未修の社会人受験生という不利な立場に置かれていても、辰已の答練・模試を勉強のペースメーカーとして最大限活用し、合格を勝ち取ることができました
1 司法試験の受験を決意した経緯
私は、工学部出身ですが、社会人になってから、弁理士資格を取得する過程で、特許法等の知的財産法を学んでいるうちに、民法や民事訴訟法等にも興味を持つようになりました。
弁理士資格取得後、所属する会社の知的財産部に異動しました。知的財産部は、自社技術の特許出願・権利化が主たる業務でありますが、契約、交渉、特許無効審判、訴訟等の業務もあります。私は、技術理解力に加え、法律知識、法的思考力等の専門性が求められる後者の業務に魅力を感じ、かかる業務を取り扱うプロフェッショナルになりたいと思いました。そこで、せっかく勉強するのだから、高みを目指して弁護士資格を取得しようと決意しました。
とはいえ、知的財産部に異動してから年月が経っておらず、実務経験を積みたかったことから、会社を退職して法科大学院に入学する気はなく、他方、法学未修者が予備試験ルートで司法試験に合格することは容易でないと考え、夜間の筑波大学法科大学院に入学し、社会人受験生として司法試験を目指すことにしました。
2 法科大学院受験前の学習状況(法律学習)
特許法等の知的財産法は学習したことがありますが、それ以外の法律科目は学習したことがありませんでした。
3 法科大学院入学後の学習状況(法律学習)
(1) 法科大学院入学から修了まで
1年次は、憲法、民法、刑法、民事訴訟法及び刑事訴訟法の5科目を学習しました。授業を受けて復習し、知識を定着させるように努めましたが、課題や仕事に追われ、復習が不十分な状態で授業を受けることもままあり、そうこうしているうちに、小テストや期末試験の対策に取り組んでいる状況でした。1年次終了の時点では、どの科目も知識の定着が不十分であり、論文演習も予備試験の過去問を解く程度しか行っていませんでした。
2年次は、上記5科目に加え、行政法、商法及び選択科目(知的財産法)の3科目を学習しました。上記5科目の授業では、知識の定着が不十分であることを痛感したため、レジュメ、基本書及び判例集等を用いて、理解が不十分な箇所の復習に努めました。また、上記3科目のうち、行政法及び商法は初めての学習であったため、1年次と同様、復習が不十分な状態で授業を受けることもままありました。2年次終了の時点では、上記5科目はそこそこ知識を定着させることができましたが、論文演習は司法試験の過去問のうち、民法以外の科目をほとんど解いていない状況だったので、司法試験合格というゴールが遠く感じられました。
3年次は、司法試験の論文8科目につき、授業で論文演習があり、この演習を通じて弱点をあぶり出し、弱点を重点的に復習しました。また、法科大学院のチューターゼミにも参加するようになり、演習書及び司法試験の過去問を教材として、論文演習を行いました。秋以降、授業のコマ数が少なくなったので、チューターゼミに積極的に参加し、論文演習を行うとともに、辰已法律研究所『司法試験&予備試験 全短答過去問パーフェクト』を用いて、司法試験及び予備試験の短答過去問を回していきました。法科大学院修了の時点では、司法試験の論文過去問の直近3年分ないし5年分を解きましたが、それより古い問題にほとんど手を付けられていない状況でした。また、時間を計って論文過去問の演習を行うトレーニングも不足していました。
(2) 法科大学院修了から司法試験初受験まで
法科大学院修了後、自分の実力を把握することを主たる目的として、辰已法律研究所の全国公開模試を受験しました。論文は、市販の論証集に載っている論証を正確に吐き出せなかったり、時間不足に陥ったりした科目もあったため、合格のボーダーラインを下回る結果となりました。また、短答は、知識の精度が低い分野もあったため、短答合格のボーダーラインすら下回る結果となりました。
