スタンダード論文答練で合格
1 司法試験の受験を決意した経緯、合格までの道のり
もともと人の役に立てる仕事がしたいという思いはありましたが、学部時代は進路を決めあぐねていました。大学3年生の終わり頃にいよいよ進路を決めなければならない状況になって、法学部で学んでいる以上はやはり法学の専門知識を活かせる仕事がしたいと思うようになりました。こうして、法曹が最適な職業であるとの考えに至り、遅まきながら司法試験の受験を決意しました。大学4年生のときに受験した東大ロー(既修コース)入試は、論文式試験の学習を始められていなかったため不合格でしたが、1年留年して準備し、翌年無事に合格できました。
ただ、ロースクール入学後は授業の予習の力の入れ具合がよくわからず、ほとんどの時間を予習に費やしてしまっていました。今思えば、事例問題に対してどういう手順で思考を巡らして検討を進めればよいかということの訓練に、自主ゼミだけでなくもっと時間を割くべきでした。また、学部やロースクールの期末試験でさえ途中答案の傾向があったにもかかわらず、司法試験本番の緊張状態であれば最後まで書き切ることができるはずだと根拠もなく信じ、真剣に途中答案対策をしていませんでした。
こうしてロースクールを修了して迎えた1回目の司法試験は、答案構成時点で書くべき主要な事柄はある程度わかるものの、前提や原則から説き起こす意識が希薄であり、しかも筆力が思っていた以上になまっていたことで後半の設問に十分な時間を残せず、焦りから最も問題になりそうな要件だけを論じたり法的三段論法が崩壊したりと、散々な状況でした。1回目の不合格が判明した後は、過去問に絞ってやり込む中でこれらの敗因を徹底的に潰すことを目標とし、特に深刻だった、形式的にはすべての設問に対して解答しているものの後の設問になればなるほど検討が不十分になっていく答案(以下、「実質的途中答案」という。)への対策にほとんどの力をつぎ込みました。当該対策については5で後述しますが、2回目の受験ではそれが奏功し、幸いにも合格することができました。
2 法科大学院受験前の学習状況
1年留年した時間を利用して某予備校の入門講座・論文講座を消化し、一通りの知識・論証が一応頭に入っている状態にしました。本来ならば、事例問題の演習を多くこなして、答案の書き方や論点抽出力を鍛えた上でロースクールに入学すべきでした。
3 法科大学院入学後の学習状況
ロースクール時代はクラスメイトと4人の自主ゼミを組み、予備試験や司法試験の過去問を通じて、答案の書き方と論点抽出力を鍛え、特に論点の処理方法を議論しました。それ以外の時間は、前述の通りほとんどを授業の予習にあててしまっていました。
1回目の司法試験の不合格後は直ちに不合格だった同級生同士で自主ゼミを組み、司法試験の過去問を素材に、司法試験で高く評価される答案の書き方を徹底的に追求する勉強会を行いました。具体的には、自分が書いた答案のコピーをメンバーに配布して、一人ずつ読み進め、理解を疑われかねない記述・不十分な記述・冗長すぎる記述などを指摘し合い、どう改善すべきか議論しました。
4 受験対策として辰已講座の利用方法とその成果
⑴ スタンダード論文答練(以下、「スタ論」という。)
スタ論では、①論文式試験中のタイムマネジメントの練習と、②本番で出題が予想される論点の研究という2点を獲得目標としていました。
1点目の①論文式試験中のタイムマネジメントの練習について。実質的途中答案の連発が1年目の最大の敗因であったため、論文式試験の試験時間をどのように使っていくかを試行錯誤する場として答練を利用していました。これによって、「答案を〇〇枚書きたければ答案構成は概ね××分で切り上げなければならない」、「最後の15分になって大慌てで書き殴っても高々□□枚しか書けない」「答案構成はこの程度ラフに書いても特に支障がない」などの帰納的感覚を体に叩き込むことができました。
