奪う結果、X農協は、従来の販売委託手数料での取引を続けやすくなるといえ、回避型の公正競争阻害性を検討することも考えられます。
 さらに、販売委託事業市場における販売委託手数料への影響が生じる結果、さらに、αの販売市場において、購入者への販売価格への影響が生じないか否かを検討することも考えられます。
 その上で、X農協は、「系統外出荷は全国でαを販売するためにX農協が行ってきた努力にフリーライド(ただ乗り)するものである」と考え、本計画をしているため、本計画が正当化されるかどうかも論じることが求められています。
 以上のように、拘束条件付取引について論じた上で、さらに、本計画が私的独占にも当たるか否かを検討することが考えられるでしょう。もっとも、本問では、本計画により、商系業者が排除されるほどのものなのかまでは判然とせず、また、αの販売価格への影響も、甲地域におけるαの売上高は全国で圧倒的な一位であるとはいえ、全国の売上高の25%と4分の1程度にとどまることなどから、私的独占を肯定するにはハードルが高いと思われます。そのため、私的独占については、コンパクトに論じれば足りると考えられます。
 それから最後に、本問は、計画段階の問題であるため、過去の司法試験の問題に照らすと、問題解消措置についても、一言論じておいた方がよいと思われます。例えば、条件とされているX農協への出荷量の割合を減らすなど、自分なりに考えて論じられていればよいでしょう。
 
4 的中情報★★★
 現在調査中です。判明次第、公開いたします。

選択科目(知的財産法)  公開:2025年11月7日

【本試験の分析(辰已法律研究所作成)】
 
1 はじめに
 第1問の特許法は、実質的に小問3つで構成されている。最初に特許権の効力を定める68条の
 「業として」の意義と特許権の効力が及ばない範囲としての試験のための実施(69条1項)における「試験」の意義が問われている。次に、実験装置に関する発明と69条1項の適用及び黙示的許諾を論じることが求められており、最後に、2条3項1号の「譲渡等の申出」の意義が問われている。
 第2問の著作権法では、設問1で要約引用の妥当性が問われており、設問2では、同一性保持権の間接侵害の成否が問われている。
 
2 問題文
 
3 本問の分析
〔第1問〕
⑴ Y1の行為1については、農薬Pの後発品である農薬Rを生産する行為が2条3項1号の「生産」にあたり、実施に当たることを認定した上で、本件特許権1の存続期間経過後に製造販売する計画で、農薬取締法所定の審査登録に必要な試験をするために、生産した行為が「業として」に該当するかを論じる必要がある。
 「業として」に当たるとした場合、次に、Y1からの抗弁として69条1項を挙げ、「試験」に農薬取締法所定の審査登録に必要な試験が含まれるかを検討する必要がある。膵臓疾患治療剤事件最高裁判決を踏まえて解答することが求められている。
⑵ Y2の行為2については、装置Qを輸入し、使用している行為が「実施」に該当することを認定した上で、Y2からの抗弁として、69条1項と黙示的許諾をあげる必要がある。
 69条1項では、実験装置の使用が69条1項の対象となる場合というのは、実験装置に関する特許技術についての検証試験などの場合であって、その実験装置を使って別の特許技術の試験をする場合は含まれないことを指摘する必要がある。
 黙示的許諾については、BBS最高裁判決を踏まえた論述を展開することが求められている。本問では商品やパッケージではなくウェブサイトに無断輸出・無断使用禁止の表示がされていることの評価をする必要がある。
⑶ Y1の行為3については、譲渡等の申出に当たるのかが問われている。特許権の存続期間経過後にする譲渡の申出を特許権の存続期間中にする行為をどのように評価するかを述べる必要がある。具体的には、⑴で取り上げた膵臓疾患治療剤事件最高裁判決が「特許権存続期間中に、薬事法に基づく製造承認申請のための試験に必要な範囲を超えて、同期間終了後に譲渡する後発医薬品を生産し、又はその成分とするため特許発明に係る化学物質を生産・使用することは、特許権を侵害するものとして許されないと解すべきである。」と指摘しているが、「生産・使用」ではなく、「譲渡等の申出」である場合はどうか、という点が問われているものと考えられる。
 
