過去問演習中心主義
1 司法試験の受験を決意した経緯、合格までの道のり
私が幼いころ、大学生の就職難が叫ばれ続けており、子供心に将来が心配でした。その原体験からalternativeな人材にはなりたくないと思い、何かしらの専門職に就くことを希望するようになっていました。大学受験の結果、法学部に進学することになり、かつ私が進学した大学が司法試験の対策を充実していることもあり、法曹への進路を決めました。
2 法科大学院受験前の学習状況(法律学習)
法曹になろうと決めたのは学部1年次でしたが、本格的に法律の勉強を始めたのは3年次の秋からです。私の通う大学においては、基礎的な事項をインプットした後は、①演習書に取り組んでみる→②分からないところは基本書等で調べる→③辰已の趣旨規範ハンドブックを確認して論点を再度確かめる(or補充的に書き込む)という勉強方法が大体スタンダートに行われていたので、例にもれず私もそのような勉強法を採用しました。大体7科目の演習が終わったところで、ロースクール入学試験の過去問のうち、中大、早稲田、慶応を10年分くらい解き(といっても全年度答案作成することは時間に余裕がなく出来なかったので、答案構成に留まることも多かったです)、ロースクール入試に臨みました。国立ロー受験においても、過去問を愚直に解きつつ、記憶が薄れたところは趣旨規範を読んでいました。
3 法科大学院入学後の学習状況(法律学習)
学部3年次で予備試験に合格し、4年で司法試験に合格した知り合いに、「なぜ予備試験に向けて勉強しないんだ。全力で勉強する癖をつけないでどうやって司法試験に受かるんだ。ロースクールに進学しようが、最終的に司法試験に受からなきゃダメなんだぞ。予備試験に挑もうとしないお前はダメだ」という内容の叱咤を受け、これに感情的に反発した私は、彼を見返すために予備試験に本格的に取り組むことを決意しました。ロースクール入学後は、短答の勉強を授業の傍らに続けました。この時は人生で一二を争うほど勉強をした時期だと思います。朝7時30分には登校し、23時くらいに帰る生活だったと思います。授業の予習、授業時間があるため、択一の勉強を捻出するのが難しく、このような生活を強いられました。無事、短答式試験に合格しており、その後の論文式試験、口述試験にも無事合格することができました。ロースクール受験に向けた過去問勉強により、演習量は足りていたのか、趣旨規範ハンドブックを読みつつ実務の勉強に励んだことがこの2つの試験の合格の要因だったのかと思います。11月に予備試験に合格したため、司法試験に向けた勉強を、過去問演習を中心に始めました。
4 司法試験受験対策
司法試験受験対策としては、①過去問演習をメインに②流行りの演習書を解きつつ③選択科目勉強、を行いました。
まず①ですが、司法試験は各科目2時間(選択科目については後述)の相当程度集中力を要する試験ですので、試験に慣れるために過去問は必須だと思います。よく「過去問はつまり2度と出ない試験ということだからやらない」という言葉を聞きますが、少なくとも司法試験においてそれは悪手だと思います。また、解いてみるとわかるのですが似た論点の問題自体は普通に出ます(むしろ始まってから10何年も経つ新司法試験で被らない問題を出すことは困難なのでは?と思います)。また相場観みたいなものも身につきます。毎年これくらいの深さのことは聞かれているのだから、一見単純そうなこの問題もなにかあるはずだ……、など。過去問演習の方法としては、オーソドックスに過去問を時間を計って解き、その後、出題の趣旨・採点実感を読み、辰已の分析本を再現答案、模範答案を中心に確かめる、というパートです。一連の動作で大体4時間くらいかかっていたので、これを逆算してなんとなくのスケジュールを立てていました。
次に②ですが、合格思考民法・憲法(辰已)、刑法は事例演習教材、下3はロープラ、行政は事例研究行政法、を解いていました。演習書のチョイスは周囲で流行っているもの、でしたので何か好みがある人はそちらを使う方が良いかと思います。時間がなかったため、あまり答案作成まで行わず、答案構成に留めて問題をこなす方に注力していました。
