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経済法のすゝめ~1位を取るための方法論~

S.Sさん
受験歴: 新試験1回
東京大学法学部
東京大学法科大学院 【未修】
【受講歴】全国公開模試
選択科目

1 経済法を選択した理由

 私は、検事として活躍することが夢なので、検事になることを見据えて経済法を選択しました。特捜部や公正取引委員会で働く場合に、経済法を熟知していた方がうまく仕事を裁けると考えたわけです。選択科目をどれにするか決める場合には、試験科目としての特質を考慮する方が多いと思いますが、私は点の取りやすさや勉強量などは一切考えることなく選択しました。個人的には、試験対策として選択科目を選ぶのではなく、将来どのような分野で仕事をしたいかを基準にした方がいいと思っています。「この分野で仕事をしていきたい!」という強い思いがあれば、やる気が出てきますし、どんな科目であれ高得点を取ることができるはずです。科目ごとの特質の違いといった小さなことを気にするのではなく、思い切って自分がどういう仕事をしていきたいかを基準に選択してみてはいかがでしょうか。

2 経済法のメリットとデメリット

(1) メリット
 試験対策という文脈では、経済法を選択することをおすすめします。経済法は、暗記量が少ない、出題範囲が狭いという大きなメリットがあります。
 まず何といっても経済法は暗記量が少ないです。司法試験で出題される条文は限られていますし、それぞれの条文の要件の数も少ないです。しかも、各条文間で共通の要件、規範や定義を使うことも多いです。そのため、他の選択科目に比べて圧倒的に暗記量が少なくて済みます。暗記することが苦手な方にはおすすめの科目です。
 また、経済法の司法試験での出題範囲は狭いです。そのため、出題される問題は過去問と似たものばかりです。これは出題される条文の数が限定されているため、必然的にそうならざるを得ないのです。このような出題傾向であるため、過去問をしっかりとやっておけば高得点を取ることができます。
 経済法にはこのようなメリットがあるわけですが、これによって答案作成の手順を『マニュアル化』することができます。マニュアル化については後述しますが、マニュアル化さえしてしまえば、後はそれに従って問題を解くだけで、自動的に高得点が取れるようになります。

(2) デメリット
 経済法のデメリットとしては、個人の事務処理能力により得点に差が出る可能性があるということです。
 経済法の勉強が進み、ある程度のレベルに達すると、概念や要件の理解、規範や定義の精度では、得点に差がつかなくなります。そのため、より高得点を取るためには、問題文の事実をすべて拾い尽くし的確な評価をすることが求められます。答案を作成する際には、8頁すべてを使い切り、各行に小さな文字でぎっしりと書かなければなりません。これを実現するには、問題を瞬時に読み解き正確に理解したうえで、効率よく答案を作成していく能力が求められます。そして、令和2年度の試験から、問題文の量が増え難易度も難しくなっているため、この傾向は今後顕著になっていくでしょう。
 もっとも、このような能力は事前準備によってある程度補うことができるので、決定的なデメリットとは言えません。事前準備次第では、てきぱきと問題を解くことが苦手な方でも十分高得点を取ることができます。

3 法科大学院での選択科目学習状況

 大学院3年の夏学期に経済法の勉強を始めました。白石忠志先生が講義をなさってくれましたが、先生のおかげで経済法を本質的に理解することができたと思います。先生の講義を聞き、自分なりにノートにまとめるという形で、ごくごく普通に授業を受けていました。