〔第2問〕
設問1
 AはBに対して、Pに係る著作権侵害を理由に文章P´の削除を求めていることから、BによるPの利用行為を指摘する。BはPの要約としてP´を創作し、それをブログに掲載していることから、翻案及び送信可能化を挙げることができる。
 これに対して、Bは、これらの行為は引用して利用したものであると主張をすると考えられることから、引用に当たるかを検討することが求められる。また、BはPをP´に要約して引用していることから、要約引用の是非を検討した上で、結論を出すことが求められている。
設問2
 AがCに対して、動画Qに係る著作者人格権に基づく請求をする場合に考えられるものとして、同一性保持権侵害がある。そこで、AはCに対して、同一性保持権侵害を理由に損害賠償請求をすることが考えられる。
 しかし、Cは再生ソフトで動画Qを見ることを勧める書き込みをしただけであり、直接侵害を問うことはできないことから、幇助(間接侵害)の成否を検討することが求められる。ここではWinny事件最高裁判決をベースに論述をする必要がある。また、私的領域での同一性保持権侵害の成否についても言及をすることが望ましい。
 
4 的中情報★★★
 <全国公開模試>
・国際消尽と黙示の許諾論 ★★★

選択科目(労働法)  公開:2025年11月7日

【本試験の分析(辰已法律研究所作成)】
 
1 はじめに
 第1問は個別的労働関係についての事例、第2問は集団的労働関係についての事例となっており、例年通りの出題形式で比較的オーソドックスな問題でした。
 司法試験労働法の近年の問題傾向としては、発展的・応用的な問題が問われるというよりは、基本的知識が問われることが多いです。そのため、他の受験生と差がつかないようにするためにも、日ごろから基本書を読んだり、判例百選を読んだりすることが重要だと思われます。労働法は範囲が広く、基本的知識の習得まで時間がかかりますが、努力した分だけ点数に反映されやすい科目なので、選択科目だからといって、手を抜かず、きちんと取り組むようにしましょう。また、全科目共通することですが、設問で問われている内容をきちんと答えることが重要です。今年でいうと、第2問では、「労働委員会はどのような命令を発することになると考えられるか。」と聞かれているので、問題文の指示に従って労働委員会の命令内容まできちと書くことが高評価につながると思います。
 
2 問題文
 
3 本問の分析
〔第1問〕
 〔設問1〕はXの退職後の競業避止義務違反を理由として、Y社が定める退職金支給制限条項に従ってY社がXに支給した退職金の半分について不当利得に基づき返還を求める問題です。退職後の労働者に競業避止義務を課すためには、労働者の職業選択の自由や営業の自由(憲法22条1項)との関係から、契約上の根拠が必要になります。本件では、契約上の根拠として、本件条項が定められていますが、当該条項に合理性が認められなければ、本件条項は公序良俗に反して無効になるので(民法90条)、その有効性をまず検討する必要があります。合理性の判断基準は、「制限の期間、場所的範囲、制限の対象となる職種の範囲、代償の有無等」が参考になります(奈良地判昭和45年10月23日フォセコ・ジャパン・リミテッド事件参照)。本件条項の有効性を確認したあとは、本件条項違反がXにあったか否か、すなわち、Xに競業避止義務違反があったか否か、具体的事情を使ってあてはめればよいと思います。
 Xの競業避止義務違反が認められた場合、本件退職金支給制限条項の有効性が次に問題となります。まずは、退職金が「賃金」(労働基準法(以下「労基法」とする)11条)であることを確認し、退職金の減額条項は賃金全額払原則(労基法24条1項)に反しないことを指摘してください。細かい論点かもしれませんが、意外とこういうところにも点数がふられているので、基本に忠実に書くのが良いと思います。その上で、Xの行為について労働者の勤続の功を抹消してしまうほどの著しい背信行為があったか否かについて、具体的事実を使って検討する必要があります(東京高裁平成15年12月11日小田急電鉄事件参照)。検討の結果、Xに著しい背信行為があったと認められるならば、退職金の減額は有効であり、Y社がXに支給済みの退職金の半分は本件退職金支給制限条項に照らして法律上の原因がない支給になるので、その半分については不当利得に基づく返還請求(民法703条)をすることができます。いずれの結論に立っても自分の立場を明らかにして結論を導きだすことが重要です。
 〔設問2〕は、育児休業等取得に伴う「不利益な取り扱い」(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下「育介法」とする)10条)が問題になると考えられます。つまり、Xは育児休業等を取得する以前は、マネージャーという役職でしたが、育児休業等を取得した後はアソシエイトという立場で復職することになり、役職手当の支給もなくなっています。そのため、これらのY社によるXの取り扱いが「不利益な取り扱い」(育介法10条)に該当し、無効でないかを検討する必要があります。「不利益な取り扱い」(育介法10条)に該当するか否かについては、育介法の趣旨に鑑み、育児休業等の権利行使を抑止し、ひいては同法が育休の権利を保障した趣旨を実質的に失わせたと認められるか否かで判断します。これが認められる場合に限って、公序良俗に反し(民法90条)、無効となります。
 本件では、具体的事情を拾いながら、「不利益な取り扱い」(育介法10条)に該当するか否かを検討してください。その際、Xがアソシエイトとして復職することを受け入れたという事情をどのように評価するかが重要になります。
 
