論文式試験は時間の使い方を意識すべき
1 はじめに
私は、法政大学法科大学院既習の修了生であり、令和元年度司法試験を不合格となった後、令和2年司法試験に合格しました。また、法科大学院在学時以降は、アルバイト等をすることはなく、ありがたいことに、法律の勉強に専念することができる状況でした。以下では、2回の司法試験を受験した私の経験を交えて、どのような対策をしたかについて具体的にお話申し上げます。もっとも、私とは状況が異なる方もたくさんいらっしゃると思いますので、みなさまの建てた勉強方法を着実に履行することが合格に必要であると思います。参考までにご覧いただけると幸いです。
2 司法試験を受験した経緯
家族が病気の後遺症により、障害を負うことになった際、私は当時ショックで塞ぎ込みがちとなっていました。しかし、周りの友人たちの助けがあり、少しずつではありますが、立ち直ることができました。その際、今度は私が困難な状況に陥ってしまった人の手助けをする番と思い、当時たまたま法学部に所属していたこともあり、弁護士になることを志し、司法試験を受験することを決意しました。
3 法科大学院受験前の学習状況
具体的に弁護士を志すようになったのは、大学3年次の夏頃でそれまでは学部の講義を聞く程度でした。法科大学院に入学することを決意してからは、とにかく、法科大学院に入ることが全てと思い、簡潔にまとまっている基本書や予備校本を用いて知識を入れることを追求しました。今となってはありえないことですが、そもそも司法試験の問題を見たことすらなく、合格のために何が必要かということを考えてないという状況でした。
4 法科大学院入学後の学習状況
法科大学院では、教育熱心な先生方に囲まれ、充実した勉強ができました。また、OBの方を通して司法試験の過去問を検討する機会があり、司法試験合格のために必要なものはなにかということを考えるようになりました。授業を理解し、知識を定着できれば、司法試験の合格に必要な知識は揃うと考え、簡潔な予習と徹底した復習を行い知識の定着を目指しました。このような勉強は合格のための基礎となり、法政大学法科大学院には非常に感謝しています。
5 1回目の不合格を受けて
私自身の問題点として、過去問を解く際に悪い意味で完璧主義であったと思います。御周知の通りですが、司法試験論文式試験は制限時間があります。2年次は制限時間を設けると訓練不足ゆえに酷い答案を作るので、制限時間を特段意識することなく過去問を解いていました。当時の自分の知識不足は酷いものでしたから、このような措置を暫定的にとること自体はやむを得ないと今でも思います。しかし、3年次の後期に入ってもこのような状況が続いたことに危機感を感じていなかったことは、間違いなく令和元年司法試験不合格の大きな原因の1つであると思います。私は決して上位合格を狙っていたわけではありませんでしたが、大は小をかねると思い、上位答案を比較対象とし続け、どのレベルの答案が合格水準かを考えていませんでした。このような状況であったがゆえに、2019年の辰已の全国模試では途中答案を連発し総合D評価と合格圏からは遠い結果となりました。このままでは不味いと思い、本試験までに修正を図るも当然間に合いませんでした。また、論文式試験を意識しすぎるあまり、直前期において短答式試験の勉強を疎かにしてしまいました。
結果として、令和元年司法試験では、短答式試験は足切りすれすれの点数であり、論文も約2000位で不合格という結果になりました。
6 受験対策としての辰已の利用方法とその成果
(1) スタンダード論文答練(スタ論)は第1クール、第2クールを双方受講し、これに加え2020年全国模試を受講しました。スタ論及び全国模試の使い方は人それぞれだと思うのですが、私が特に意識していた点をご紹介させていただきます。
(2) 私にとってスタ論は、基本的知識の確認のみならず、答案作成の時間の使い方を上手くするための訓練であると考えています。スタ論は採点され、添削結果が返ってきます。私は、その採点をみて、自分の答案の具体的な点数を確認し、結果論ではなく、当時の自分に立ち返って、より効率的に点数を獲得できなかったのかを徹底的に反省していました。
確かに知識不足も反省すべきではありますが、司法試験本番でも全くのノーマークの箇所が出題されることはありえます。こうした際に、解答が難しい設問をテンポよく処理して、他の易しめの問題を十分解答できているかといった時間の使い方も意識していました。
また、してよい余事記載とそうでない余事記載との区別を考えることも重要です。採点表など当時の自分には知ることはできず、不確定な情報の中で予想するしかありません。したがって、完全に余事記載を排除することは不可能です。仮に記載すべきか否か悩んだ箇所がある場合、ここは書くべきでなかったといった結果論の反省で終わらせるのではなく、確実に得点があると思われる箇所をおざなりにしてまで、結果的に余事記載を作ってしまった時間管理能力を最も反省すべきです。仮に制限時間内に設問全般に十分な解答ができているのであれば、次に配点がありそうな箇所に言及するのは正しい姿勢ですから、これは問題のない余事記載であると考えます。
まとめると、スタ論の採点・添削結果を受けて、知識の確認のみならず、上手く時間を使えていたかという観点のチェックも忘れずしていただきたいです。
