徹底した過去問分析が合格への近道
1 司法試験の受験を決意した経緯、合格までの道のり
進路に迷っていた大学生のころ、大学の先輩弁護士からお話を伺う中で、依頼者に寄り添って人権を擁護する弁護士になりたいと思う様になりました。大学には弁護士の先生から司法試験のための勉強を教えて頂ける制度が整っていたので、これらを利用しつつ、法科大学院に進学しました。その後、法科大学院を卒業して、1回目の司法試験で合格することができました。
2 法科大学院受験前の学習状況(法律学習)
学部1年の頃から、先輩弁護士による講義を聞き、学部2年の後半頃から週1回2通旧司法試験の過去問を解いて、先輩弁護士の方の添削を受けていました。もっとも、当初は全く歯が立たず、ほとんど何も書けない状態でした。特に民法に苦手意識があったので、基本的な書き方を身につけるべく、辰已のえんしゅう本を読んで答案のイメージを掴むようにしていました。3年の終わり頃からは、法科大学院入試に向けて院の過去問を解いて議論するゼミを同期と行いました。議論していく中で頭の中が整理されていくのを感じました。
3 法科大学院入学後の学習状況(法律学習)
基本的には法科大学院の授業の課題と予習に時間を割きました。復習は時間が無かったのであまりできませんでした。加えて、毎週1通新司法試験の過去問を起案し、先輩弁護士の方の添削を受けていました。1年目(2年生)の頃は、とても2時間では書ききれないと思って、3時間くらい時間を使って色々考えながら書いたりしていました。2年目(3年生)からは、少し司法試験を意識し始めたので、時間を計って過去問を解くようになりましたが、途中答案が多かったように思います。また、授業の合間に同期で自主ゼミを行いました。教材は、①刑法事例演習教材、②基礎演習民事訴訟法、③憲法演習ノート21等です。①は全問ワードで起案し、②は問題ごとに担当を決めて担当者がレジュメを作成し、③は何問かピックアップしてワードで起案しました。そのほか、自分で民法ロープラクティスⅠ・Ⅱ、エクササイズ刑事訴訟法、事例研究行政法等を解いて(答案構成のみの問題も多かったです)、解説を読んでいました。法科大学院の授業が終わってからは、同期と過去問のゼミを週1~2回行いました。ゼミでは各々起案して互いに添削し、改善点などを指摘しあったりしていました。
4 受験対策
(1) 短答式試験の対策
ア、過去問
分野ごとではなく、年度ごとに過去問を解きたかったので、法務省のウェブページから過去問を印刷し、時間を計って解きました。間違えた肢とあやふやな肢については辰已の短答過去問パーフェクトを使って解説を確認しました。何度も間違える分野については、根本的な理解ができていないことが多かったので、基本書に立ち返って、当該分野を読み、判例六法等に一元化していました。
イ、スタンダード短答オープン(以下「スタ短」)
平成29年度以降、短答式試験が少し難化しており、過去問だけでは少し不安だったこと、民法改正に関する過去問が存在しなかったことから、辰已のスタ短を受講しました。スタ短は、過去問に近いクオリティの初見問題を解くことができたので、実力を測りつつ、短答知識を復習するのに役立ちました。
(2) 論文式試験の対策
ア、過去問
論文対策としては、過去問を解いてゼミで議論するというのが基本スタンスでした。緊急事態宣言発令後は、同期と会うこともできなくなったので、zoomやSkypeを使って、オンライン上でゼミを行いました。
過去問を分析する際には、辰已のぶんせき本が非常に参考になりました。ぶんせき本に掲載されている答案を見比べることで、上位答案のどこが評価されたのかが明らかになるからです。出題趣旨・採点実感、再現答案をもとに過去問を分析しながら、理解が乏しい所は、その都度基本書にあたって知識を確認・整理していました。
イ、辰已全国模試
法科大学院卒業後、3月末に辰已の全国模試を受験しました。受験した理由は、本会場で受験して本番の雰囲気を知りたいと思ったこと、辰已の模試であれば、一定の受験者数がおり、相対的な自分の順位を知ることができると考えたことにありました。実際に全国模試を受験してみて感じたのは、他の予備校よりも採点項目が細かいため、恣意的な採点が圧倒的に少ないということです。また、全国模試で出題された論点が本試験でもいくつか出題され(例えば、憲法の移動の自由等)、模試の範囲をしっかりと復習していたために本試験でも焦ることなく書くことができました。さらに、全国模試の成績と本試験での成績は近かったので、自身の実力を図るという点からも良かったです。
5 受験対策として私が使用した本
