2021年司法試験本試験論文式試験 講評
公法系科目 第1問(憲法) 公開:2021年6月4日
・スタンダード論文答練(第2クール)公法系2第1問(辰巳専任講師・弁護士 村上貴洋先生御担当)
「団体規制法と観察処分」ズバリ的中★★★
無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律(団体規制法)の事例を素材として,信教の自由,プライバシー権,適正手続,第三者の主張適格などを問うています。上記の団体規制法は,本試験問題の会話文の「団体の規制に関する既存の立法」に該当するものと思われ,受講生の皆様には非常に有益であったと思われます。
公法系科目 第2問(行政法) 公開:2021年6月4日
民事系科目 第1問(民法) 公開:2021年6月4日
民事系科目 第2問(商法) 公開:2021年6月4日
民事系科目 第3問(民事訴訟法) 公開:2021年6月4日
刑事系科目 第1問(刑法) 公開:2021年6月4日
刑事系科目 第2問(刑事訴訟法) 公開:2021年6月4日
選択科目(倒産法) 公開:2021年6月18日
選択科目(租税法) 公開:2021年6月18日
本年度も,昨年度に引き続いて国税通則法が出題されました。もっとも,設問中に示される判例に沿って検討を行えば足りる出題であるため,同法について事前に準備をしていなかったとしても,解答は十分可能であるといえます。
選択科目(経済法) 公開:2021年6月21日
1 Y1-13について
Y1-13については,総合評価落札方式であることの特殊性について説得的に論じることができるかが一つのポイントとなるでしょう。発注者である地方自治体において,単純な入札価格の比較のみならず技術評価点を加味した上で受注者を決定する総合評価落札方式を採用する事例が増えてきているところ,単純な入札価格のみでは受注者が決まらないことから入札談合が成立しないのではないか,と争われるケースが出てきています(東京高裁令和元年5月17日審決取消訴訟参照)。本問の事実関係では,①技術評価点の予測値についても情報交換をしていること,②結果として20件中ほぼすべてにおいて調整どおりの結果となっていること(技術評価点の予測値の情報交換による調整が機能していたといえること)などから,総合評価落札方式の特殊性に合わせた基本合意が成立しているか,という点を論じていく必要があるでしょう。
選択科目(知的財産法) 公開:2021年6月21日
第1問(特許法)は,東京地裁平成23年6月10日判決〔医療用器具事件〕の事案を題材としながら,均等論の第5要件や消尽論の射程など,重要な最高裁判決の理解を問う問題である。題材となった事件は,地裁判例ながら判例百選〔第5版〕に収録されているものであり,百選収録判例については目を通しておくことがこれまで以上に重要となる。
第2問(著作権法)は,著名判例の正確な知識を問う問題と,その場で考えることを求められる問題が,組み合わさったものといえる。
〔第1問〕
1 設問1について
設問1では,均等論の第5要件該当性が問題となる。最高裁平成29年3月24日判決〔マキサカルシトール事件〕の判旨のうち「出願人が,特許出願時に,その特許に係る特許発明について,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,特許請求の範囲に記載された構成を対象製品等に係る構成と置き換えることができるものであることを明細書等に記載するなど,客観的,外形的にみて,対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるとき」に当たるといえるため,対象製品が特許発明の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる特段の事情があることとなる。
2 設問2について
設問2では,消尽論の射程が問題となる。最高裁平成19年11月8日判決〔インクタンク事件〕か示した「新たな製造」に当たるかどうかの判断基準である「当該特許製品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の実情等も総合考慮して判断する」に当てはめることが求められる。このうち「当該特許製品の属性としては,製品の機能,構造及び材質,用途,耐用期間,使用態様が,加工及び部材の交換の態様としては,加工等がされた際の当該特許製品の状態,加工の内容及び程度,交換された部材の耐用期間,当該部材の特許製品中における技術的機能及び経済的価値が考慮の対象となる」という部分まで意識できていると良い。