4 科目1位を取るための勉強法

 私の勉強法は一言でいえば『マニュアル化』でした。経済法は、暗記量が少なく出題範囲が狭いため、ほとんどの問題に対して事前に答案作成の手順を用意しておくことができます。私自身は、総論、各論、答案構成、論証の4つに分けてマニュアル化を行いました。
 総論については、答案作成の大枠を「Ⅰ適用条文の確定→Ⅱ主体の確定→Ⅲ行為要件の検討→Ⅳ弊害要件の検討」という定式に据えました。もちろん、このように答案作成を進める方が大勢だと思いますが、各段階で検討することをどれだけ詳細に準備しておくかが、得点の高低に直結していきます。そこで、私自身は各段階で検討すべきことをすべて洗い出し、分かりやすくまとめておきました。例えば、「Ⅱ主体の確定」の段階では、各行為類型について、摘示すべき条文、条文上の文言、定義、あてはめ方等を表にまとめたうえで、問題を解くにあたっての注意点を表に書き込んでいました。
 各論については、各条文にフォーカスして検討事項を決めていきました。例えば、ハードコアカルテルであれば、「事業者」「他の事業者」「共同して」「相互に…拘束」「一定の取引分野」「競争を実質的に制限すること」といったすべての要件について、規範、定義、考慮要素、あてはめの仕方、条文の摘示の仕方、過去問で指摘された注意点、高得点を取るコツ等を詳細にまとめておきます。これをすべての条文で行うことで、各論のマニュアルが完成します。総論と各論のマニュアルをあわせれば、定義、規範、あてはめ等の各所で質の高い答案が安定的に作成できるようになります。そして何より、マニュアルを作成する過程で、自分が理解していない箇所が明確になるので、自分の弱点を見つけ、克服することができます。
 答案構成については、すべての条文について、ナンバリングの仕方から、どこで何を検討するかまですべて決定しておきます。例えば、ハードコアカルテルであれば、「1問題提起 2「事業者」「他の事業者」の検討 3(1)「共同して」の論証 (2)あてはめ (3)結論 4(1)「相互拘束」の論証… 8結論」といったように、詳細に決めておきます。これをすべての条文について行っていれば、あとは検討を要する部分に問題の事情をあてはめていくだけです。このマニュアル化により、答案構成が一瞬で終わるようになります。
 論証については、基本科目と同様に経済法でも作る必要があります。試験本番では論証で悩んでいる時間はありません。
 これらのマニュアルは、総論と各論についてはワードで、答案構成と論証についてはパワーポイントで作成し、パソコン上にすべて一元化して保存していました。一見すると途方もなく大変な作業に思えるかもしれませんが、パソコンを使うとそんなに時間はかかりません。大学院の授業を受けたり、過去問を解いたりするたびに少しずつ改善していけば、いつの間にか質の高いマニュアルが出来上がっています。一口に「マニュアル化」といっても、要は、勉強したことや過去問で学んだことを答案作成用に一元化していけばいいのです。そして、そのマニュアルを基に問題を解き、さらにマニュアルを進化させるという好循環に入れば、どんどん何も考えずに高得点が取れるようになります。マニュアルに従って問題を解くだけで、頭を使わずに高速で充実した答案を安定的に書けるようになっていくわけです。経済法に関しては、本番までの準備段階では頭をフルに使ってマニュアルを作り、本番ではそれまでに作成したマニュアルを基に何も考えずに問題を解くのが理想だと思います。
 私はこの方法で科目1位を取ったので、試験まで時間のある方はぜひ実践してみてほしいと思います。

5 受験対策に使った本

(1) 白石忠志『独禁法講義』『独占禁止法』
 メインの基本書としては白石忠志先生の著作を使っていました。いわゆる白石説は受験界では少数説といわれていますが、個人的には経済法を理解するうえでこれほど秀逸な本はないと思っています。白石先生の基本書は、体系化の仕方、用語の使い方、文章構成から一語一語の文章表現まで神経が行き届いており、説得的です。経済法を本質的に理解したい人にはおすすめの一冊です。

(2) 金井他編『独占禁止法』
 受験界では白石説が少数説といわれていたため、通説的な見解を学ぶためにこの基本書を読むことにしました。通説的な見解を知るという意味では役に立ちました。

(3) 演習書
 演習書は特にこなしませんでした。過去問で十分だと思います。

6 役に立った辰已の講座

 全国公開模試を受講しましたが、この模試のおかげで科目1位を取ることができたと思っています。令和2年度の試験では事業者団体規制が出題されましたが、模試ではまさに事業者団体規制が出題されていました。私は、模試を受講した際に、適用条文を間違え大失点をしたのですが、これをきっかけに事業者団体規制について判例がどのような事例にどの条文を適用しているかを確認しました。その結果、令和2年度の試験の第2問で適用条文の選択を迷うことなく答案を作成することができました。多くの人が、本番中に適用条文の選択で戸惑った中で、全く迷うことなく答案を書くことが出来たのは、全国公開模試を受講したおかげだと思っています。
 全国公開模試は過去の出題傾向を踏まえ、出題可能性の高い良問を出題してくれるので、ぜひ受講することをおすすめします。

7 これから受験する人へのアドバイス

(1) 選択科目初学者へのアドバイス
 初学者の方には、司法試験のことを考えることなく純粋に経済法を学び楽しんでほしいと思います。良質な基本書を何度も読み、自分なりの言葉でノートにまとめ、たくさんの事例にあたるという、ごくごく当たり前のことをしてほしいです。これらの繰り返しが、経済法を本質的に理解し、縦横無尽に問題を解決する能力を養います。高得点を取るためには、受験テクニックは必須ですが、経済法を本質的に理解しないで受験テクニックに走ると痛い目を見ることになります。経済法は、学問としてもおもしろいですし、実社会との関わり合いも大きいため、とっつきやすいと思います。まずは、純粋に経済法を学び楽しんでいきましょう。

(2) 次回受験する方へのアドバイス
 「選択科目は勉強追いつかないから平均点くらいでいいか」と考える人がいますが、個人的には選択科目こそ高得点を狙っていくべきだと思います。基本科目に比べれば試験の難易度は格段に低く出題範囲もかなり狭いです。例えば、民法の60点と経済法の60点は点数こそ同じですがその点数を取るために必要な勉強時間には大きな差があります。一言で言えば、選択科目はコスパがいいわけです。そして、経済法は選択科目の中でもコスパがいい科目です。経済法で高得点を狙わないのは大きな戦略ミスです。多少時間がかかったとしても、高得点を取れるように万全の準備をしていきましょう。

辰已法律研究所 受講歴

・司法試験全国公開模試

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