〔第2問〕
① Cに対する戒告処分について
 X組合は労働委員会に対し、不利益取扱い(労働組合法(以下「労組法」とする)7条1号)及び支配介入(労組法7条3号)を理由とする戒告処分の撤回命令及びポストノーティス命令をY社に行うよう求めることが考えられます。
 CはX組合の委員長であって、本件ストライキを指揮していたことがY社の就業規則で定める懲戒事由(「会社の風紀秩序を乱したとき」)に該当するとして、Y社から戒告処分を受けています。そのため、問題となったストライキ行為、つまり争議行為の正当性を検討する必要があります。争議行為の正当性は、主体、目的、手続、態様から判断します。本件争議行為の主体は問題なく、組合員の賃上げという義務的団交事項に関する要求の実現をY社に求めるものなので、目的も問題ありません。手続については、X組合とY社との間でストライキを行う場合は開始時刻の24時間前に通告する旨の協定があったにもかかわらず、24時間が経過する前にストライキを開始したことをどのように評価するかがポイントになります。また、本件ストライキの態様については、争議行為が団体交渉の促進手段であることに鑑み、平和的説得の方法を超えて行われたかどうか、具体的事実を拾いながら検討してください。
 検討の結果、争議行為に正当性があると判断した場合には、Cは「正当な行為をした」(労組法7条1号)にもかかわらず戒告処分を受けたことになるので、Y社による戒告処分は、「不利益な取扱い」(同条同号)に該当します。Y社には不利益取扱いの不当労働行為が成立するので、労働委員会は冒頭にある上記命令をY社に発することになります。また、このようなY社によるCの戒告処分はX組合を弱体化させるものとして支配介入(労組法7条3号)に該当するかどうかの検討も併せて書くとよいでしょう。

② Aによる意見表明
 X組合は労働委員会に対し、支配介入(労組法7条3号)を理由とするポストノーティス命令をY社に行うように求めることが考えられます。
 Aの意見表明はX組合のストライキ行動に対して向けられたものであるため、かかる意見表明がX組合に対する支配介入に該当するか否かを検討する問題だと考えられます。
その前提として、Aは総菜ラインの現場監督者という立場であるため、その意見表明は、「使用者」の「行為」(労組法7条柱書)といえるか、すなわち、Aが「利益を代表する者」(労組法2条1号)に近接する職位上の地位にある者による意見表明として使用者の体をして行ったか否かを忘れずに検討しましょう。
 そして、使用者の言論の自由(憲法21条1項)との関係で、「言論の内容、発表の手段、方法、発表の時間、発表者の地位、身分、言論発表の与える影響などを総合して判断し」(東京高裁昭和56年9月28日プリマハム事件参照)、当該意見表明がX組合に威嚇的効果を与え、組合の組織・運営に影響を及ぼすものか否か、判例基準を参考にしつつ、Y社に支配介入があったかどうかを検討すると好印象だと思います。
 検討の結果、当該意見表明に支配介入が認められれば、Y社に不当労働行為が成立するので、労働委員会は冒頭にある上記命令をY社に発することとなります。