2点目の②本番で出題が予想される論点の研究について。スタ論は、司法試験考査委員の関心分野などに照らして本試験での出題蓋然性が高い論点を取り扱います(この傾向は第2クールに顕著だと思われます)。答練終了後、出題された論点について基本書・判例集を確認し、解説冊子の合格スタンダード答案における処理も参考にしつつ、当該論点の処理方法を固めて論証集にメモしていきました。これによって、優先的に押さえておくべき論点を次々と得点源にすることができました。
ところで、②に関連して、スタ論は他社の答練と比べて典型問題が多く、意表を突く出題への対応力を培うには不向きであるという意見を耳にしたことがあります。この意見に対しては賛否両論あろうかと思いますが、どの予備校の答練を受けるかは、結局、自分の獲得目標が何かという点によります。私自身は、多くの受験生がそれなりの論述を展開できる典型問題において、答案の分量が少なくても得点において他の受験生に書き負けないことを獲得目標としていたため、その練習の素材としてスタ論はうってつけでした。
⑵ 司法試験総択
司法試験総択は、短答式試験中のタイムマネジメントの練習として活用しました。これによって、「残り時間〇〇分であと××問残っていると解き終わらない」、「初めから全速力で解くと概ね△△分で解き終わるが、読み間違いがこれだけ増えてしまう」などの感覚を掴むことができました。
⑶ 全国公開模試
全国公開模試は、①本試験の5日間の過ごし方のシミュレーションと、②全受験者中の相対的位置の把握に活用しました。
まず、①本試験の5日間の過ごし方のシミュレーションについて。どの駅に何時に着くべきか、会場にどの入口から入るのが近道か、昼食の適量はどのくらいか、トイレは何階の所に行くのが効率的か、休み時間はどこでどのように過ごすべきか、その日の試験が終わって帰宅後どの程度次の日の科目の総復習ができるかなどを掴んでおきました。試験前日に緊張して眠れない傾向にある方は、あえて同じ状況を作って模試を受けてみて試験期間の体力の使い方を模索してみるとよいかもしれません。これによって、本試験の5日間は、余計な心配事もなく純粋に試験問題に専念することができました。
次に、②全受験者中の相対的位置の把握について。辰已の全国公開模試は、受験者総数が多いこと、奇を衒わない堅実な作問がされていること、及び詳細な採点表によって採点精度が相当程度平準化されていることにより、各受験者の実力が順位に反映されやすくなっていると思います。そのため、きたるべき司法試験の受験者の中で自分が上位何%の位置にいるのかを高精度で把握することができます。これによって、相対的に弱い科目をあぶり出して補強することができました。
5 受験対策として私がやって成功した方法など
⑴ 論文対策――「得点密度の高いコンパクト答案」を目指す――
前述の通り私の1回目の受験の最大の敗因は実質的途中答案の連発にありましたが、筆力の向上によって実質的途中答案を克服することは望めませんでした。そこで、思い切って、「得点密度の高い5ページのコンパクト答案を書く」という戦略をとることにしました。具体的には、①規範の論証を極限まで短くして準備しておく、②問題処理の手順も重要となる場合(例えば、行政法の原告適格、刑事訴訟法の伝聞、労働法の就業規則による労働条件の不利益変更など)については、何を、どのように、どの順番・ナンバリングで書くかなど、処理手順全体の書き方まで詳細に固めておく、③優秀答案等の上手な事実評価の例に多く触れ、短い表現に改良して頭にストックする、という3つの方法をとり、事前に準備できることを徹底的に準備しておくことにしました。