私はスタ論で上記のような時間の使い方を意識したことにより、本試験では、刑法を除き途中答案を作成することなく、満遍なく設問に解答することができたと思います。その結果として、私は令和2年司法試験では、C評価以下の成績をとることなく合格点をとることができました。
(3) 全国模試では、自分と周りの受験生との比較ができるだけでなく、本番さながらのスケジュールを体験することができます。受講される方は是非本試験における食事・間食に何を用意するか、および合間の時間で何をすべきかまで考えていただきたいです。私は、このようなことを意識していたため、本番でやることが明確となり、安心して本試験に挑めました。
また、スタ論とも共通しますが、類似した問題が本試験でも出題されることがあります。特に、令和2年民事訴訟法設問2は、2020年全国模試設問1の問題意識とかなり類似していたと思います。同設問は、あまり典型的な論点でなく、多くの受験生は現場思考により一応の解答をすることになったと思われますが、司法試験全国模試受験生は解答の指針があった点で極めて有利であったと思います。そうした自身だけの勉強では補いきれない箇所を補ってくれたことも合格の後押しとなってくれました。
7 受験対策として私がやって成功した方法
令和元年司法試験の成績通知を受けて意識したのは、合格ラインはそこまで高くないと感じたことです。上位答案を参考にしていたからかもしれませんが、私の答案はあてはめの充実を狙うがあまり、構成がボロボロで問題の所在を正確に掴めていないことの方が余程問題であると感じました。そこで、論文の優先順位としては,①問題点の正確な把握、②要件充足のための主要な事実の摘示、③多面的な事実の摘示および法的評価と考え直すようになりました。
私もあてはめの充実をさせることは大切だとは思っていますが,時間という限られたリソースをあてはめの充実に全てつぎ込むことは健全とは思いません。十分な構成をして,なお余った時間であてはめを充実させれば合格には必要十分であり、かつ安全策であると思います。
8 私が使用していた教材について
問題点を正確に把握するための基本的知識を取得する必要があると考え、刑事訴訟法、民事訴訟法、行政法の各科目については、辰已のえんしゅう本を用いて基本的知識のインプットをしました。同書籍は、論点の選定がバランスよくなされているので、基本的知識を網羅的に取得することができます。また論理の流れがわかりやすい答案構成例が掲載されており、インプットのみならず、アウトプットの訓練になる点も極めて優れていると思います。解説は簡潔にまとまっており、基本的にはこれで十分なのですが、当該単元について知識が大きく欠けていると判断した箇所については、例外的に別途基本書や判例百選等を確認し、知識を確実に身に着けるようにしました。また、民事訴訟法の旧司の問題は、藤田先生の解析民事訴訟法を、行政法の予備試験の問題は、土田先生の実践演習行政法を併せて使っていました。
また、辰已の趣旨規範ハンドブックを併せて使い、えんしゅう本とのリンクを意識しながら、闇雲に定義を暗記するのではなく、具体的な事案における当てはめも想起しながら、知識の定着を図りました。そのおかげで、具体的な事案を前にしてあてはめの仕方がわからないといったことを極力なくすことができたと思います。
9 自己の反省を踏まえ、これから受験する人のアドバイス
(1) 先にも述べましたが、悪い意味で完璧主義にならないでください。近年では、論文で各科目50点獲得できていればおよそ合格できています。上位答案のみでなく、ボーダー付近の答案や不合格者の答案も必ず比較対象としてください。
また、私が皆様に一番伝えたいのは、限りある時間をどのように使えば失点を防ぎ、かつ効率よく加点できるかということを各自考えていただきたいというところです。
(2) 私と同じリベンジ受験生へのメッセージとしては、結局のところ自身の抱えている問題点を発見し、それを克服していくのが何よりも重要だと思います。私の意見を鵜呑みにすることなく、自身で足りないと思うところを補っていってください。回答として心もとなくて申し訳ありませんが、人それぞれ個性がありますから、自分の弱点を把握することが何よりも重要であると思います。
(3) 令和2年司法試験は実施が延期されました。本年の本試験でもこういったことは起こりうるかもしれないので、私の体験談を少しお話しておきたいと思います。私は、令和2年司法試験の実施日が延期された際、知識が仕上がっていた状況であったので、酷く動揺しました。1週間弱勉強を休憩したのですが、その後勉強を再開すると、自分の知識が衰えているように感じ、勉強しなかった期間を後悔し、それにより集中力を失い、現在の勉強に集中できないといった悪循環に陥りました。
人間ずっと全速力で走り続けられませんから、自らの勉強計画を履行できる見込みがあれば、暫しの時間勉強の休息も必要です。ですが、私みたいにありもしない理想に囚われ悪循環に陥ることはしないでください。仮になってしまったら、1人で状況を打開するなど考えず、身近な人に話を聞いてもらい、気持ちを少しずつ整理し、徐々に勉強を再開できればいいと思います。自身が完璧でない人間であると同時に周りも決して完璧な人間ではありません。
10 おわりに
長々と私の体験談を述べてしまいましたが、皆様が司法試験に合格されることを心から祈念しております。
辰已法律研究所 受講歴
・スタンダード論文答練(第1・2クール)
・司法試験全国公開模試