司法試験合格を意識した環境法選択
1 環境法を選択した理由
選択科目は、司法試験に合格するうえで負担が少ない科目から選択することを考えていました。選択科目に関して、実務家に必要な知識や考え方は、司法試験合格後でも十分間に合うという情報に接していたからです。
環境法については、暗記が少ない、行政法・民法・民事訴訟法との関連でも学習しやすい、基本7科目の対策に専念しやすい、論証集を先輩から入手しやすい、司法試験の足切りが事実上ない、といった評価をよく耳にしました。そこで、環境法を選択しました。
2 環境法のメリットとデメリット
(1) メリット
ア.司法試験日程の都合
現行司法試験日程の都合上、環境法について対策しやすいメリットがありました。まず、試験前日に、行政訴訟の訴訟要件を確認することで、翌日の環境法と行政法の双方を準備できるメリットがありました。同時に、翌々日の民法及び民事訴訟法の双方を一定程度準備できるメリットがありました。
イ.他の基本科目と特別変わらない学習法
環境法の学習を他の基本科目と特に区別しないで済むというメリットがありました。環境法の出題内容は、いわゆる環境訴訟と法政策とされていました。まず、前者の環境訴訟では、主に行政訴訟の訴訟要件の検討が求められていました。また、後者の法政策の出題内容は、基本科目の各条文の趣旨の理解に通じる内容でした。
実際、基本7科目の得点が高い受験生、なかでも複数の予備試験合格者がごく短期に環境法対策を進める様子を見てきました。そして、彼らから環境法の学習を他の基本科目と特に区別していない旨の発言を聞いてきました。その他の受験生も、環境法対策にとくに時間をかけることなく、周囲の多くの環境法選択者(出身法科大学院以外の法科大学院出身者を含む)が司法試験に合格していきました。
ウ.暗記量が少ないこと
詰め込む暗記量が少ないメリットがありました。たしかに、定義・論証・制度趣旨(法政策)を記憶する必要はありましたが、その量は少ないものでした。環境法について、詰め込み型の暗記より、条文の的確な理解・適用が求められていました(司法試験の出題趣旨・採点実感参照)。
エ.百選判例
行政法の有名な判例に環境法の法令が登場するなど、学習内容を集約しやすいメリットがありました。環境法と行政法の百選の目次を見比べると、重複部分が多い印象を受けました。
(2) デメリット
詰め込み型の暗記により選択科目で上位に入ることを考える受験生にとっては、環境法選択はデメリットが目立つかもしれません。平成29年度~令和3年度は読み解き型の出題傾向が強まり、条文の素読が有効といわれてきました。
また、環境法の予備校テキストが市販されていないデメリットがありました。このデメリットは、受験生が環境法選択を避けて他の科目を選択する理由として、よく挙げられていました。
3 法科大学院での選択科目学習状況
法科大学院での環境法の講座は、講義形式とゼミ形式の2種類がありました。学生の自由な発表内容や、講義の質疑応答は、司法試験対策として選択した多数の学生の関心に近くなり、司法試験に関わる分野も多かったです。
法科大学院の環境法の講義を受講せず、環境法を選択し現役合格していく受験生もいました。先輩から受け継いだレジュメや予備校講座で短期間に環境法対策を行い、それで間に合っていた様子でした。
4 受験対策:私がやって成功した選択科目攻略法
私は、主に、条文の素読と、司法試験過去問の問題文・出題趣旨・採点実感の分析を中心に学習していました。主要な教材は、条文と過去問でした。そして、自分の理解が曖昧な部分について、基本書や辰已の選択集中答練・答練・全国公開模試を見て補うようにしていました。
近年の司法試験の出題は過去問を想起させる内容で、過去問対策が合格年度の選択科目対策として機能しました。また、合格年度の出題内容は、辰已の過去の答練・全国公開模試を連想させる内容で、辰已教材を目にしていたことが選択科目対策として機能しました。
5 受験対策:私が使用した本
