合格の鍵を握ったのは、知識の一元化
1 司法試験の受験を決意した経緯
私が初めて弁護士に憧れたのは小学6年生のときでした。普通の会社員になりたくなくて安易に弁護士を目指し始めました。当時は周囲の中では成績が良い方でしたが、背伸びして入学した高校の時点で落ちこぼれ、大学受験も第四志望まで落ちました。滑り止めすら前期では落ち、同じ年の後期日程でなんとか滑りこみました。入学した法学部での勉強はとても楽しく、苦手だった数学や英語とは違い、試験での成績も良かったため、単純な私は法律の勉強は自分に向いている、やっぱり弁護士になろうと考え、司法試験に挑戦することを決めました。
2 リベンジ合格に至った経緯
法科大学院での成績は上位でした。周囲にも問題なく合格するだろうと言われていました。発表前に法律事務所の内々定も頂いていました。誰しも、本人でさえ、なんだかんだ受かると思っていたのです。しかし、蓋を開ければ不合格でした。成績は1900番台でした。ショックでしたが、次で受かるしかないとすぐに行動を開始して、必死に勉強しました。
そして、今年、2回目の受験で、無事に300番台で合格しました。
3 一度目の受験に至るまで(失敗した原因)
(1) 法科大学院受験前の学習状況(法律学習)
私はアルバイトをし、サークルも二つ掛け持ちしていたため、2年生から別の予備校の基礎講座を受講していましたが、惰性で勉強をしていました。大学での成績はキープしていましたが、学部の試験対策が予備試験の短答対策になるはずもなく、毎年短答落ちしていました。
そして、3年次の秋ごろ進学するために勉強を始めましたが、短答対策に手は回らず、論文対策のみをして法科大学院に進学しました。
(2) 法科大学院入学後の学習状況(法律学習)
法科大学院は、かなり課題が多く、授業も基礎知識が備わっている前提で行われるため、授業に掛かり切りになりました。一回で合格した同級生を思い返してみると、授業だけに注力した私と違って、司法試験対策と学校の授業の勉強をきちんと並行して行っていたと思います。
もちろん私も論文対策として同級生と司法試験の過去問ゼミを複数組んで過去問をフルスケールで書き、辰已のぶんせき本の解説を参考にして互いに添削していましたが、それだけでは出題される論点を網羅できないため知識が不足し、また、復習をしないためすぐ忘れてしまいました。また、短答も辰已の短答過去問パーフェクトを使い、ゆっくり数周したりしましたが、まとまった時間はとれませんでした。
(3) 失敗の原因のまとめ
早くから勉強していた割にはなかなか合格できなかった原因は、合格までの道筋を考えた勉強ができず、だらだら勉強をしてしまったことに尽きると思います。
法科大学院のカリキュラムをこなしつつ初回合格を目指すならば、大学在学中に司法試験の短答の勉強をある程度進めておく必要があると思います。そして、法科大学院在学中に授業と並行して、司法試験の過去問(平成23年度まで)の論点は問題を見れば思い出せる段階までもっていき、各科目マストの論点については覚えるか、最低でもまとめノートを作成し、いつでも振り返れるようにすべきです。
4 二度目の受験に至るまで(原因の克服)
(1) 原因の分析
まず、不合格を受けて、各所に連絡を済ませたあと、翌日から短答の勉強を開始しました。次のライバルである現役生は今も勉強していると思えば、落ち込む暇すらなかったです。短答から始めたのは、模試で短答の基準点を超えず、司法試験直前期1か月半のほとんどを短答に費やしてしまった上、全体平均より少し上しか取れていなかったため、早期の再勉強が必須だったからです。
次に、論文の成績通知が来るまでに、私と似た境遇の2回目合格の先輩にどんな勉強をしたかを教えていただき、私には論文に関しても圧倒的に知識・勉強時間が足りていなかったことに気づきました。
(2) 対策(勉強計画について)
まず自分の、成功体験にならうため、法科大学院の定期試験時の綿密なスケジュールを立てる勉強方法を再現しようと考えました。司法試験は定期試験に比して、長期スパンかつ広範な試験範囲になるため、同じようにはできないと考えており、1回目は実践していませんでした。しかし、広い範囲の全てを1からやるわけではなく自分に足りていない勉強に限定して同じように計画が立てられることに気づきました。そこで、1か月半単位で達成目標を掲げて、その期間に自分ができる勉強時間を算出して、その目標に応じた勉強教材それぞれにかかる時間を計算して、どの日の何時までにどこまで進めればよいかを細かく手帳に書き込んで時間割を作成しました。
(3) 対策(短答について)
短答の勉強では辰已法律研究所の短答過去問パーフェクトが大いに役立ちました。
まず、民法は2回目受験時が改正後初の試験だったため、改正法の知識を急いで詰める必要がありました。そこで、改正前の問題集の問題文を、改正後の問題集を参照しつつ書き換える作業をしました。短答過去問パーフェクトは、改正により問題文が変わった部分に「(改)」と記載されています。したがって、改正による問題文自体の変化が一目瞭然でした。この時、単に問題文を写すだけではなく、正誤も確認し、軽く解説にも目を通しました。他社の過去問集に比べて解説が丁寧で詳細であるため、いちいち他に調べる必要がほとんどなく、勉強が進んだのがありがたかったです。一見、新しい方をそのまま使えばよく、昔の問題を自分で修正するなど、不合理なように思えます。しかし、この作業によって、改正点がわかり、かつ、何度も出題される部分は改正後の問題文を参照せずとも自力で問題文を修正できるようになり、知識が定着していきました。
