法的三段論法という思考回路で、基礎知識をもとに事案に対する自分なりの最適解を日本語で正確に表現すれば、合格できる。
1 司法試験の受験を決意した経緯
私が司法試験を目指すきっかけになったのは、父です。父は、かつて大学時代、司法試験合格を目指していました。しかし、様々な理由から、司法試験の受験自体を断念し、サラリーマンになりました。そこで、父が叶えられず断念してしまった夢を自分が叶えることで、父に恩返しをしようと思ったのがきっかけです。
また、私は、物事の構造を把握し、ロジカルに分析することに没頭します。特に、私は根本的に勉強が大嫌いで面倒くさがりですが、算数・数学の世界にはのめり込んでしまいます。特に、命題の証明、ルールを様々な事象にあてはめて結論を出していく思考作業には、時間を忘れて没頭します。
このように、自分自身の無意識的な志向が、事象の構造把握と分析、抽象化と具体化をロジカル思考にあることに気づきました。
2 法科大学院受験前の学習状況
(1) 学内の基礎講義
私は、大学に入学直後、大学のカリキュラムとは別にある基礎講座を受講することから始めました。予備校の講座は、受講するに足りる潤沢な資金がなかったからです。
基礎講義では、まず大学1年で、憲法、民法、刑法の上三法を、丁寧に全分野さらう形での講義でした。そして、大学2年時は、前期まで、商法、民訴、刑訴の下三法の基礎講義がありました。
現役の弁護士の先生が教えて下さる上、受講者も数十人程度でしたので、気軽に何度でも質問できるような環境でした。そのため、私は、わからないところがあれば、いつでも、何度でも弁護士の先生に質問をしていました。質問などをしていた回数は、当時の受講生の中で一番でした。誰よりも、自分には知識がなく、知らないことがたくさんあることを知っていたからです。
その上で、自分が理解したことをノートにまとめたり、とにかく自分の頭にインプットしたことを可視化しました。
(2) 学内の答練
大学2年の夏休みからは、答練が始まりました。もっとも、それまで全く答案を書いたことがなかったわけではなく、特別講義として答案作成の基礎を学ぶ場がありました。私は、そこにも積極的に参加し、法律文書の基礎の基礎、すなわち三段論法を徹底的に身に着けました。
司法試験本番でも、法的三段論法は最後の最後まで徹底しました。知識を吐き出すこと以上に、無意識的に三段論法を表現し抜くことができたのは、かかる「論文作成基礎答練」で培われた意識づけにあると確信しています。
学内の答練では、実力別のゼミ形式でした。競争社会の中で生きてきた私にとっては、とてもモチベーションが高まるシステムでした。私は、とにかく一番トップのゼミで、トップに立ち続けることを目標に、毎回の答練に参加しました。この答練は、大学4年の前期まで続きましたが、トップのゼミで、成績もトップでした。
その答練での成績や、答案で指摘されるポイントや点数の上下を自分自身の実力の客観的なものさしとしながら、PDCAを回しました。
(3) 自主ゼミ
私は、上記のような大学の課外講座での基礎講義や答練のほかに、仲間と自主ゼミを組んで、議論しながら勉強していました。目的は、事案に対する分析の視点・捉え方を共有することで、法的なものの見方をより多角的にすることが主でした。
内容は、基本的に、上三法および下三法のいずれも、旧司法試験の過去問検討でした。たまに、予備試験の過去問を解きました。こうした問題演習の理由は、典型事例や短文事例に対し、条文からひも解いて論点を抽出し、そこで解決の道筋となる判例などを正確に引き出せているかが、未知の問題に対する解答力を向上させることにつながると考えたからです。
(4) 法科大学院入試
法科大学院入試では、とにかく大学4年間の総仕上げとして、それまでの勉強の成果を出そうと取り組みました。結果としては、創大ロー既修コース学費全免の特待生として合格、一橋ローにも合格を果たしました。最終的には、主として経済的な事情で、前者を選択しました。
3 法科大学院入学後の学習状況