私が使用した基本書は、北村喜宣先生執筆の『環境法』、越智敏裕先生執筆の『環境訴訟法』、大塚直先生執筆の『環境法BASIC』『環境法』でした。これらの本の使用は参考書とするにとどめていました。環境法選択者は、これら基本書のいずれか1冊を選び使用し、使用するとしても参考書とするにとどめる人が多く、なかには基本書をほぼ読まず合格した人もいました。
6 受験対策:辰已講座の利用方法とその成果
環境法選択者のうち、環境法対策に比較的多めに時間割く人は、辰已の選択集中答練を受講していました。私の合格年度の出題内容は、辰已の過去の答練・全国公開模試を連想させる内容で、辰已教材を目にしていたことが選択科目対策として機能しました。
7 自己の反省を踏まえ、これから受験する人へのアドバイス
① 選択科目初学者へのアドバイス(初学者のうちに是非やっておきたいことなど)
まず、環境法対策に費やす時間や労力を想定することが役に立ちました。環境法は事実上足切りがないと言われていた一方で、高得点を狙うことが容易でないとも言われていました。周囲の多くの受験生は、環境法対策にできるだけ時間をかけず、環境法については合格点を確保するにとどめ、基本科目の合格点の確保または点の上積みに注力していた様子でした。
また、環境法学習に必要な定義の記憶や基本的条文の理解を早めに終え、問題演習を早期に行うことが効果的でした。問題演習の素材としては、司法試験過去問が役に立ちました。余裕があれば、辰已の答練や全国公開模試を早めに受講することがなおよいと考えます。
さらに、条文の素読と司法試験過去問対策の組合せが効果的であることは、多くの環境法選択者の合格体験談で共通していました。環境法の過去問対策は構成にとどめ、出題趣旨や採点実感の読み込みに時間をかけて合格していく受験生も少なくありませんでした。
環境法選択者の初学者の段階でも、環境法について力を入れすぎず、手を抜きすぎず、基本科目の学習とのバランスを意識することが、司法試験合格に効果的と考えます。
② 来年受験する方へのアドバイス(直前期の勉強方法など)
まず、来年受験する方は、環境法にどの程度学習時間を割くのかを意識することが効果的です。たしかに環境法の頻出の条文は限られていますが、司法試験用六法掲載の条文の量は多いからです。また、環境法の知識問題も頻出の分野は限られていますが、出題の可能性が少しでもある範囲となるとその裾野は広いからです。環境法対策に力を入れすぎない意識を頭の片隅に残すと効果的です。
次に、司法試験過去問の問題文・出題趣旨・採点実感をよく読み込むことに時間を確保することが効果的です。過去問対策を通じて学習対象を絞りやすくなり、集約型の勉強を図ることができるからです。その際、参考とすべき答案例も準備できれば直前期に役立ちます。環境法対策に力を抜きすぎない意識も頭の片隅に残しておくと効果的です。
そして、直前期は、①条文を素読し、②司法試験日程前日に向けて準備し、③当日の朝に向けて準備したことが効果的でした。私は合格年度には、会場近くのホテルに宿泊し、司法試験日程前日は知識の簡単な確認及び条文の素読を行い、試験当日は宿泊先から司法試験用六法を持参し、試験会場で短時間条文を素読していました。
選択科目は、司法試験日程の最初に受験する科目であり、試験当日緊張しやすい科目です。試験当日、緊張のあまり普段できることができなかったり、知識問題が分からなかったりするかもしれません。しかし、その際も、現場で落ち着くことが効果的です。環境法では、資料の読み解きや司法試験用六法記載の条文の摘示により、合格点を目指すことができるからです。私も合格年度には、環境法で比較的冷静に対処できたことが役に立ちました。
最後に、私自身の体験では、環境法対策に力を入れすぎず手を抜きすぎずに司法試験合格を図るなかで、各基本科目の理解も深まっていきました。司法試験合格を意識して環境法を選択したことはよかったと思います。この体験記が参考となれば幸いです。
辰已法律研究所 受講歴
【2021〜2017年対策】
・司法試験全国公開模試