次に模試も含めて試験直前に、見返せる自分だけの教材を作りました。民法は、手書きで修正した旧法の方を解体して、問題文の書かれたページのみを集めてひたすら解きました。解説は、改正後のものを参照し、間違えたものや迷ったものは赤ペンで解体した方の問題文に直接書き込みます。何度も間違えるものだけを試験会場に携帯して、直前に見直す教材としました。最終的には50枚程度になっていました。刑法と憲法は、平成18年から最新まで全年度の過去問を2in1で両面コピーし、年度ごとにホチキス止めしました。そうすると、1年あたりA4用紙3枚に収まりますから、全年度の問題文を集めても、持ち運びには苦労しません。それを1周解いたあと短答過去問パーフェクトの解説を参照しつつ民法と同様、問題文に解説を書き込みました。短答過去問パーフェクトは体系別に並んでいますが、巻末に年別索引もついているので、解説の参照も容易でした。
そうして復習の体制を整えつつ、見なくなった問題も忘れないよう、新法の方の問題文に書き込みをしていない短答過去問パーフェクトを時には解いて、間違えたらまた見直し用の方に追加することを繰り返しました。
(4) 対策(論文について)
合格の鍵を握ったのは正しい知識の一元化であると思います。一元化の目的は、試験前に一通り知識を確認することです。この確認教材は自分がよく忘れる、曖昧である、よく別の論点と混同するものであればあるほど効果が高いため、市販のものより自作が望ましいですが、作成に時間がかかるというジレンマがあります。1回目で成績が悪い科目はことごとく一元化素材の通読に時間のかかる市販の物を使用していました。一方で、1回目や模試でも60点台以上の安定した点数をとれていた国際私法は、辰已の「一冊だけで国際私法」を一元化素材としていました。これはよくまとまっており、学校の授業で習った部分、模試等で出題された部分などを補完しても、試験前日等に3時間ほど取れば見直せました。
そして、F評価からA評価に上がった民法の2回目受験時に使用した一元化素材について具体的にお話します。
私は受験日の5か月前から辰已の趣旨規範ハンドブックを利用していました。もともと暗記が苦手で、論パを覚えず論点の理解とキーワードの暗記だけで答案を書いていましたが、範囲が広い分、知識不足が露呈してFを取りました。もっとも、知識とは言っても、趣旨規範ハンドブックを読めば、最低限覚えておくべき論証は案外多くないことがわかりました。膨大な量の民法の基本書と比べると、なんだか拍子抜けするくらいです。その代わり、何度も何度も繰り返し通読し、覚えにくいものには印をつけ、試験前に参照できるようにしました。私は初学者ではなかったので、これに載っていない知識を既に有していたことは否定しませんが、最低限の論点を覚えないことには、他に手を出しても本末転倒だと思います。
(5) 対策(その他)
浪人時、一人で勉強していた私にとっては、模試という受験者全体のうちの自分の位置を知る機会がとても貴重でした。また、その会場で、上記の趣旨規範ハンドブックに出会うこともできました。模試は出題予想も兼ねられており、良問揃いだったため復習する教材としても優秀でした。新型コロナウイルスで会場が直前に変わってしまいましたが、通常は本試験会場で模試を受けられる点も魅力です。
辰已法律研究所は特に刑訴の出題予想が上手く、2年ともHPで司法試験期間中に配布される刑訴のレジュメにお世話になりました。特に、令和元年の司法試験では第二問が的中しており、司法試験の中日に必ず熟読していました。
5 これから受験する人へ
合格までの道筋は人それぞれだとは思いますが、私の体験が何か皆様の参考になれば幸いです。
(1) 法学部在学生へ
予備試験に受からなかった私は勉強方法のアドバイスはできませんが、在学中に予備試験に合格したいなら、サークル活動や課外活動をやめ、勉強だけに集中すべきだと思います。そして、予備試験に合格されたら、選択科目の勉強で忙しいと思いますが、すぐ就職活動をしてください。法律事務所の採用は年々前倒しされています。司法試験合格後には、大手事務所の採用活動はだいたい終わっています。もちろん、大手にいかない選択も自由ですが、選択肢は多いに越したことはありません。
法科大学院ルートを選ぶなら、進学のための勉強に加えて短答だけはしっかりやっていてください。また、今、受験要件の制度が日進月歩なので、よく調べられた方がよいと思います。
(2) 法科大学院在学生へ
法科大学院に入ったからには良い成績を取って、就職活動に有利なカードにしてください。授業と試験勉強を両立するため、既修者なら2年間の使い方を入学時にしっかり決めて、計画的に勉強してください。どの時期の模試まで短答で何点とるとか、過去問はいつまでに終わらせるとかを具体的にイメージしてください。ただ、それは理想であって、実際には課題が多くて上手くいかないと思います。だから、授業に時間を多く割くとしても、一元化素材だけはよくまとまった、分量のさほど多くないものを準備して、そこに書き込む形で授業も司法試験に役立ててください。
(3) 令和3年司法試験でのリベンジ合格を目指している方へ
特に今年の受験生はもう時間が少ないですが、諦めるのはまだ早いです。敗因分析をともかく早くやり、短期集中でできる限り自分の穴を埋めてください。これが的確にはまれば、今まで必死で勉強してきた自分にあと少しが積み重なり、合格も夢ではありません。2回目の試験でも私は正直受かった確信を持てませんでした。確実に前よりは書けている、そのことだけを支えに不安な試験を走り切りました。1500位から2000位くらいまでの方は運の要素も絡んで落ちています。だから、次は絶対運では落ちないくらいの実力を身に着けて、自分がよくやるミスをまとめたノートを作成するなど、1点でも多く泥臭く積み上げていって合格をもぎ取ってください。合格をお祈りしております。
辰已法律研究所 受講歴
【2020年対策】
・司法試験全国公開模試