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法科大学院の授業を大切にすることが、
実は合格への近道です

横山 大輔さん
受験歴: 1回
立教大学法学部法学科
東京大学法科大学院 【既修】2020年入学・2022年修了
既修者一発合格

1 司法試験の受験を決意した経緯、合格までの道のり

(1) 弁護士になりたいと考えた経緯
 私は社会人出身で法科大学院に進学した49歳の受験生です。私は小学生の頃から漠然と「法律って面白いな。法律を仕事にする弁護士になってみたいな」と考えておりました。しかし、法学部受験に失敗したからということもありますが、平成一桁頃の旧司法試験は極めて難関で、とても私に太刀打ち出来る試験ではありませんでした(受験経験すらありません)。
 その後、法学部への学内転部を経て、裁判所書記官となりましたが、いざ事件処理の現場に立つと公務員ではどうしても踏み込み難い領域があります。そこで、今度は弁護士として別の形で社会に貢献したいと考えたのが司法試験受験の動機です。

(2) 法科大学院進学まで
 私は法科大学院ルートでしたが、少し特殊事情がありました。法学部卒とはいえ20年以上前の話で、社会人なら未習者コースだろうと東京大学と京都大学の未習者コースを受け、京都大学法科大学院の未習者特別選抜で合格通知を頂きました(東大は二次試験不合格)。1月の入学前説会にも参加し、4月には退職して進学を予定していたのですが、急きょ家庭の事情で進学が困難になり、京大にはお詫びの手紙を書いて入学を辞退しました。
 そこで、今度は通学可能な東京圏の既習者コースに方針転換し、翌年度入試で幸いにも合格出来ました。

(3) 社会人の法科大学院進学について

 社会人が司法試験を狙う場合、予備試験ルートを考える方が多いと思います。近年は法科大学院の社会人出身入学者の割合は低下傾向にありますが、2~3年受験勉強に専念出来る環境を享受出来ること、司法試験受験資格獲得が予備試験より容易であること、どの法科大学院でも上位層の合格率は予備試験組と同等と思われること等を考慮すると法科大学院ルートも選択の価値はあります。私の学年でも、比較的年齢が高くなってから入学した社会人出身者は未習者コースにも関わらず成績優秀者賞に選ばれるなど優秀な方が多かったです。
 ネックは学費と時間でしょうか。少々生臭い話ですが、私は併願校受験料・入学金やパソコン等購入費も含めて2年間で300万円ほどかかりました。

(4) どの法科大学院が良いか
 法科大学院選びは迷うところですが、立地・学費・合格率・学習支援などをできる限り入試説明会に足を運んで入念に検討し、「この学校なら頑張れる。この大学で学びたい」と思える自分に合ったところを選択するのがベストです。
 また、社会人は未習者コース志願が多いでしょうが、法律学習経験があるなら既習者コースが実は狙い目です。既習者コースは法律科目試験の配点が高く、大学時代の成績が不安でも筆記試験で挽回出来る余地が大いにあるからです。大学5年間を東大再受験に捧げ、学部成績に全く自信がなかった私が合格出来たのは既習者コースに切り替えたからではないかと思っています。

2 法科大学院入学前の学習状況

(1) 未習者コース用教科書・入門書
 前述の通り1月に既習者コース受験を決めた私は、基本七法の入門書や教科書通読から始めました。幸い、京都大学から「事前に読んでおくべき入門書・教科書」の手紙を頂いたので、それらを片っ端から読み進めました。『法学教室』2013年12月号に未習者コース入学前に読んでおく本が多数紹介されており、これも大変参考になりました。

(2) 問題演習中心の受験勉強が効果的
 そして8月の私立入試が近づくと問題演習中心の勉強に切り替え、いわゆる典型論点とその答え方の知識を詰め込みました。1週間ほど取れた夏季休暇中は、涼しい公民館図書室で演習書精読に集中しました。
 演習書の使い方ですが、読まなければならない演習書が複数あり、時間が限られているなら、解答のフル起案や答案構成は省略し、六法を手元に置いて条文を逐一引きつつ解答解説を熟読する「読む学習」がお勧めです。この方法だと、短時間で多くの演習書や受験雑誌の問題に当たることが出来るからです。
 入試過去問や小論文問題は入手出来る限りの過去問を実際に解いてみるべきですが、手書きでなくパソコンで書くと数をこなせます。本番は手書きなのに、パソコンで書いて大丈夫? と思うかもしれませんが、法科大学院の期末試験や司法試験も含め、意外とワープロ起案でもトレーニング効果は高く、手書き起案と遜色はありません。ただし、ワープロ起案時はネットに接続せず、他の資料の参照なし(法律科目試験は判例なし六法のみ参照可)で書きましょう。