(1) 予備試験
平成30年と令和元年に予備試験を受験しました。自分自身の将来の選択の幅を増やすこと、そして実力試しのためです。私は、大学3年時から予備試験に興味がありましたが、負け試合が嫌だったため、合格する確信を持って受験を決意しました。
平成30年は、順調に短答、論文と合格を重ね、論文では2桁の順位で合格しました。私は、確かな実力をつけたのだと実感しました。しかし、そこでわずかに生じた油断から、口述試験では不合格となりました。
非常に落ち込みました。しかし、そのとき学んだのは、条文と基礎的な知識、そして知識を条文や個々の文言と紐づけて正確に整理しておくことでした。どんなに先端的な議論や、細かい知識があるとしても、それを正しい場面でアウトプットすることには限界を感じました。むしろ膨大な知識が仇となり、正確な基礎知識のアウトプットを阻害すること、ひいては未知の論点に対する応用力に脆弱性を及ぼすことにも気づきました。
そこで、個々の論点や、細かい判例の勉強ありきではなく、条文と基礎的な知識を典型例とともに整理すること、短文事例問題を繰り返す勉強をしました。そして、アウトプットの精度は、とにかく過去問を中心に検討しました。書いた答案は、必ず添削を受け、フィードバックを受けました。
その結果、口述で落ちた翌年の予備試験で、最終合格を勝ち取りました。
(2) 法科大学院の授業に関して
法科大学院の授業の予復習、課題等は、それ自体特に辛く感じたことはほとんどありませんでした。基本科目、実務科目そして好きな先端科目で5を取ること以外は、適当に済ませていました。この点は、ご参考には及びません(しないでください)。
(3) 土日の答練
法科大学院では、土日に、司法試験の過去問を検討する答練がありました。過去問を起案し、書いた答案の添削を受け、検討ゼミに参加し議論する中で、合格者の思考や優秀な仲間の思考を徹底して盗むようにしました。
(4) 自主ゼミ
自主ゼミは、ペースメーカーとして、精神安定剤として、ロー3年時から始めました。科目ごとで、苦手意識のあったものを中心に、同じ問題意識を抱えた人と組んで取り組みました。
特に、司法試験の直前期である2月からは、それまで自分が作成していた、出題趣旨・採点実感の内容から配点項目をまとめたチェックシートを使ってお互いの答案を添削し合い、配点をどれだけ拾えているかをチェックし合いました。その自主ゼミの中で、得点効率を最大化する答案の書き方が培われたと思います。
4 受験対策としてとった辰已講座の利用方法とその成果
(1) スタンダード短答オープン
私は短答式試験で高得点を取ることができましたが、辰已の短答オープンで貯めていた「ニガテストック」をつぶす勉強をしたことが大きな要因です。
予備試験のときから、私は、上三法で安定して7割以上の点数を取ることができていたので、それを8割ないし9割の得点力に近付けることが課題でした。伸び悩んでいた原因は、ニガテな問題・間違えた問題を何回も間違える傾向が顕著でしたので、とにかく間違えたりニガテな分野の問題を繰り返し解くことで、正答率を向上させました。
それは、過去問中心の演習でしたが、それ以外の演習のための大きなリソースが、辰已の短答オープンでした。そこで解いた問題の中で、間違えたものをひたすらストックし、直前期まで反復しました。これが、短答式試験で、最終的に8割程度の点数を得た結果に繋がった要因の1つだと思います。
(2) 全国公開模試
辰已の模試の魅力は、出題予想の的中率の高さ、問題の質が司法試験に近しいこと、そして採点の項目の振り方などが細かく、非常にリアルな点数を算出できるシステムであると思います。
実際に、私が受験したときの結果と、本試験での実際の順位も、おおよそ同じでした。とにかく、辰已の模試を受験することが、本試験で自分の実力がどれだけ発揮できるかを測るには最適であると確信しています。
5 受験対策として私がやって成功した方法
(1) 短答試験対策