このうち、①の作業(以下、「論点の凝縮化」という。)について詳述します。ある論点を凝縮化する際は、まず基本書や判例百選の該当箇所にあたり、当該論点への理解を深めました。その理解を前提に、論証に必要不可欠な部分だけが残るように、短い表現を追求して徹底的に文字数を削りました。判例の規範を短くする場合は、研究者による端的なパラフレーズが参考になります(百選の解説に多かった印象があります)。論点の理解をアピールすることと論証の文字数を削ることはトレードオフの関係になりがちです。その場合は、得点の最大化の見地から規範定立よりあてはめに文字数を割くべきと考えていたため、採点者に論点の理解が誤っていると判断されさえしなければよいと割り切って、文字数の削減を優先しました。問題提起が冗長になりがちな論点については、文字数を最小限に抑えた問題提起の言い回しまで準備しておきました。
上記①〜③のおかげで、概ね答案を5、6ページに収めることができるようになり、途中答案が劇的に減りました。また、あてはめや現場思考問題に多くの時間を割けるようにもなったことで、充実したあてはめができるようになり、時間不足による法的三段論法の崩壊もなくなりました。こうして少ない分量の割に点数がつく「得点密度の高いコンパクト答案」が書けるようになったことで、刑法の6ページ、労働法の7ページを除いて5ページ±数行でまとめた本番の論文式試験の答案には200位台前半の成績がついていました。途中答案にお悩みの方の一つの参考になれば幸いです。
⑵ 短答対策――正誤判定に必要十分な1行メモ・図表を書く――
短答知識は短期記憶になりがちですから、短答式試験の前日に全3科目を高速で復習できる教材を作ることを目標にしました。具体的には、辰已法律研究所『短答過去問パーフェクト』を解き進め、間違えた選択肢や理由づけを正確に答えられなかった選択肢については、その選択肢の解説(場合によっては基本書の該当箇所も)を確認し、その解説の余白に、正解を導く際に頭の中に思い浮かべるべきフレーズを1行でまとめて赤ペンで書き込みました。また、赤ペン書込みの過程で「図表にまとめれば関連する選択肢を一網打尽にできる」と感じた場合は、解説ページの大きな余白に図表を作りました。
これによって、原則として赤ペンの書込みや図表だけを拾い読みすれば自分の弱点となっている知識を復習できるようになり、本番の刑事系の論文式試験終了後、改めて問題を解いたり解説を読み直したりせずとも短答3科目の全体を高速で復習できました。
6 受験対策として私が使用した本
基本書・演習書は受験生のシェアが高く定評のあるものを使えば足りると思いますので、それ以外で特に参考になった書籍を紹介します。大島義則『憲法の地図――条文と判例から学ぶ』(法律文化社)です。平成30年から憲法の出題において判例への言及が明示的に要求されるようになったため、判例の射程が要領よくまとまっている本書が効果を発揮します。「規範定立→あてはめ→結論」という流れとパラレルに、「関連判例の射程の紹介→本問がその射程の内か外か検討→結論」という流れで論じられれば、比較的高評価がつくように思います。
6 自己の反省を踏まえ、これから受験する人へのアドバイス
⑴ LS在学生へのアドバイス
ロースクールで学ぶ事柄は、司法試験の合格水準に達して合格可能性を上昇させたい頃にこそ聴きたい内容が多いように思います。そういう意味では、およそ司法試験対策に無意味ということはないでしょう。できる限り早い段階で司法試験の合格水準に達することで、ロースクールで学ぶ事柄を司法試験対策に意味あるものに変えていってください。
⑵ 来年のリベンジ合格を目指している方へのアドバイス
敗因分析をし、その敗因を徹底的に克服してください。そして、可能であれば自主ゼミを組んだり、合格者に答案を添削してもらったりすることで、自分では意識できていない敗因・改善点を指摘される機会を持ってください。
辰已法律研究所 受講歴
【2019年対策】
・スタンダード論文答練(第1・2クール)
・司法試験総択
・司法試験全国公開模試
【2018年対策】
・スタンダード論文答練(第1・2クール)
・スタンダード短答オープン(第2クール)
・司法試験全国公開模試