3 法科大学院入学後の学習状況

(1) 授業への取り組みについて
 もしも、「司法試験に合格出来た要因を一言で言うと?」と問われたら、迷わず「法科大学院の授業を大切にし、しっかり予習して、授業内容を十分消化出来るよう法科大学院教育を信じたこと」と確信を持って答えます。在学中は予備校は一切通わず、そもそも時間的にも精神的にも通う余裕はありませんでした。司法試験過去問の検討も十分だったとはいえません。しかし、合格出来ました。
 法科大学院では定期試験で不可→留年の恐怖に怯え、何とか進級して卒業することを第一に考えて授業の予習に取り組んできたのですが、結果的に法科大学院の学修が司法試験合格にも直結していました。私の場合、司法試験合格は100%法科大学院のおかげと深く感謝しています。
 法科大学院の授業は、予習課題が出され、質疑応答型授業が多いと思います。私は予習中心型で、出された課題は全部自分なりに答えを作って授業に臨んでいました。大規模校だと必ずしも毎回当てられることはないと思いますが、自分が当たらなかった時も心の中で答えを言ってみて、また、先生が回答希望者を募ったときは積極的に手を挙げて発言し、自分の答えに対するコメントをもらうと緊張感も維持出来て良いと思います。

(2) 受験に役に立った書籍等
 私が使用した演習書類は次のとおりです。

【基礎力養成】
『えんしゅう本』(基本七法いずれも)(辰已法律研究所)
『基本から合格答案を即効で書けるようになる本①~③』(辰已法律研究所)
『月刊 受験新報』連載「演習教室」(法学書院)・・・ただし、現在は休刊
『ハイローヤー』(辰已法律研究所)

【憲法】
『判例から考える憲法』(法学書院)
『事例研究 憲法(第2版)』(日本評論社)

【行政法】
『事例研究 行政法(第3版)』(日本評論社)

【民法】
『基本事例で考える民法演習1・2』(日本評論社)
『事例で学ぶ民法演習』(成文堂)
『事例から民法を考える』(有斐閣)

【刑法】
『ロースクール演習刑法(第2版)』(法学書院)

【商法】
『事例研究 会社法』(日本評論社)
『事例で考える会社法(第2版)』(有斐閣)
『Law Practice商法(第3版)』(商事法務)

【民事訴訟法】
『基礎演習 民事訴訟法(第2版)』(弘文堂)
『Law Practice 民事訴訟法(第3版)』(商事法務)

【刑事訴訟法】
『事例演習 刑事訴訟法(第2版)』(有斐閣)
『ロースクール演習 刑事訴訟法(第2版)』(法学書院)

 順番が前後しますが、【基礎力養成】は前述の既習者コース受験対策に利用したものです。これらなしに合格はあり得ず、進学後の基礎力要請にもなったので、これらの出版社には足を向けて寝られません。『受験新報』は残念ながら休刊になりましたが、大きな図書館にバックナンバーがあるはずですから「演習教室」などをコピーして解いてみましょう。

(3) 定期試験対策について
 法科大学院生の方は、定期試験対策は極めて重要で気になるところだと思います。私の出身校では、定期試験過去問が全部公開されていたので、印刷して全年度分解きました。公開されているのは問題だけなのですが、教科書・参考書・判例集・予備校本等を駆使して自分が書ける最高の答案を作り上げること自体が最良の期末試験対策になり、また、授業の復習にもなります。期末試験過去問を入手出来る方は、ぜひこの方法で試してみて下さい。
 司法試験にも全く同じ事がいえますが、15年以上も出題実績があると、ほぼ出題のネタは出尽くして今後の出題はそこから少し切り口を変えてみたり、複合テーマにしてみたりと過去問のリメイク版が出題されることが多いです。「最高の試験対策法は過去問」と在学中に先生からも言われましたが、期末試験対策は司法試験合格と軌を一にしているので、どうか1点でも多く取れ、学内成績を上げるためにも全力で取り組んで下さい。

