司法試験は、努力すれば誰でも合格できる試験です。しかし、努力の方向性を間違えると一生受からない試験でもあります。
1 受験を決意した経緯、合格までの道のり
私は、法学部出身で司法試験の難しさを知っていただけに、学部時代は司法試験を目指すことはありませんでした。普通に就職活動をし、大学卒業後は銀行の法人営業担当者としてキャリアをスタートさせました。ところが、いざ会社で働いてみると、当時リーマンショック後であったこともあり、パワハラ、モラハラ、不可能な営業目標の押し付け、その他多くの理不尽な経験をしました。何か自分に誇れるものがあればともかく、何の強みも持たない少し以前まで普通の大学生だった私は、卑屈になり、どんどん自分が惨めになっていきました。そんな期間が数年続くと、大学の友人たちが、弁護士となり、専門性を武器に世間で活躍しはじめました。眩しかったです。
たしかに司法試験は、孤独で辛いチャレンジです。しかし、書面審査であり、誰かの恣意性が混入することはなく、誰に対しても平等です。不合格であっても、努力不足、又は努力の方向性が間違っているからであり、すべて自分の責任です。頑張る人が報われ、そこには何も理不尽もありません。そのような理由で、私は司法試験の受験を志しました。
2 自己の反省を踏まえ、これから受験するひとへのアドバイス
私は、能力の低い人間です。他人より圧倒的に記憶力が悪く、理解力に乏しく、記憶できる容量も小さく、筆記力でも劣っています。実際に、合格まで、法律を本格的に学習し始めてから8年、司法試験も5回受験してやっと合格できました。しかし、だからこそ、多くの方の勉強法を学び、かつ、自分なりの工夫をすることで、他人の何倍ものノウハウの蓄積できた自信があります。
こう言われても、なかなか信じられないと思います。実際、私も多くの方の合格体験記やアドバイスを聞いてきましたが、多くの合格者は、自身の成功体験を過大視しがちであり、疑問符のつくアドバイスや属人的なアドバイスがほとんどでした。また、勉強法やオススメの参考書などは、受験生それぞれの進捗度やバックグラウンドによって一義的な正解はないと考えています。
しかし、それでも、万人に効果のあるアドバイスというのも存在します。それは、まずテクニック、そして、課題を発掘し、やるべきことを具体化する方法論です。
3 テクニックについて
(1) 短答式試験対策
・短い肢から解く。
私が調査した限り、肢の文章の長さと正誤の確率に偏りはありませんでした(少なくとも憲法と刑法の過去問では)。
したがって、必ず短い肢から解いていくべきです。すべての肢を読むような余裕はありません。
・後ろの肢から解く
択一問題は、選択問題共に最後の肢まで読まないと解けない問題の方が多いです。
したがって、短い肢を読み終えたら、次は後ろの肢から読むことをお勧めします。
・芦部を読む(憲法が苦手な方向け)
憲法は、他の科目と比べて学説を問う問題が多いです。そして、そのネタ元を探すと芦部に記載があることが非常に多いです(あとは4人本)。基本書を通読するのは基本的には時間の無駄です。
しかし、こと憲法の短答に関してだけは例外です。芦部通読、意外と効果的です。
・条文を読む(国会法等も)
統治の条文、頭に入っていますか?。憲法短答では、意外とそのまま出題されています。衆院の解散後何日以内に総選挙を行うか等、条文を知っているだけで解ける問題は少なくありません。さらに、国会法や国民投票法等の条文だけで解けることも少なくありません。
これは、過去問だけではカバーしにくい憲法短答だけの特徴であり、かつ、条文だけを知っているだけで解ける点で非常にコスパが良いです。
・直近の重要判例を読む(憲法)
憲法では、毎年のように直近の重要判例が問われています。法曹を目指すなら時事に興味を持てということなんでしょう。そういった意味で、辰已の短答問題はよく出来ています。少なくとも短答模試の水準は、辰已が圧倒的に優れていると思います。
(2) 論文式試験対策
司法試験の論文式試験は、限られた時間内で問題の事例を読み解き、出題者の意図に従い、答案構成をし、実際に起案をするという試験です。私は、ここで求められる能力は、速読力×知識×構成力×筆記力を乗じたものだと考えております。つまり、平均的な合格者の能力と比べて各能力が10%低いだけでも、最終的な得点は0.9×0.9×0.9×0.9=65.61%になってしまいます(得点調整前ですが)。
そこで、この総合点を100%以上にする必要があります。その為には、当たり前ですが何処かの要素を1.0以上にしつつ、弱点の要素を1.0に近づける必要があります。そして、上記の要素のうち、知識については繰り返し根気をもってインプットの作業をするしかありません。しかし、その他の要素の向上には、それなりの方法論があります。
○早く書くためのテクニック
・筆記用具にこだわる
筆記用具は延べ30本ほど試しました。メインのペンは、サラサ→RAMY万年筆→プラチナム万年筆→1000円のjetstream→ノーマル太さ1.0のjetstreamと変遷しました。
ここで注意いただきたいのが、瞬間的な筆記スピードと1日3科目通じての筆記スピードは違う点、つまり疲れにくさとスピードの両者を兼ね備えたペンを選ぶことの重要性です。
私が一番早く描けるペンはjetstreamの高い方で、最後の司法試験でも1日目はそれを使っていました。しかし、本番独特の腕に力が入る状況ではあまりに力が入ってしまい、思いきって2日目からは通常のjetstreamに変更しました。本番を想定して試すことはペン選びに限らず重要です。自宅等で過去問を回すのも良いですが、毎週辰已まで来て答練を受ける方が絶対近道だと思います。
