意外と忘れがち、分量バランスの重要性。
1 司法試験受験を決意した経緯
法曹は多くの人にとって身近な職業ではないと思います。しかし、法曹の父をもつ私にとって、法曹は最も身近な職業の1つであり、そして、父の職業である法曹に興味をもつことは自然なことでした。
また、大学時代に法律事務所でのアルバイトを経験し、多様な働き方をしている弁護士の方々のお話を聞くことで、自分の働き方を自由に選べる弁護士という職業に魅力を感じました。
そこで、私は司法試験を受験することを決めました。
2 法科大学院受験前の学習状況
法科大学院を受験するまで、私は予備校をほとんど利用したことがありませんでした。基本書に書いてあることを正確に理解・暗記できれば答案が書けるようになると考えていたからです。そこで、インプットとしては、大学の講義レジュメや講義で使用した基本書を読みこむという勉強をしていました。アウトプットとしては、大学主催のゼミに参加して答案添削指導を受けたり、辰已のえんしゅう本を読んだりという勉強をしていました。
3 法科大学院入学後の学習状況
私が入学した法科大学院は、2年次は基本科目の講義がメインで、本格的な演習は3年次に行うカリキュラムになっていました。
ソクラテスメソッドによる講義を受け、私は、基本的な事項について正確にインプットできていないという事実を突きつけられました。2年次は授業についていくのに必死で、授業の予習復習に追われる毎日でした(スコット・タロー著『ハーヴァード・ロー・スクール』を彷彿とさせる忙しさでした)。
3年次からはアウトプット中心の勉強にシフトしました。法科大学院での演習に加え、辰已の短答過去問パーフェクトやぶんせき本を利用した過去問演習を行いました。また、辰已の全国模試も受講しました。そして、自分は知識はそれなりにあるもののそれを答案上に表すことが苦手だと気付いたので、受験直前まで論証を覚えることに時間を割きました。しかし、本番では知らない論点が出たため上記の勉強方法では対応できず、結果は総合約1800位で不合格でした。
2回目の受験では上記失敗を踏まえ、論証暗記に頼らない勉強をすることにしました。1回目の受験でインプットは十分にできていると思っていましたので、辰已のスタンダード論文答練(スタ論)、全国模試を受講しアウトプットの練習に集中しました。
4 受験対策として
(1) 辰已講座の利用方法とその成果
法科大学院の先輩の評判が良かったので、3年次に全国模試を受験しました。それまでは法科大学院の成績のみで自分の実力を判断していたのですが、模試を受験したことにより受験生全体の中での自分の相対的な実力を知ることができました。
2年目はスタ論・スタ短(スタンダード短答オープン)を受講しました。スタ論では、細かい採点表に基づき採点がなされるので、自分の答案を見返して復習するときに非常に役立ちました。例えば、配点表には、あてはめにおいては1つ1つの事実ごとに配点がありますが、よく見ると、配点の高い事実と低い事実があります。なぜその差が生まれているのか(=重要な事実とそうでない事実を区別する基準・視点)を考えることは各科目・論点の特徴を考える良い勉強になりました。例えば刑事訴訟法における強制処分該当性のあてはめにおいては、対象者の意思に反しているという事実・評価の配点は低く、被制約利益が重要な利益であるという事実・評価の配点が高くなっていますが、このことは、重要権利制約説の内容を理解すればある意味当たり前のことといえます。
また、配点の高い設問を長めに書き、低い設問を短めに書くのが最も得点効率が良く理想的な分量のバランスだといえます。復習時に配点表をみながら自分にとって理想的な分量バランスの答案のイメージを作り上げたことは本番でも役に立ちました。
(2) 私の答案分析方法
優秀答案を見ることが重要とよく言われますが、漫然と文字を眺めているだけではあまり効果はありません。そこで、私なりの答案の分析方法をお伝えします。何らかの形で皆さんの役に立てば幸いです。
方法はいたってシンプルです。まず、ぶんせき本などで入手した優秀答案にマーカーを引きます。マーカーを引く際には、①問題提起、②規範とその理由づけ、③あてはめ、④結論で色分けをします。これによって、答案の構造が視覚的にわかりやすくなります。次に、自分の書いた答案についても同様の作業を行います。そして、優秀答案と自分の答案を見比べてみます。すると、両者は色のバランスが異なっていることに気付くと思います。後は、優秀答案の分量バランスに自分の答案のそれを近づけていきます。優秀答案の分析に当たっては、㋐設問の配点割合、㋑書くべき事項の数、㋒答案全体のページ数、㋓事案に固有の事情の有無等を考慮して、記述に濃淡がつけられている理由を考えてみることが重要です。この方法は、実際に自分で答案を書くことでより高い効果が得られると思います。
また、論証やあてはめで優れた言い回しがあればそれを真似することも良いと思います。
(3) 私が使用した本
私は多くの受験生が使っている基本書(例えば雑誌の特集で上位ローでの使用率ランキングTOP3に入っているものです)や判例百選(憲法、会社法については「判例○○!」シリーズ、行政法については弘文堂ケースブック)を使ってインプットを行うことにしていました。他の受験生にとって当たり前の知識を自分だけが知らない…なんて状況を防止するためです。
特に基本書を使うメリットとしては、目次部分を繰り返し読むことで各論的な知識を体系的に整理できる点にあると思います。私は本番直前の受験会場にも目次のコピーを持ち込んで試験が始まるギリギリまで読んでいました。
論文対策として使っていた辰已のぶんせき本は、年度別に複数の合格者の再現答案をまとめたものです。ぶんせき本の使い方は上記のとおりです。
短答対策としては解説の充実ぶりに定評のある短答過去問パーフェクトを使っていました。短答過去問パーフェクトは体系的に過去問をまとめてありますので、演習を繰り返すうちに、複数年度を通じて同じ知識が問われていることに気付けると思います。その知識を確実に押さえることが合格への近道だと思います。
5 これから受験する方へ
① 法科大学院在学生の方へ
今、勉強を続けることに漠然とした不安を感じている方がいるかもしれません。また、今はそうでなくても、受験直前期にそのような不安を感じる人は必ずいると思います。しかし、自分の実力と目標ラインとを比較してそのギャップを埋めることに専心することで不安は吹っ切れます。自分が成長することに集中すれば、結果は後からついてくると思います。頑張ってください。
② リベンジ合格を目指している方へ
皆さんはずっと勉強を続けてきているので、受験生の多くが知っている論点については必ず一度は勉強しています。つまり、本番で皆さんが初めて見る論点が出題されたとしても、それは他の受験生も知らない論点なのです。もし知らない論点が出たら、落ち着いて一度笑顔を作ってください。そして例えば次のように考えてください。①その論点の配点は何点くらいか(多くの場合、あまり高い配点は振られていません)、②他の受験生ならどれくらいの内容のことを書けるか(条文、定義、趣旨を書くことで精いっぱいではないでしょうか)。③皆さんは②と同じくらいのことが書ければその論点で評価を悪くすることはありません。
試験の現場での精神状態は点数に大きな影響を与えます。それぞれ自分に合った方法があると思いますが、もし知らない論点が出た場合にどう対処するかを決めておくことで有利に戦えます。ぜひ考えてみてください。
辰已法律研究所 受講歴
【2019年対策】
・司法試験全国公開模試
【2020年対策】
・スタンダード論文答練(第1・2クール・選択科目)
・司法試験全国公開模試
・スタンダード短答オープン(第1・2クール)