③ 本件弁当代の支給について
 X組合は労働委員会に対し、支配介入(労組法7条3号)を理由とするポストノーティス命令をY社に行うように求めることが考えられます。
 本件弁当代の支給は総務部長Bから行われているので、②の検討と同様、「使用者」の「行為」(労組法7条柱書)にあたるかを検討するとよいと思います。
そして、本件弁当代の支給がX組合の弱体化につながるか否かという点や、支配介入意思の要否にも触れつつ、本件弁当代の支給がX組合に対する支配介入に該当するか否かを検討することが重要です。
 検討の結果、Y社の行為にX組合への支配介入が認められるならば、不当労働行為が成立するので、労働委員会は冒頭にある上記命令をY社に発することとなります。

 
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選択科目(環境法)  公開:2025年11月7日

【本試験の分析(辰已法律研究所作成)】

1 はじめに
 第1問の設問では、土壌汚染対策法の2017年法改正、届出制度、区域指定制度の理解、汚染者負担原則及び費用負担等が問われています。
 第2問は、設問1は、環境影響評価の要否に関する制度理解が問われています。設問2は、環境影響評価の制度趣旨・手続的理解が問われています。設問3は、取消訴訟の原告適格に関する理解が問われています。

2 問題文
 
3 本問の分析
〔第1問〕
1 〔小問1〕は、形質変更届出の制度理解を問う内容です。
 形質変更届出(土壌汚染対策法第4条第1項)の内容については、規模要件(同法施行規則22条で3,000㎡以上)、事前届出制(同法第4条第1項柱書)、土壌汚染状況調査命令の契機となること(同条第3項)等を挙げることが考えられます。
 この形質変更届出を要する理由は、砒素等の有害物質を使用した施設が存在した場合、掘削等によって有害物質が拡散するリスクがあり、事前にその情報を把握し適切な措置を講ずることで、健康被害の未然防止を図る点にあります。
 
2 〔小問2〕は、形質変更時要届出区域指定制度を問う内容です。
 砒素が環境基準を超えて検出されたが、健康被害が生ずるおそれがあるものとして政令で定める基準には該当しない場合、A県知事は形質変更時要届出区域(同法第11条)と指定することが考えられます。そして、形質変更時要届出区域は、要措置区域のように汚染の除去等の措置を要しないこと等を説明することが求められています。
 
3 〔小問3〕は、形質変更時要届出区域指定の効果を問う内容です。
 本問の事案は、地上5階建ての大規模トラックターミナル建設予定地であるため、土壌汚染対策法第12条の適用除外を定める同法第13条は適用されず、また、事前届出を不要とする特例(同法第12条第1項第1号事由)に該当しないと考えられます。そのため、形質変更をする者の事前届出義務(同法第12条第1項)、計画変更命令制度(同条5項)が挙げられます。
 
4 〔小問4〕は、自然由来汚染の場合の2017年法改正を問う内容です。
 基準不適合が自然由来による土壌を搬出する場合、届出等を経て、他の指定区域への移動も可能なこと(同法第16条第1項第7号、18条第1項2号)等が考えられます。
 こうした制度の理由は、基準不適合が自然由来による土壌は濃度が低くかつ同一地層に広く存在するところ、こうした土壌を区域外へ搬出する必要性に照らし、リスクに応じた規制の合理化を図ったことが挙げられる。
 
5 〔小問5〕は汚染者負担原則及び費用負担を問う内容です。
 土壌汚染対策法における汚染者負担原則(汚染者支払原則、原因者負担原則)(同法第8条第1項)に言及することが求められています。こうした考え方として、土地の公共性の高さを踏まえて、土地の危険源創設行為に責任を負わせる等に触れることが求められています。この考え方から同項が不法行為法の特別規定であるとの考え方、事後的な責任追及の考え方に触れられるとなおよいと考えられます。
 そして、求償の範囲は支持措置等の費用の限度であること等の理由を踏まえ、本問では他の対策方法を検討することもなかったという事情に触れて、甲土地の汚染土壌の掘削除去費用の全額請求の可否を論じることが求められています。
 