本試験では、短答に合格しないと、論文を採点してもらえないため、模試の結果を受け、本試験までの1か月強は、短答中心の勉強にならざるを得なくなり、論文のマイナー論点まで手を広げて学習する余裕はありませんでした。
(3) 司法試験初受験とその結果
本試験直前期に短答式試験対策を重点的に行ったこともあり、短答は順位2300番台で合格しました。令和元年司法試験の短答は、民法が比較的易しかったこともあり、民法で点数を稼ぐことができました。しかし、刑法は、学説の理解を問う問題が増えたため、判例・通説を中心に学習してきた私にとって難しいものであり、点数が良くありませんでした。
他方、論文及び総合評価は、いずれも順位2700番台で不合格でした。論文は、順位ランクA、Bの科目もありましたが、順位ランクFの科目が複数あったため、順位を大きく落としてしまいました。具体的には、憲法の設問は、立法措置②につき表現の自由を論ずべきところ、営業の自由を論じてしまったこと、民事訴訟法の設問1は、マイナー分野である管轄に関する問題であるところ、管轄に関する知識がほとんどなかったため、的外れなことを記載してしまったこと、刑事訴訟法の設問1は、別件逮捕に関する学説の対立を前提として解く問題であるところ、判例・通説を中心に学習してきたため、一方の立場からしか論じることができなかったこと等が原因で点数を大きく落としてしまいました。また、時間を計って論文過去問の演習を行うトレーニングが不足していたため、論文8科目のうち、大半の科目が時間不足に陥り、点数を伸ばすことができませんでした。
4 令和2年司法試験合格に向けての取組みとその成果
令和元年司法試験の結果を受け、①論文で時間不足に陥らないこと、②予備校の論証集に載っている論証を正確に吐き出し、あてはめを的確に行うことが合格に必要であると考えました。その上で、③マイナー分野からの出題、及び学説の理解を問う出題に備えた学習を進めていくことが必要であると考えました。
(1) 辰已講座の利用方法とその成果
上記①及び②を能力として身に付けるには、予備校の論文答練を利用し、トレーニングを積むのが良いと考え、土日に受講が可能である辰已講座のスタンダード論文答練(以下「スタ論」という。)第1クール・第2クール、及び全国公開模試を受講することにしました。スタ論第1クールは2019年9月末から12月にかけて隔週で実施され、第2クールは2020年1月から3月上旬にかけて毎週実施され、第1クール・第2クールともに全て辰已の東京本校で受講しました。全国公開模試は同年3月下旬に司法試験と同じ受験会場で受験しました。
スタ論は、論文の配点が細かく割り振られているため、点数が良くない理由がすぐに分かる点で優れています。そのため、条文を指摘できているか、全ての要件を検討しているか、定義や判例の規範を正確に記載しているか、あてはめにおいて事実を漏れなく摘示できているか、摘示した事実をきちんと評価しているか等の観点から弱点をあぶり出し、弱点を重点的に復習できます。また、スタ論は、どの科目もあてはめの配点が高い傾向にあるため、答案を書くのが速くない私にとって、問題提起・規範定立をコンパクトにまとめるのに良いトレーニングとなりました。このように答練及びその復習を繰り返すことで、答案全体のバランスが良くなるとともに、上記①及び②が能力として身に付いてきました。
他方、上記③は、答練だけでは対応に限界があるので、答練及びその復習の合間に、判例百選及び基本書を用いて理解を深め、出題に備えました。もっとも、スタ論は、最近の司法試験の出題傾向を踏まえて作問されているので、上記③の出題もあり、その意味でも有意義なものでした。
全国公開模試は、自分の実力を把握することを主たる目的として、受験しました。その結果は、総合評価が合格のボーダーラインを上回る者の上位3分の1であり、本試験に向けて自信が付きました。