3 設問3について
設問3(1)では,C製品は101条2号の「その物の生産に用いる物」等の客観的要件を充たすことをふまえて,「その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら」といえるかどうかについて,具体的に検討することが求められる。
設問3(2)では,調査結果ではC製品の全使用例数のうち3割が汎用クリップで留めた状態で使用されるにすぎないから,102条2項の推定は7割が覆滅されると主張することが考えられる。
選択科目(労働法) 公開:2021年6月21日
論文本試験の労働法の設問については,第1問が個別的労働関係に関する出題であることは一貫していますが,第2問については,集団的労働関係に関する出題されるか,もしくは個別的労働関係に関する論点と集団的労働関係に関する論点との融合問題が出題される傾向にあります。本年度は,第1問が個別的労働関係に関する出題,第2問が集団的労働関係に関する出題と,オーソドックスな出題形式になりました。
3 本問の分析
〔第1問〕
第1問は,1つの事例の中で,懲戒処分の有効性,使用者からの労働者に対する損害賠償請求,整理解雇の有効性の3つの異なる論点について問われるという出題でした。これらの論点それ自体は,個別的労働関係の中でも比較的重要な論点の1つであり,一定の学習をしていた受験生が多かったと思われます。他方,以下で詳述するように,本問で具体的に問われた法的な問題点の中には,重要判例があるわけでもなく,基本書でも多くの解説が費やされていないものも含まれています。結果として,高得点を挙げるためには,各論点に関する「知識」よりも,論点についての深い「理解」および,その場での「応用力」が問われたのではないかと思います。
選択科目(環境法) 公開:2021年6月21日
第1問は,環境影響評価法,大気汚染防止法の制度理解,関係法令の解釈・適用,規制の手法・内容並びに民事訴訟及び行政訴訟それぞれの救済手段が問われています。
第2問は,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃掃法」という。)の制度理解,関係法令の解釈・適用,規制の手法・内容の他,並びに民事訴訟及び行政訴訟それぞれの救済手段が問われています。
3 本問の分析
〔第1問〕
1 設問1について
選択科目(国際関係法〔公法系〕) 公開:2021年6月21日
第1問は,2017年のスペインにおけるカタルーニャ独立運動が主たる素材になっているものと思われます。また,第2問は,近年の中国の海洋進出を背景とする出題と考えられます。例年の傾向からすると,現代的論点を多く含む第2問は,やや難しかったように感じられます。そのため,第1問で着実に得点することが求められます。
3 本問の分析
〔第1問〕
1 設問1について
大使館の設置(外交使節の交換)や外交使節の派遣は,黙示の国家承認となります。そのため,B国の立場からは,これらは「尚早の承認」にあたらず,内政干渉ではないと主張する必要があります。尚早の承認は,①領土,②住民,③政府という国家の成立要件を満たしていない段階での承認をいいます。このうち,③政府が実効的支配を及ぼしているかが問題となりえますが,β民族による約50年間の統治がそれに該当すると論じられます。
また,分離権に基づく正当化も可能です。カナダ最高裁のケベック分離事件では,有意義な内的自決権の行使が妨げられている場合には,人民は最終手段として分離権を行使しうると判示されています。この判旨については争いがありますが,B国としては,この判旨に依拠して主張することになります。すなわち,再三にわたる民族差別の是正要求が認められていないため,内的自決権を否定されているP県は,分離権に基づき独立国家として認められると論じます。
2 設問2について
