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税法は条文・趣旨・原則に忠実に

長谷川 泰昌さん
受験歴: 新試験1回
岡山大学
大阪大学法科大学院 【既修】2019年入学・2021年修了
【受講歴】司法試験全国公開模試
選択科目

1 租税法を選択した理由

 学部時代に税法のゼミに1年間所属して所得税法を勉強する中で、租税法に興味を持ち、租税の仕組みを勉強することの面白さを知りました。また阪大ロースクール(以下、LS)には元司法試験考査委員の教授が所属しており(当時)、講義を受けることがそのまま司法試験の対策に繋がると考えたためです。
 加えて、LSでは労働法や倒産法の講義を受講しましたが、元々暗記が得意ではなく覚える事項や判例が多いこれらの科目を選択することは難しいと思ったためです。

2 租税法を選択するメリットとデメリット

(1) メリット
 受験生時代、「税法は覚えることが少ない」と先輩や友人から言われました。労働法や倒産法等他の選択科目と比較すると、覚えるべき用語の意義や判例は少ないと思います。というのも、税法では租税法律主義が徹底されており、課税要件(私法上の要件や構成要件に該当するもの)や用語の定義等が条文に明記されていることが多く解釈の余地が少ないためです。また出題範囲も狭く、出題される箇所は毎年ほぼ決まっています(所得分類や所得金額の計算等)。そういった点では、租税法は「試験対策がしやすい」科目といえます。
 また、このような科目の性質から足切りにならない程度の点数を取ることは難しくないことがメリットといえます。出題意図を掴むことができなくても、適切に条文を指摘して事実をあてはめることができれば一定の点数を稼ぐことができます。年度によってバラツキはありますが、租税法の合格ライン未満の受験者(いわゆる「足切り」に遭った受験者)は毎年選択者全体の10%を切っており、令和2年については300人弱が選択して僅か1人しかいませんでした。選択科目にかけられる時間は多くないが足切りは逃れたい受験者にはお勧めできる科目です。

(2) デメリット
 これは租税法学全体にいえる点ですが、税法の条文は読解しにくいことが多々あります。課税要件等を条文の中に全て盛り込むために一文が極めて長くなり、括弧書も多用されることになるためです。また譲渡所得の法的性質等学習の初期の段階では理解がしにくい概念も多く存在します。厄介なことに、このような条文や概念が司法試験ではよく出題されるので、初学者がとっつきにくいデメリットがあります。
 そしてこれが最大のデメリットですが、租税法がマイナー科目であり勉強するための教材(基本書や演習書)が少なく選択者数も少ないことから、自主学習が他の科目よりも難しいことです。選択者の人数が比較的多い大規模のLSでは自主ゼミを組み勉強することがまだ容易ですが(私がそうでした)、小規模のLSに通う方や予備試験経由で司法試験合格を目指す方は、勉強する環境を整備することに一苦労することが予想されます。

3 LSでの租税法学習状況

 前述した通り、LSでの講義をしっかり受けることが受験勉強になることと考えていましたので、開講される税法の科目は全て履修しました。開講された科目は、・税法の入門科目、・所得税法と法人税法の科目及び・税法の演習科目でしたが、教授は条文の読み方を重視した講義を行っていましたので、講義を受ける中で難解な条文の読み方を身につけることができたと思っています。
 また、3年次の後期からは税法科目受講者全員で自主ゼミを組み、直近の試験の過去問を起案して添削し合う自主ゼミを組んでいました。他の受講生の答案を読んで自分の答案と比較することで、答案作成の技術を磨くことができました。

4 租税法の受験対策

(1) タイトルにも記載した通り、私は司法試験受験までに税法の基本的な条文の理解(課税要件とその効果、趣旨の暗記)と重要判例の内容暗記に努めました。租税法では基本7科目のように論点に関する学説の激しい対立がある訳ではなく、また憲法のような関連する判例裁判例の深い理解が必ずしも必須ではありません。ですが、他の選択者は条文等をしっかり理解して受験に臨む以上ここがあやふやで答案に表現できなければそれだけで点に差をつけられてしまうと考えたためです。
 私はLSの講義で使用した教材(谷口勢津夫『税法基本講義』、租税判例百選、金子宏他『ケースブック租税法』)を熟読していましたが、これとは別に辰已法律研究所が以前出版した『1冊だけで租税法』という参考書を使用していました。この本は、租税法バージョンの趣旨規範ハンドブックと各年度の再現答案集を一緒にしたものです。基本科目の趣旨規範ハンドブックと同様、法律用語の意義と論点毎の規範及びその理由付けが詳細に掲載されているので、期末試験や模試受験前に見返していました。『1冊だけで~』は司法試験受験まで重宝したので、選択者の方は購入することを強く推奨します。

(2) 私は市販の演習書よりも司法試験の過去問を中心に基本7科目の受験勉強を進めていましたが、選択科目でも同様に行いました。そもそも試験に有益な租税法の演習書が少ないことと、演習書に取り組む時間が無かったためです。租税法の過去問は30問あります(1年につき2問)ので、全年度取り組めば出題される論点はほぼ網羅できると思います。
 基本7科目については上位の再現答案を収集して内容を検討することが容易ですが、租税法は受験者数が少ないこともあり収集すること自体が難しいと思います。『1冊だけで~』には平成29年の司法試験の再現答案が各1通ずつ掲載されていますが、それ以降の年度については年度毎の再現答案集を参照していました。
 過去問学習で大切なことは、出題趣旨や採点実感をよく読み出題者が書いて欲しいことを学ぶことです。租税法の考査委員は他の科目と比較して親切(?)ですので、出題趣旨等には答案作成にあたり注意すべき点が詳細に記載されています(条文引用の際は括弧書まで正確に記載する、重要判例がある場合は必ずそれに触れる等)。

5 受験する人へのアドバイス

 租税法は、他の選択科目と比較すると親しみにくく勉強が難しいという点は否定できないことが実情です。ですが、勉強の初期段階では薄い入門書を読み、基本書で理解を深めて過去問に取り組み仕上げるという基本7科目で行う勉強方法を租税法でも実施して頂ければ十分合格答案を書くことができるレベルまで到達できる科目と私は考えています。
 予備試験受験の為に租税法をこれから勉強される方は、大学や法科大学院の先輩や教員、SNS上で情報発信している合格者の方に色々と質問相談することをお勧めします。頑張って下さい。

辰已法律研究所 受講歴

【2021年対策】
・司法試験全国公開模試

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