(4) 自主ゼミについて
 法科大学院生の勉強というと仲間同士で勉強会を組む「自主ゼミ」について聞いたことがある方も多いと思います。自主ゼミについて実体験を基に申し上げれば「声をかけてもらう機会があればぜひ参加すると良いが、合格に必須とはいえない」というところです。私は入学後、とにかく期末試験への恐怖が強く、たまたまオンライン懇親会で声をかけてもらった未習者コース入学者(つまり1年先に入学した同学年の1年先輩)の誘いに応じて未習2名・既習2名の混成チームで期末試験過去問を解くゼミをオンラインでやっていました。ゼミは夏休みで自然解散となったのですが、メンバー4人は全員最短で卒業出来ています。
 どんな人と組むのが良いかにつき諸説ありますが、縁あって声をかけてくれたならまず参加してみて、絶対欠席しない・全力で答案を作成して出す・資料係など裏方を進んで引き受けるといった努力でメンバーに認めてもらえるようせっかくの出会いを大切にしましょう。
 なお、自主ゼミ自然解散後、期末試験も司法試験も一人で勉強していたのですが、それでも両方とも合格出来ました。答案回覧や答案批評は出来れば素晴らしいですが、合格のために必須とまではいえません。

(5) 選択科目や履修授業数等について
 法科大学院では卒業要件単位+2~+4単位くらいの人が多いですが、せっかくの機会なので、興味ある科目は履修するのが良いと思います。私も比較的単位数が多い方で、同級生は履修可能上限近くまで多くの科目を取り、それでも成績優秀者で卒業しました。

4 オススメの司法試験過去問演習法

(1) 短答試験対策
 短答試験対策は辰已の『短答過去問パーフェクト』の繰り返しが効果的です。私も憲民刑は3周しました。得点力アップの鍵は、何回解くかよりも解説の熟読にあります。六法片手に解説を熟読し、必要なら判例集や教科書の該当箇所も熟読して下さい。「なぜ×なのか? どうして○でないのか?」を考える学習が初見問題にも対応出来る実力を育みます。

(2) 論文試験対策
 論文対策は、辰已の『論文過去問パーフェクトぶんせき本』を理想的には全年度検討することですが、法科大学院生は時間的に難しいかと思います。少なくとも直近5年分、それが終わったら直近10年分は検討し、予備試験過去問は今後同一テーマが出るといわれているため全年度検討するのが良いようです。
 再現答案は脚色されていたり、上位合格答案といえども誤りが含まれているため、相場観をつかんだり、参考として読むの止め、決してこれを写経して暗記しようとは考えないほうがいいです。模範答案には先生が書いた解答例を使いましょう。

5 これから司法試験に挑まれる皆さまへ

(1) 全国模試はぜひ会場受験を!
 在学中予備校を利用しない人も直前期の全国模試はぜひ会場受験で受けて下さい。辰已は本試験会場の急な変更にも直ちに対応するなど極めて本番準拠です。私の反省も込めて申し上げますが、模試受験後はどうか丹念に復習して下さい。

(2) 司法試験当日豆知識
 なお、司法試験当日は「試験室内はパソコン等電子機器使用禁止」に注意が必要です。模試では黙認されますが、本番では机上に出すことすら出来ません。よって、復習用教材をタブレット等に入れている方は注意が必要で、ノートや参考書、印刷したペーパーなど紙媒体で持参して下さい。また、司法試験用法文は試験時以外手を触れること禁止で、条文確認用のポケット六法は別途持参しましょう。
 全国模試を会場受験しておくと、開場前に自習出来そうなスペースや近隣のお店を確認出来るので、この点からも会場受験を強くお勧めします。

(3) おわりに

 司法試験はどんな受験生でも受かる保証はなく、先が見えない不安に意欲を失いかける時もあると思います。在学中の方は、学内の相談機関など、不安になったら早めに専門家に相談して下さい。SOSを出せることは社会人になってからも大切なことで、弱さの表れではなく、むしろ勇気の証です。
 そして、私たちは受験生である前に生物としての人間です。心身の健康は受験勉強の前提ですから、朝起き夜寝る生物リズムに沿った規則正しい生活が大切です。朝散歩やサイクリングをするなど軽い運動を取り入れるのもとてもいいですね。
 「夜明け前が一番暗い」「冬来たりなば春遠からじ」といいます、今は出口の見えない暗いトンネルの中でも、歩き続ければ必ず出口の光は見えます。どうか不安の中でも、決してあきらめずに頑張って下さい。合格を心よりお祈り申し上げます。

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