・ペン先はとにかく太いものを使う。
最初は慣れないかもしれません。しかし、スピードは太い方がかならず早いです。多少疲れても、太いペン先のものになれるようにしましょう。
・ペンは極細のものも準備する
試験では後で気がついて加筆することも多いと思います。そんなとき、細いペンでないと字がつぶれて読めなくなってしまいます。
・文字は小さく、かつ、隙間を広げて書く
偉い方は、よく文字は大きく丁寧に書けとアドバイスされます。しかし、物理的に文字は小さな方が確実に早く書けます。
もちろん、小さすぎると採点者に読みにくく、また、答案の枚数が伸びず印象が悪いというネガティブな側面もあります(だからそういったアドバイスがあるのでしょう)。
そこで、文字と文字の隙間は大きくして読みやすさと枚数に配慮しつつ、可能な限り小さな文字で記載するべきです。
・右上がりの文字を書く。
日本語は、もともと縦書きで書かれる文字です。横書きでは、払いと次の文字の一画目との距離が離れてしまい、どうしても書くスピードが遅くなってしまいます。では、右上がりと右下がりでは、どちらが縦書きに近いでしょうか?圧倒的に右上がりの文字です。
私は、答案用紙を右側を下にして、半分縦書きのようにして書いていました。これは、かなり効果的でした。
・苦手な文字、特にひらがなを抽出する
友人に自信の答案を添削してもらう際、どの文字が読みにくいか聞いて見てください。私の場合、「し」「て」「く」の使い分け、「る」と「ろ」、「す」の使い分けが分かりにくいといった自分の気がつかなかった指摘を受け、自分なりに書き分けられるよう工夫をしました。
・答案構成を十分にしてみる
司法試験は書面審査である以上、答案の分量を増やすことは必要不可欠です。そうすると、起案に割ける時間を増やすために、事例を読む時間や答案構成の時間を削減することに注力しがちです。
しかし、思いきって答案構成の時間を増やす試みをするのも戦略としてありだと思います(向き不向きはありますが)。
私の場合は、考えながら書くという作業が筆記スピードの上がらなかった最大の原因であったので、構成を十分にした上で、あとは筆記マシーンになりきることでかなり書ける分量が増えました(特に憲法と租税法、民法、刑法。一方で、民事訴訟法や刑訴法は逆に分量が少なくなってしまいました)。
このように、科目による特性や自信の得意不得意も影響します。そこで、各科目毎にどの程度答案構成をするのが最適なのか、実際に時間を計って色々試して見てください。
○答案構成の時間を削減する方法
・4色ボールペン活用の勧め
とくに憲法では、問題文の事情を、法令違憲の積極的要素及び消極的要素並びに適用違憲の積極的要素及び消極的要素の4つに分ける必要があります。そんなとき、それぞれの事情を答案構成に書き写すと確実に時間不足になってしまいます。そこで、自分の中で何色がどの事実かを事前に決めておき、問題文を読むときに各事情に分類することは時間短縮に多いに役立ちます。その他、行政法では、この事実は原告適格で用いる事実、この事実は本案の○○で使う事実といった切り分けをします。このとき、ペンをいちいち持ち替えずに色分けできる4色ボールペンは非常に役立ちます。
○印象点アップの小技
・公用文の書き方を学ぶ
ある司法試験の元採点者の方から伺ったのですが、本試験では予備校ほど配点表で示された点数の比率は高くなく、裁量点がより多いそうです。そうすると、何を書いたかという点はもちろんですが、答案全体の印象点がより重要だということがわかります。
では、どうすれば印象点が高くなるでしょうか?
私は、三段論法と公用文ルールに則っていることだと思います。三段論法の重要性は多くの方が語っているので言及しません。
では、公用文ルールとは何かというと、、、調べてください。書ききれません。
例を挙げると、接続詞の「ただし」を「但し」と書いていると、一発で、判例や法曹の文章を読んでいないことが分かってしまいます。※平成以降の公的文書で「但し」が用いられている文書はありません。他には、規範の考慮要素をあげる際に、A、B、C、及びD等と書かれていても、同じく印象は最悪です。※及び=制限列挙と等=非制限列挙が混在しています。
司法試験は、実務家登用試験です。法曹という仲間内の共通言語に注意を払っていない受験生を採点官は仲間に入れようとは思わないはずです。
細かいと思うかもしれませんが、実はかなり影響していると思います。
(3) 課題発掘及びやるべきことの具体化方法について
・マンデラチャートのすすめ
大谷翔平が高校時代に作成したことで有名な方法です。
まず、9×9のシートを作成します(excelがおすすめです)。つぎに、その中心に司法試験上位合格と記入してください(ぎりぎりを狙うと必ず落ちます)。そうしたら、その目標を実現するために必要な能力を周囲の3×3のシートの残り8つのマスに記入してください。例えば、必ず6枚は書ける筆記力、趣旨規範ハンドブックに記載されている内容は反射的にアウトプットできる知識、一日三科目を書ききれる体力、失敗しても不良のボックスに入れられない答案を書ききる…などです。その後は、8つの能力をそれぞれ外側の3×3のシートの中心に転記し、それを実現するための手段を考えて見てください。例えば、筆記力を挙げたのであれば、そのための取り組みとして、上述したようなものを8つ記入します。
以上の取り組みをすれば、あっという間に自分だけのオリジナルTODOシートが出来上がります。あとは、それを無理なくスケジューリングすればよいだけです。
辰已法律研究所 受講歴
【2016年対策】
・司法試験全国公開模試
・答練
【2011年対策】
・適性試験オープン
・小論文全国模試