とにかく、直前期に毎日問題を解くことです。そして、答え合わせの際、直ちに解説を見るのではなく、自分で条文や基本書を参照しながら、なぜ正解なのか、なぜ間違いなのか、どうすれば正解にたどり着くかの思考回路まで、徹底して検証することです。
また、演習のためのリソースとしては、過去問を徹底して使用します。そこで、前年度3回以上回しきったら、他のものにも手を出してみるというような形でやってみました。とにかく実戦的に肢を切る訓練をしたことが、得点力につながると思います。
(2) 論文試験対策
あくまで私の手法ですが、論文もとにかく過去問の演習を繰り返すことです。直近のものは、5回くらい解きました。そして、必ず、再現答案と出題趣旨・採点実感を照らし合わせて分析し、どのようなレベルの知識や思考回路を踏むことが合格のために必須であるか、相対評価の中で差別化を図りうる要素になるかを精密に分析しました。
それも、まずは自分の頭で考え抜くことに徹し、その上で、合格者による答案添削を通じて、その思考回路が合理的か、適切であるかを常にチェックするという作業をしていました。その結果、自分がどのように答案を構成し、どのような文章表現をすれば、最大限得点できるかを把握することができるようになりました。
6 受験対策として私が使用した本
(1) 基本書・演習書
私が使用した基本書は、割愛します。詰まるところ、使う人の目的意識並びに使い方及びその組み合わせ次第で学習効果が異なるため、ここで説明することに意味がないと考えるからです。いかなる基本書を使うとしても、インプットの際に三段論法の思考回路を使うこと、アウトプットの際のキーワード表現などを平準化することが重要です。
(2) 辰已の教材・テキスト
特にご紹介したいのが、次の2冊です。
ア 最もおすすめしたいのが、山島達夫先生著の『法律答案の構造的思考』という本です。これは、初学者から、直前期の受験生の段階まで、随所で読み深め、答案作法の基本ができているかどうかをチェックするために使いました。
三段論法は、階層を織りなすことでより論理が緻密となります。そして、事案に対して解決するべき問題発見、そしてそこに解決規準となる規範の定立、そして事案への適用の各場面において、論理的に妥当な解答筋を導く、またそれを説得的に伝えることにつながります。このことを教えてくれたのが、『法律答案の構造的思考』でした。
イ 次に、えんしゅう本です。えんしゅう本は、出題趣旨・採点実感以上に価値があります。司法試験の過去問分析において、出題趣旨・採点実感は必須です。しかし、不十分です。本試験で、どのような答案が評価されるのか、どのような論述が点数を分けるのか、どのように得点するかの具体的な分析のために必要不可欠な一書であると思います。
7 これから受験する人へのアドバイス
(1) LS在学生へのアドバイス
司法試験の勉強と実務家として活躍するための素養を身に着けるための勉強を切り分けて下さい。後者は、法律家としての実質的な基礎力なので、じっくり受講すべきです。その上で、司法試験の勉強は、あくまで「試験」であると割り切った方がいいです。1位で受かりたいならともかく、受かるだけなら、得点効率をいかに上げるかを常に考えた勉強をした方がよいです。
(2) 今年受験する人へのアドバイス
今年は、特に時間がありません。そうであるからこそ、現実的かつ具体的な合格答案のイメージを早く掴むことが重要です。その上で、限られた時間の中で、その「合格答案」を作成するために現時点で欠けている要素が何かを考えること、日々その客観的な検証作業を怠らないことが必要です。
そして、合格の必要条件は、科目問わずある程度一般化できる限度で抽象化すれば、私は、次の5点であると思っています。①三段論法を徹底すること、②設問に答えること、③形式的途中答案にならないこと、④事実を誤らないこと、⑤事実をすべて拾うことです。
以上、みなさんの合格を心より祈っております。
辰已法律研究所 受講歴
・スタンダード短答オープン(第1クール・第2クール)
・司法試験全国公開模試