〔第2問〕
1 設問1について
 〔設問1〕は、環境影響評価の要否を問う内容です。
 〔小問1〕は、事業の立地等を考慮すること、具体的には、乙事業の対象地が、B県甲川流域保全条例の指定区域内であり、甲川の生態系や景観の保全が重視され、さらに、重要文化的景観の区域に隣接していること等から、環境影響程度の著しいおそれの有無等を検討することが求められています。スクリーニングに言及するとなおよいと考えられます。
 〔小問2〕は、第二種事業の類型が設けられた制度の理解を問う内容です。第二種事業の類型を設けることで、個々の事業特性、地域特性に応じ、個別の事業ごとに環境影響評価の必要性を判断する等の制度趣旨が問われています。
 
2 設問2について
 〔設問2〕は、環境影響評価の制度趣旨・手続的理解を問う内容です。
 〔小問1〕は、歴史的・文化的環境といった人工的環境要素は、環境基本法の射程外と解する考え方(環境基本法14条)、明示的には主要な評価項目として挙げられていないという考え方(環境影響評価法第2条第1項)がある一方で、人工環境と生活環境を関連付け、生活環境にかかる公害の定義(環境基本法2条3項)や「潤いのある豊かな生活環境」(景観法1条)等に着目する考え方の対比等が問われています。環境影響評価項目の環境要素の区分等についても触れることができればなおよいと考えられます。
 また、環境影響評価法61条の理解、同法と条例の理解も問われています。ナショナル・ミニマムの考え方等にもふれることができればなおよいと考えられます。
 〔小問2〕は、対象事業の目的及び内容等これから環境影響評価を行う方法を示し選定等する段階である方法書の段階と、環境影響評価の結果等を伝える準備書の具体的内容の対比から、個々の条文の規定に基づく具体的な対比が問われています。方法書の段階では、知事は、関係市町村長の意見を聴いた上で、提出された意見に配意しつつ方法書について環境の保全の見地からの意見を述べ、事業者はこの知事意見を尊重して環境影響評価の項目・方法を決定する一方、準備書の段階では環境保全措置の記載が求められる等の理解が問われています。
 また、条例による公聴会開催義務付けについて、環境影響評価法61条の理解、同法と条例の理解も問われています。
 
3 設問3について
 〔設問3〕は、許可処分の取消訴訟の原告適格を問う内容です。問題文の具体的事情を指摘しながら、許可処分の根拠法令の趣旨目的、当該許可処分において考慮されるべき利益の内容・性質、根拠法令と目的を共通にする関係法令の趣旨・目的、被侵害利益の内容・性質、害される態様・程度等に着目しながら論ずることが求められています。
 
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選択科目(国際関係法〔公法系〕)  公開:2025年11月7日

【本試験の分析(辰已法律研究所作成)】
 
1 はじめに
 第1問は条約法に、第2問は海洋法に特化した出題です。一昨年度は、近年の判例を問うやや難しい出題でしたが、昨年度は比較的平易となりました。今年度は、全体としては、六法を参照しつつ解答できる難易度の高くない出題と考えられます。他方で、第2問設問3は、近年の係属中の判例を前提とする出題と考えられ、引き続き判例研究が求められるものと思われます。
 
2 問題文
 
3 本問の分析
〔第1問〕
1 設問1について
 A国の大統領の行った通告は、寄託者である国連事務総長に対して行われており(社会権規約第26条2項、自由権規約第48条2項)、両国際人権規約の署名撤回の意思を示す正式な一方的行為といえます。実際の例として、アメリカ(2002年)やロシア(2016年)は、国際刑事裁判所規程の署名の撤回を、国連事務総長に通知しています。
 署名が拘束への同意となる条約(行政取極め等の簡易条約)もありますが(条約法条約第12条)、批准が拘束への同意となることを規定する条約(同第14条1項a)の場合、署名のみでは拘束力は発生しません。この場合、署名国は、条約の趣旨及び目的を損なう行為を慎む義務を負うことになります(同第18条)。本問の両規約は、批准を条件としているため(社会権規約第26条2項、自由権規約第48条2項)、A国大統領の署名撤回の通告は、条約法条約第18条上の義務から解放される意義を有します。
 