最後に③ですが、私は国際関係法(公法系)を選択していましたので、予備校の書籍が全く充実してないだけでなく、そもそも演習書も2冊しかありませんでした。そのため、インプット教材としては、杉原高嶺『基本国際法』(第3版、有斐閣、2018年)を通読し基本的な知識を入れた後、他の予備校の講義を受講していました。そのうえで、辞書代わりに杉原高嶺『国際法学講義』(第2版、有斐閣、2013年)を購入しつつ、演習として司法試験過去問と辰已の選択科目集中答練を利用しました。マイナー科目においては、そもそも演習をするのが難しく、そのうえそれに対する解答を調達することも難しい(論文の書き方が分からない)という2重の苦しみがありますが、選択科目集中答練は全部で16問の問題を解くことができ(しかも全部違う範囲から)、そのうえ割と細かい採点表に従って添削をしてもらえるので自分の実力が率直に判定されます(採点表の点数は、概ね司法試験の趣旨、採点実感を読んで想定される配点とズレていません)。選択科目に関しては、過去問と選択科目集中答練の問題の復習をメインに、本試験当日を迎えました。
5 来年以降の受験生に対するアドバイス
まず各論的にですが、民事系と公法系に関しては良くも悪くも今までとそこまで変わりません。過去問演習をメインに、百選判例を潰しつつ、問題文の特殊事情を拾うことができるような規範を設定して、司法試験の込み入った問題を解くことができれば合格点には乗る印象です。刑事系に関しては平成30年から変化はあります。明確に、「事例処理能力」から「多角的検討」という違う能力が問われるようになっています。現場で、こういう見方もあるだろうと思いつく人はともかく、それが出来ない人は(かつそれが大勢だと思いますが)従来と比べて学説を押さえる必要があります。各予備校も2年連続でそのような問題が出されている以上、それに対応した問題を作るでしょうから、友達と協力して刑事系の問題は集めて解いてみることをお勧めします(答練でも模試でも)。
最後に、司法試験対策全般にかけてですが、決して完璧な答案を書かなくても合格水準には載ります。しかしどの論点が来ても、ある程度は書くことが出来る状態にする必要があり、かつそれが難しいんだと思います。長所を伸ばす勉強よりは、短所を無くす方が合格には近づく印象ですので、各科目抜けがないように勉強をすることをお勧めします。
また、加点要素として、如何に特殊事情を拾うか、ですが、これについては規範を逆算するイメージでいいと思います。例えば今年の民事訴訟法の設問1は専属的合意管轄・移送を問う問題でしたが、少なくとも私はこの論点を見たことはありませんでした。しかし、問題文の事情からして拾ってほしそうな、全国各地に支店があるとか、一方当事者がAに住んでいる事実、AとBが離れている事実などを考慮できる規範を立てることを逆算します。もちろんこれがあっているかどうかは分かりませんが、少なくとも自分なりに規範を立てて特殊事情を拾うことができていれば問題ないのではないでしょうか。
最後に心構え。本気で受かる気で司法試験を受けることだと思います。上記したように私は以前知り合いに予備試験に合格しなくては駄目だという叱咤を受けている訳ですが、これはつまり司法試験に受かるには本気で(他の何物にも目をくれず)勉強することが必要で、そのような環境に慣れる一番たやすい方法は予備試験に合格しようと努力すること、という意味だと最近実感しています。予備試験に惜しくも受からなかった受験生、あるいは予備試験を受験しなかった受験生、いらっしゃると思いますし、それ自体は問題ありません。しかし、本気で勉強をする時間が合格には必要です。この点を気に留めて頂きたいです。
司法試験は思ったより自然な感じで当日を迎えます。気づいたら当日で、とんでもなく疲労する凄まじい試験です。心より応援しています。
辰已法律研究所 受講歴
・司法試験全国公開模試
・選択科目集中答練