行政法や民法が得意な人にはコスパのいい科目
1 受験した選択科目を選択した理由
私が環境法を選択した理由は、法科大学院の環境法の授業のカリキュラムが充実しており、かつ後述の通り、行政法や民法との相関性があり、覚えることが少ないと聞いていたからです。
2 環境法選択のメリットとデメリット
(1) 環境法のメリット
①行政法や民法との相関性があること、②覚えることが少ないこと、③個別法の仕組み解釈に強くなることが挙げられると思います。
ア ①行政法や民法との相関性があること
環境法は①行政法や民法との相関性があります。具体的には、行政事件訴訟法の差止めや義務付け、訴訟要件としての処分性・原告適格等も過去問で頻出されています。また、不法行為(共同不法行為含む)や債務不履行に基づく損害賠償等に関する知識も要求されます。そのため、環境法の学習によって行政法や民法の復習にもなるという点は一つのメリットといえます。
イ ②覚えることが少ないこと
環境法では、汚染者支払原則等の環境法特有の基本原則を覚える必要はありますが、逆にそういった基本原則以外で覚えなければならないことは意外と少ないと思います。仕組みを理解するコツさえ掴めば、知識は最小限でもある程度安定して点数が取れる科目だと思います。
ウ ③個別法の仕組み解釈に強くなること
環境法では、例えば当該環境個別法がどのような仕組みの規制手法を採用しているのか、その理由は何かといったことを、他の個別法と比較しながら学習します。この環境個別法の学習は、憲法や行政法で初見の個別法を現場で読み解く際にも役に立つと感じました。個別環境法の中には廃棄物処理法の様にかなり複雑な構造の法律も存在するため、それらを読み解く練習をしていれば、多少複雑な法律が出題されても怖くなくなると思います。
(2) 環境法のデメリット
①実務で使う機会が少ないこと、②司法試験向けの教材が少ないこと、③イメージがわきにくいことが挙げられると思います。
ア ①実務で使う機会が少ないこと
仕事内容にもよると思いますが、一般に環境法は、倒産法や労働法等と比べて実務で使う頻度は高くなく、この点はデメリットといえると思います。
イ ②司法試験向けの教材が少ないこと
環境法選択の受験生が少ないことも相まってか、司法試験に特化した教材が少ない様に思います。
ウ ③イメージがわきにくいこと
環境アセスメントや廃棄物処理施設等、一般の受験生にはあまり馴染みのないものも学習します。特に最初のころはイメージがつかめず、苦労する方が多いのではないかと思います(実際に私がそうでした)。もっとも、ある程度過去問演習や基本書を読み進めていく中である程度イメージがわいてくると思います。
(3) 環境法は選択者が少なく、デメリットも存在しますが、覚えることが少なく行政法や民法との相関性も高いので、比較的コスパのいい科目だと思います。行政法や民法に苦手意識の無い人にはお勧めだと思います。
3 法科大学院での選択科目学習状況
2年後半から北村環境法をざっと読んで全体像を何となく把握し、その後、3年次からは約1年間かけて、ほぼ全年度の過去問をで起案(ワード)しました。
4 受験対策として私がやった選択科目攻略法
環境法は、漫然と勉強しているとつまらないと感じたので、とにかくアウトプットをしながらインプットをしようと心がけました。司法試験向けの適当な演習書がなかったので、とにかく過去問を解き、該当範囲を基本書で確認しました。
また、環境法は、とにかく個別環境法の仕組みを理解することが大事なので、当該法律がどういう仕組みになっているのかを意識して環境六法で条文を確認するよう心がけました。何度も個別環境法の条文を確認するうちに、環境法に共通する法則性の様なものが分かるようになりました。
さらに、環境法の特徴として、過去の改正の趣旨を問う問題がよく出題されています。その対策として、環境省のウェブページに改正の経緯がまとめられたものが掲載されているので、それをもとに法科大学院の同期でゼミを行い、改正の内容・趣旨をまとめていました。
5 受験対策として使用した本と使い方
(1) 使用した本
基本書:北村喜宣『環境法〔第4版〕』(弘文堂、2017年)、大塚直『環境法Basic〔第2版〕』(有斐閣、2016年)
演習書:司法試験過去問
その他:大塚直ほか『八訂 ベーシック環境六法』(第一法規、2018年)、大塚直・北村喜宣編『環境法判例百選〔第3版〕』(有斐閣、2018年)、環境法ガール(ブログ)
(2) 使い方
環境法の総論や個別法については、北村先生の『環境法』を過去問演習に合わせて該当範囲を読みました。加えて、民事系の論点(民事上の差止めや不法行為論)は大塚先生の『環境法Basic』を使用して、訴訟類型ごとにまとめノートを作成しました。他に適当な演習書がないため、演習には過去問のみを使い(必要十分である)、出題趣旨・採点実感に加え、(平成26年までしかないですが、)解説は環境法ガールというブログを参照していました。判例は百選掲載判例の中でも、試験との関係で頻出のものだけを選んで読んでいました。なお、行政法でも出てくる有名判例も多いので(徳島市公安条例事件、国立マンション事件等)、行政法の判例の学習にもなりました。
6 辰已講座の利用方法とその成果
法科大学院卒業後、3月末に辰已の全国模試を受験し、その中で、環境法も受験しました。近年の環境法は、書く分量の多い問題が多く、全国模試でも書く分量の多い問題が出題されたので、3時間で8枚内に書ききるという練習をするのに良かったです。また、環境法総論、各論が満遍なく出題されていたので、解説を中心に、基本書等も再度復習する契機となり、全体を復習するいい機会になりました。
7 自己の反省を踏まえ、これから受験する人へのアドバイス
(1) 環境法初学者の方は、基本書等で環境法の全体像を何となくでも把握したら、なるべく早く過去問演習に移行することをお勧めします。最初は全くわからないと思いますので、出題趣旨や採点実感を見て起案していいと思っています。起案や復習の際には、自分で個別法の条文を逐一確認することを怠らないことが重要です。これを怠ると初見の問題が出たときに対応できなくなります。
(2) 次回受験する方は、直前期もある程度答案を書くことをお勧めします。
私は、法科大学院の間に環境法の過去問を一通り解いていたので(ワードでフル起案)、直前期には環境法の起案をせず、過去問の復習として答案構成にとどめていました。もっとも、3時間以内に現実的に書けることは限られているため、本番でやや答案感覚が抜けているのを感じました。そのため、極力直前まで答案を書く練習をした方がよいと思いました。
辰已法律研究所 受講歴
・司法試験全国公開模試