2 設問2について
 C国がB国の解釈宣言に異議を申し立てたのは、当該解釈宣言が実質的には留保にあたり、しかも条約の趣旨目的と両立しないと判断したためと考えられます。特定の条文の適用を排除するのが留保であり、解釈の幅のある条文に特定の解釈を示す宣言を解釈宣言といいます。留保の場合は、書面により表明し、締約国等に通報しなければなりません(条約法条約第23条)。
 また、留保は、条約が禁止する場合や条約の趣旨目的と両立しない場合には、付すことができません(同第19条)。さらに、留保に異議を申し立てた国が、留保国と条約関係に入ることに反対する場合は、当該条約全体が両国間で適用されないものと考えられます(同21条3項)。
 自由権規約に留保を禁止する条文はありませんが、C国はB国による第22条2項の解釈宣言を、条約の趣旨目的に反する違法な留保であると主張していると考えられます。検討にあたっては、日本の事例が参考になります。日本は、社会権規約第8条1項dの同業罷免(ストライキ)の権利に留保を付すとともに、同第8条2項及び自由権規約第22条2項の「警察」に「消防」が含まれるとの解釈宣言を行っています。こうした日本の姿勢について、公安職の公務員の結社の自由や労働組合への加入が広く制限されうる一方で、他の公務員に対しては、厳格な必要性と比例性に基づく制限のみが許容されうるとの見解が、社会権規約委員会等によって示されています。こうした点から、C国は、公務員全体に広く団結権を認めないB国の留保は、基本的人権を侵害すると主張していることが考えられます。
 
3 設問3について
 条約からの脱退は、脱退規定がある場合又はすべての締約国が同意する場合に認められます(条約法条約第54条)。しかし、自由権規約に脱退規定はなく、すべての締約国がD国の脱退に同意する可能性も極めて低いと考えられます。
 また、脱退規定がなくても、起草時に脱退の可能性が認められていた場合には、脱退が認められます(同第56条)。この点に関して、1997年の北朝鮮による脱退通告を受けて、自由権規約からの脱退は認められないとする自由権規約委員会の一般的意見26が同年に採択されました。それによると、自由権規約第41条2項が国家間通報制度を受け入れる宣言を撤回できる旨認めているのに、規約自体の脱退規定がないという事実が1つの証拠とされます。また、同時に採択された選択議定書や、前年に採択された人種差別撤廃条約が廃棄条項を設けていることと対比しても、自由権規約からの脱退を認める意図はなかったとされます。さらに、一度認められた人権は、締約国の意図にかかわらず、継続して国民に享受されるとされます。
 一般的意見26を知らなくても、条約法条約の条文を参照し、問題文で触れられている自由権規約第41条からヒントを得るかたちで解答することが求められます。
 
〔第2問〕
1 設問1について
 国際海峡における船舶の通航権に関する出題です。一般に、すべての船舶に国際海峡の通過通航権が認められます(国連海洋法条約第38条1項)。しかし、島と本土で構成される海峡であって、その島の海側に同様に便利な公海又は排他的経済水域の航路がある場合には、通過通航権は認められません(同項但書)。代わりに、そのような海峡においては、船舶は停止を伴わない無害通航権、すなわち「強化された無害通航権」を有することになります(同第45条)。
 本問においては、Ⅹ島からA国本土と反対の海側に12海里以上離れた水路があります。12海里という距離は遠く、一見不便にも思われますが、条文上距離は必ずしも基準になりません。問題文では、諸国の船舶は、Ⅹ海峡を航行することもあれば、当該水路を航行することもあったとされており、同様に便利な航路であることが推測されます。
 したがって、Ⅹ海峡において認められるのは、通過通航権ではなく、強化された無害通航権であると考えられます。
 
2 設問2について
 触雷による損害が、いかなる国際法違反に該当するかを問う問題です。コルフ海峡事件(1949年)では、アルバニアによる「自国が知っている危険について適当に公表する」慣習法上の義務の違反が認定されました。その後、当該義務は国連海洋法条約でも明文化されましたが、本問の国際法違反の根拠となる条文は、通過通航権の認められる海峡に関する第44条ではなく、領海に関する第24条2項であると考えられます。ただし、B国は国連海洋法条約の締約国ではないため、第24条2項と同旨の慣習法が責任追及の根拠と考えられます。
 また、国連憲章第2条4項に違反する武力行使や、主権侵害などの主張も理論上可能ですが、A国による機雷設置の証拠がないため、違反の認定は困難と考えられます。
 