(1) 全科目共通して、過去問分析のためにぶんせき本を使用しました。ぶんせき本には様々な点数の再現答案が掲載されているので、これらの答案を見比べることで、上位答案のどこが評価されたのか、また合格水準の答案とはどのようなものなのかを探ることができました。その他、刑事訴訟については、ぶんせき本に加え、辰已のLive本刑事訴訟法に掲載されている新庄健二先生の解説を読みました。実務家の観点から司法試験の解説がなされており、検察官の思考を知ることができるので非常に参考になりました。
(2) 短答対策としては、短答過去問パーフェクトを使用していました。法務省のウェブページから過去問を印刷して解き、間違えた肢とあやふやな肢のみ短答過去問パーフェクトの解説を読みました。解説がコンパクトなので時短になりました。また、さらに深く知りたい時は、基本書の引用がついているので、そこから飛んで基本書等を当たったりもしました。
(3) 基本書は色々読みましたが、司法試験との関係では、基本憲法Ⅰ、基本行政法、民法の基礎1・2、ストゥデイア債権総論、日評ベーシック契約法、リーガルクエスト会社法・民事訴訟法、基本刑法Ⅰ・Ⅱ、(基本書と呼べるかわかりませんが)刑事訴訟法の思考プロセス等が有用だったと思います。もっとも、基本書は「何を使うか」よりも「どう使うか」、その本から「何を学ぶのか」を意識して使うことが大事だと思います。私は、当該法律の体系をなんとなく理解するために薄い本を通読し、分厚い基本書は論点に関する知識を確認するためにつまみ読みしていました。
6 これから受験する人へのアドバイス
(1) 過去問分析を怠らないこと
司法試験は、現時点で15年分の過去問があり、多くの科目で同じ論点が繰り返されています。そして、受験生の大半が過去問を中心に勉強していると思います。そのため、一度過去問で出題された論点についてはほとんどの人が書ける可能性が高いです。逆に過去問を解いていない人は、その時点で相対的に不利になります。さらに、過去問を解いたことがあっても、どう書けば評価されるのか、どこに点数があるのかといったことを把握してないと、せっかく書いても点数に結び付かない可能性があります。これらを知る上で欠かせないのが、出題趣旨・採点実感、再現答案です。この3つを使って徹底的に過去問を分析することで、点数の取り方を学ぶことが合格への近道だと思います。
(2) 答案を書くことと答案構成のみは違うということ
答案を書くには、かなりの労力と時間(司法試験の過去問であれば2時間)が必要です。そのため、場合によっては答案構成のみでその問題を終わらせるということもありだと思います。しかし、本試験では、2時間という時間制限のもと8枚内で書くことが求められており、答案構成のみではこの感覚を掴むことができません。また、自分では書けているつもりでも、本番で採点官に伝わらなければ意味がありません。表現力を磨くには、実際に答案を書くことが必要です。そのため、過去問を解く際には、答案構成のみで済ませるのではなく、原則として答案を書くことをお勧めします。
(3) 完璧を目指さないこと
私は、過去問を解く際、完璧に書こうとして途中答案になることが多かったです。しかし、司法試験は相対評価であり、近年の合格水準は47~48点です。つまり、合格のためには約50点は捨ててもよいのです。そのため、完璧を目指そうとするのではなく、現実的な答案とはどの様なものかを再現答案等から分析し、ほどほどの答案を目指す方が賢明だと思います。
(4) 最後まであきらめないこと
試験が近づいてくると、今の自分では合格はできないのではないかと弱気になることもあるかと思います。しかし、実力は最後の最後まで伸び続けます。たとえ、現時点で法科大学院や模試の成績が良くなかったとしても、ほとんどの受験生は実力が拮抗しているので、試験当日のコンディションや当日の閃き、問題の相性等によっては合格者が入れ替わり得ます。そのため、最後まであきらめず、勉強を続ければ十分受かるチャンスがあると思います。
また、本試験で分からない問題が出ても絶対にあきらめてはいけません。私自身、本試験の行政法で、誘導の意味が全くわからなくなり、1時間たっても構成が定まらず、諦めそうになりました。しかし、自分が分からない問題は大体皆もわかっていないことが多いです。相対評価である以上、皆ができていない問題は自分ができていなくとも致命傷にはなりません。分からないなりにも問題に必至にくらいつくことです。あきらめない限りはチャンスがあります。試験の終了の合図が鳴るその時まで絶対にあきらめないと決意して試験に臨んで頂ければと思います。
辰已法律研究所 受講歴
・司法試験全国公開模試
・スタンダード短答オープン