やや難問です。その不可侵性を背景に大使館で亡命者等を保護する外交的庇護は,一般国際法上は認められていません。しかし,A国とB国は南米大陸に所在しているため,同地域の地域慣習法で外交的庇護が認められていると主張しえます。ただし,一連の庇護事件判決では,その地域慣習法の不在が示唆されています。そのため,仮に外交的庇護が認められなくても,同判例に基づき,引渡しは庇護を終了させる唯一の方法ではないから,義務ではないと主張すべきでしょう。
また,政治犯不引渡し原則の観点からも正当化しえます。甲は,企業の建物の爆破と政府要人の暗殺という普通犯罪も行っています。しかし,B国の立場からは,優越の理論に基づき,P国独立運動という政治的要素が普通犯罪の要素を上回るため,国際法上引渡しができないと主張できます。
3 設問3について
国家責任法の基本問題です。国家責任の発生要件は,①違法性と②帰属です。①違法性については,公館を不可侵とする外交関係条約第22条に違反します。②帰属については,原則として私人の行為は国家に帰属しません。しかし,民間警備会社乙はA国の指示に基づき行動しているため,A国の行為とみなされます(国家責任条文第8条)。また,たとえ乙によるB国大使館への侵入が権限踰越の行為であったとしても,その行為はA国に帰属します(同第7条)。さらに,A国がB国大使館の警備活動を放棄した行為(不作為)は,外交関係条約第22条に関する相当の注意義務違反であり,当然A国に帰属します(テヘラン事件参照)。これらの作為,不作為により,A国に国家責任が発生すると主張できます。
この責任の解除のため,B国はA国に①原状回復,②金銭賠償,③満足の賠償を請求できます(国家責任条文第34~37条)。まずは,警備活動の再開という原状回復を要請しえます。他方で,乙の侵入に関しては,実質的な損害は発生していないと考えられるため,金銭賠償ではなく,公式の陳謝のような満足を要求すべきでしょう。
選択科目(国際関係法〔私法系〕) 公開:2021年7月2日
今年度の問題も,第1問が国際家族法に関する問題(50点),第2問が国際財産法に関する問題(50点)でした。国際私法・国際民事手続法・国際取引法の区分でいうと,今年度は,国際取引法の分野からの出題はなかったということができるでしょう。出題された論点のほとんどは,多くの教科書で取り上げられているものでした。過去に出題されたことがある論点について再び問う問題が複数あったことが,今年度出題された問題の特徴の1つと感じました。
3 本問の分析
〔第1問〕
⑴ 小問1
本問の婚姻無効の訴えについて日本が国際裁判管轄権を有するかは,「手続は法廷地法による」との原則から,人事訴訟法3条の2第2号および3条の5によって判断されることを指摘し,これらの規定により,日本が国際裁判管轄権を有することを説明すればよいでしょう。
⑵ 小問2
まず,重婚が禁止されるかという問題は,婚姻の実質的成立要件の準拠法を定める法の適用に関する通則法(以下,「通則法」という)24条1項によって判断されることを指摘しなければなりません。そして,同項の適用において,一方的要件と双方的要件の区別を国際私法独自説または準拠実質法説によるべきかを論じた上で,いずれにせよ,重婚の禁止の要件は双方的要件であり,甲国民法と日本民法が累積的に適用されることを説明しなければなりません。
その上で,重婚は,甲国民法②によれば無効原因,日本民法743条によれば取消原因となり,この場合,より厳格な効果を定める法によって,婚姻は無効となることを説明することになります。
⑶ 小問3
婚姻が無効となった場合,日本法では,その子は非嫡出子として取り扱われることになりますが,国際的事案において婚姻が無効となった場合,子が嫡出子として取り扱われるかという問題は,通則法28条によって判断されることを説明しなければなりません。そして,同条1項によれば,夫婦の一方の本国法で子の出生の当時におけるものによって子が嫡出となるときは,その子は,嫡出子とされること,つまり,選択的連結が採用されていることを説明し,甲国民法③によって,Dは嫡出子として取り扱われることを説明することになります。
2 設問2について
婚姻の方式は,通則法24条2項と3項によって判断されることを指摘し,そして,それによれば,当事者の一方が日本人である日本での婚姻の方式は,日本法によることを説明する必要があります。本問の事実関係をこれに当てはめると,日本に駐在する甲国の領事の面前での婚姻は,日本法の要件を満たすものではないため,この婚姻は日本では有効ではないとの結論にすればよいでしょう。