3 設問3について
 国際海洋法裁判所(ITLOS)の管轄権を否定するために、本件が国連海洋法条約第298条1項bに基づく「軍事的活動に関する紛争」に該当すると主張することが考えられます。同条項に基づき、原告国のC国が軍事的活動の管轄権を受け入れない宣言をしている一方、被告国のA国はしていません。相互主義に基づき、相手国の宣言を援用できるかは明確ではありませんが、A国の主張としては、C国の宣言を援用して管轄権を否定することが考えられます。
 また、C国軍艦の通航が、軍事的活動に該当するかも争点となります。ITLOSの「ウクライナ軍艦抑留事件」暫定措置命令(2019年)と、仲裁裁判所の「ウクライナ軍艦・船員抑留事件」先決的抗弁裁定(2022年)では、軍艦の通航や拿捕は、軍事的活動ではなく法執行活動とみなされうると判断されています。ただし、いずれも本案前の暫定的な判断であり、また本問とは具体的な状況が異なります。
 これらを踏まえ、A国としては、両判例の暫定性を強調しつつ、C国軍艦の通航はX海峡における軍艦の通航を強制的に認めさせる軍事的威嚇であるため、法執行活動ではなく軍事的活動であると主張することが考えられます。
 
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選択科目(国際関係法〔私法系〕)  公開:2025年11月7日

【本試験の分析(辰已法律研究所作成)】
 
1 はじめに
 今年の「国際関係法(私法系)」の問題は、第1問が、労働契約に関する問い(50点)、そして、第2問が、失踪宣告に関する問い(50点)でした。第1問の労働契約に関する問いは、国際財産法に関するものと分類できますが、第2問では、国際財産法とも国際家族法とも分類できる失踪宣告に関して詳細に問われており、全体としてみると、国際家族法のウェイトは少なかったように感じました。国際私法・国際民事手続法・国際取引法の区分でいうと、今年は、国際取引法の分野からの出題はなかったということができるでしょう。
 
2 問題文
 
3 本問の分析
〔第1問〕

 〔設問1〕
 〔小問1〕
 まず、甲国裁判所を専属管轄裁判所とする①条項が効力を有するかを検討しなければならず、民事訴訟法3条の7第6項により、個別労働関係民事紛争が生じる前にされた国際裁判管轄合意は、同項1号又は2号に該当する場合だけ効力を有することを説明することが必要になります。そして、XY間における本件の紛争は「個別労働関係民事紛争」に該当するが、同項1号及び2号のいずれにも該当しないため、①条項は効力を有さないと結論することになります。
 その上で、本件訴えについては、同法3条の4第2項の管轄原因が存在し、同法3条の9に定められている特別の事情もないため、日本は国際裁判管轄権を有することを説明すればよいでしょう。

 〔小問2〕
 本件訴えは、安全配慮義務違反に基づいて損害賠償を請求するものであるため、労働契約の準拠法によることを、最初に指摘すべきでしょう(東京高判令5・1・25(判タ1507号74頁)も参照)。
 その上で、当事者による準拠法選択がある場合、労働契約の準拠法も、法の適用に関する通則法7条によって判断されることになるが、同法12条1項によれば、7条により選択された地の法が、当該労働契約の最密接関係地法以外の法である場合、労働者が当該労働契約の最密接関係地法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を使用者に対し表示したときは、その強行規定が定める事項については、その強行規定も適用されることを説明する必要があります。そして、ここでいう当該労働契約の最密接関係地法は、同法12条2項により、当該労働契約の労務提供地法であると推定されることも説明しなければなりません。以上の条文をもとに、Xは、本件労働契約の最密接関係地法である日本法の適用を主張することができると結論すればよいでしょう。