2020年5月の本試験に向けて準備をしていたところ、同年4月7日に緊急事態宣言が発令され、続けて司法試験の実施が延期されました。延期が決定されてからも、延期後の実施日程に関する情報が発信されなかったため、受験勉強に対する緊張感が緩んでしまいました。同年5月15日にようやく司法試験の延期後の実施日程が公表され、司法試験は同年8月12日から同月16日にかけて実施されることになりました。
本試験まで残り3か月を上手く調整しないと、不合格につながるおそれがあると考え、辰已講座でオンライン形式のConditioning答練を受講しました。Conditioning答練は、5月末から7月上旬にかけて自宅で受講し、本試験までのモチベーション維持に大変役立ちました。また、本試験に向けての最終調整として、辰已講座で会場(辰已の東京本校)受験可能なNew全国公開模試を受験しました。
令和2年司法試験の短答は、順位1200番台で合格しました。そして、論文及び総合評価は、いずれも順位1000番台で合格しました。論文及び総合評価は、令和元年司法試験の結果と比較して、順位を約1700番上げたことになります。
(2) 私の勉強の仕方
本試験の直前期に見直すための資料として、市販の論証集に、辰已スタ論及び論文過去問における解答の論証例や、判例百選及び基本書に記載された内容を補充していきました。
(3) 私が使用した本
ア 短答対策
辰已法律研究所『司法試験&予備試験 全短答過去問パーフェクト 2020年対策』
判例百選
芦部信喜著・高橋和之補訂『憲法 第七版』(2019年、岩波書店)
潮見佳男『民法(全) 第2版』(2019年、有斐閣)
大塚裕史ほか『基本刑法I 総論 第3版』(2019年、日本評論社)
大塚裕史ほか『基本刑法II 各論 第2版』(2018年、日本評論社)
辰已の全短答過去問パーフェクトを回しつつ、間違えた問題は、判例百選及び基本書を参照して知識が定着するように努めました。
イ 論文対策
判例百選
中原茂樹『基本行政法 第3版』(2018年、日本評論社)
伊藤靖史ほか『LEGAL QUEST 会社法 第4版』(2018年、有斐閣)
三木浩一ほか『LEGAL QUEST 民事訴訟法 第3版』(2018年、有斐閣)
大塚・前掲
宇藤崇ほか『LEGAL QUEST 刑事訴訟法 第2版』(2018年、有斐閣)
小泉直樹ほか編『知的財産法演習ノート 第4版』(2017年、弘文堂)
辰已スタ論及び論文過去問で間違えた問題は、判例百選及び基本書を参照して理解を深め、論証を吐き出せるように努めました。
5 これから受験する人へのアドバイス
(1) LS在学生へのアドバイス
私のように、未修2年次終了の時点で、司法試験の論文過去問をほとんど解いていないようでは、司法試験一発合格は厳しいです。その時点で、論文過去問の直近3年分ないし5年分を解き終え、指針を立てていることが、司法試験一発合格に必要と思われます。私自身を振り返ると、未修1年次・2年次は、インプットメインの学習をしていました。早い段階から論文演習を積んでいないと、インプットの学習にメリハリが出ない上、どのように書けば高評価につながるかといったこともなかなか体得できません。
LS在学生、特に未修者には、インプットメインの学習に陥らず、早い段階からインプットとアウトプットの両輪で学習を進め、是非とも司法試験一発合格を目指してもらいたいと思います。
(2) リベンジ合格を目指している方へのアドバイス
私の場合、1回目の司法試験は、総合評価が順位2700番台で不合格でしたが、自分なりに成績が悪かった理由を分析し、弱点を克服していくことで、2回目の司法試験は、総合評価が順位1000番台で合格を勝ち取ることができました。
司法試験は、勉強の方向性さえ間違わなければ、地道な努力が結果に結び付きます。そのため、弱点を地道に克服していくことが合格への近道だと思います。
辰已法律研究所 受講歴
2019年対策
・全国公開模試
2020年対策
・スタンダード論文答練第1クール
・第2クール、全国公開模試
・Conditioning答練辰巳問セレクト
・過去問セレクト
・New全国公開模試