 〔設問2〕
 本問の訴えは、使用者責任に基づいて損害賠償を請求するものであるため、不法行為の準拠法によることを、最初に指摘すべきでしょう(前掲東京高判令5・1・25も参照)。
 その上で、まず、不法行為の準拠法を定める法の適用に関する通則法17条に当てはめて検討していくことが必要になります。特に、同法17条本文の「加害行為の結果が発生した地の法」という文言における「結果」とは、直接の法益侵害の結果(乙国での負傷)を意味し、派生的損害(日本の病院での費用)は、「結果」には含まれないため、本問における「加害行為の結果が発生した地の法」は乙国法であることを丁寧に説明する必要があります。
 そして、同法20条に当てはめて、乙国法よりも日本法が明らかにより密接な関係を有する地の法であるかを検討することになります。

〔第2問〕
 〔設問1〕
 ⑴ 失踪宣告の審判事件について、日本が国際裁判管轄権を有するかは、法の適用に関する通則法6条によって判断されることを指摘した上で、特に、同条2項に本件を当てはめて説明する必要があります。すなわち、(a)日本に所在するAの財産である不動産アについては、それが「不在者の財産が日本に在るとき」に該当することを説明すればよいでしょう。(b)甲国に所在するAの財産である不動産イについては、「不在者の財産が日本に在るとき」ではなく、また、「不在者に関する法律関係が日本法によるべきとき」ではないが、「その他…当事者の住所又は国籍…に照らして日本に関係があるとき」に該当することを説明すればよいでしょう。(c)日本に所在するCの財産である不動産ウについては、相続の準拠法が日本法であることから、「その他法律関係の性質…に照らして日本に関係があるとき」に該当するということができるかと思われます。
 ⑵ まず、失踪宣告の準拠法は、法の適用に関する通則法6条(本問では、2項)により、日本法であることを説明しなければなりません。そして、失踪宣告の直接的効果である失踪者の死亡擬制は、同条1項の場合と同様に、同条2項により失踪宣告がされた場合も、日本法によることになり、死亡擬制時点は、日本民法31条によって、Aが行方不明となってから7年間が満了したときとなることを説明すればよいでしょう。
 ⑶ ⑵より、Aは行方不明となってから7年間が満了したときに死亡したものとみなされることになります。そのため、Aは行方不明となってから12年が経過している時点では、D及びEによる相続の関係でも、Eによる代襲相続の関係でも、Aは死亡したものとみなされ、失踪宣告に基づく死亡擬制の効力は両方の関係に及ぶと説明することになります。

〔設問2〕
 〔小問1〕
 ⑴ 失踪宣告取消しの審判事件について、日本が国際裁判管轄権を有するかは、家事事件手続法3条の3によって判断されることを、まず指摘しなければなりません。その上で、Aによる失踪宣告取消しの審判事件は、同条1号の「日本において失踪の宣告の審判があったとき」に該当し(同条3号の「失踪者が生存していたと認められる最後の時点において、失踪者が日本国内に住所を有していたとき…」にも該当するか)、同法3条の14に定められている特別の事情もないので、Aによる失踪宣告取消しの審判事件について、日本は国際裁判管轄権を有すると結論すればよいでしょう。
 ⑵ 失踪宣告取消しの準拠法に関する明文規定はなく、失踪宣告取消しは、条理により、日本法によることを説明しなければなりません。

 
 〔小問2〕
 ⑴ 失踪宣告に関する外国裁判が日本で承認されるかは、家事事件手続法79条の2によって判断されることを、まず説明する必要があります。そして、それによれば、その性質に反しない限り、民事訴訟法118条を準用することになり、失踪宣告に関する外国裁判の日本での承認において、同法118条2号が準用されるかを検討しなければなりません。同号で定められている「敗訴の被告」は、失踪宣告の裁判ではいないことから、その日本での承認においては、同号は準用されないことを説明することになります。
 ⑵ ADの婚姻の解消は、法の適用に関する通則法6条ではなく、同法27条の類推適用又は25条によること、そして、それによれば、準拠法は日本法となることを説明すればよいでしょう。
 
4 的中情報★★★
 <全国公開模試>
 ・安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の準拠法 ★★★
 ・使用者責任に基づく損害賠償請求の準拠法 ★★★
 ・通則法20条の「当事者」と「明らかにより密接な関係がある他の地」 ★★★
 ・法選択がある場合の労働契約の準拠法 ★★
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