最後に掴んだ司法試験合格
1 法曹を目指したきっかけ
私が法曹という仕事に興味を持ったのは、たまたまビギナーというドラマが放送されていたのを観たことがきっかけです。そのドラマは司法修習生を主人公としたもので法律を軸としながら多様な人間関係を描いており、こんなに楽しそうな世界があるのかと子供心ながらではありますがとてもわくわくしたことを覚えています。明確に法曹を意識しだしたのは、テレビで弁護士が活躍されている姿を追ったドキュメンタリー番組を見た時からです。非常に困窮し弱い立場に立たされている人たちに誠心誠意向き合い、必死に手を差し伸べる弁護士の姿をみて、なんとかっこいい仕事なのだろうかと心を打たれました。このようなかっこいい仕事をして生きていけたら素晴らしいだろうなと感じ、法曹を目指すために大学では法学部に進学することに決めました。
2 大学での生活
法曹になりたいという気持ちはあり、また、周りにも公言してはいたのですが、楽しい大学生活や寮生活に現を抜かし、4年間通じてほとんど勉強は行いませんでした。2年生くらいの時に周りの友人が司法試験予備校に通い始めていると聞き、その予備校について調べてみたもののあまりの講座の高さに断念しました。そこで、比較的安価な他の予備校の講座を受けることにしました。最初の数回は希望の講師のLIVE講義だったものの、その講師の方が体調を崩され後任の講師の方が授業を行うことになったのですが、その講師の方と相性が良くなく、別の講師のウェブ授業を受けることとしました。しかし、法律の勉強の仕方のいろはも分からなかった状態でウェブ講座を継続的に聞くというのが非常に苦痛でほとんど放置することになってしまいました。その為、ロースクールの入試対策としては主に市販本を理解することなくひたすら暗記するという勉強を行うのみでした。
3 法科大学院での生活
既習コースに進学できたものの、ほとんどの人が大学時代に司法試験を意識した勉強を行って力をつけているのに対し、自分は法律の正しい勉強の仕方すらよくわからないという状態でした。そういう事情から、司法試験の対策どころか授業の予習復習で手一杯となっていました。また、ロースクール生活では大学とは異なるタイプの友人が多くいたことが新鮮であり、良くも悪くも勉強面以外で楽しんだ学生生活を送ってしまいました。
在学中の勉強方法としては、基本書や判例集といった学者によって書かれた本を読み、授業の予習復習を行うことに終始していました。その為、答練どころか司法試験の過去問さえまともに解いたことがないような状態でした。そして、勉強方法としては読む勉強が中心だったこともあり、時間を計って答案を書くといった勉強はほとんど行いませんでした。司法試験予備校については、市販の本はいくつか持ってはいたものの、ほとんど利用することはありませんでした。
4 法科大学院修了後の生活
司法試験の1回目は上記のような状況から、まともに合格できるような状況ではなく、案の定、短答式試験で1点足りず不合格となってしまいました。不合格後もまあしょうがないと思いはしたものの、すぐに勉強を始めたりすることはなく、合格発表後の9月から10月まではダラダラとした日々を過ごしていました。
2回目、3回目の受験時には友人と時間を計ってたまに答案を書いたりしていましたが、やはり中心は基本書等を読む勉強を行っていました。休憩時間に周りの友人や合格者と法律の問題について議論したりしていたのですが、話している感じから知識的には同じ程度にはあると実感していたので、まあ合格できるやろうと安心して構えていました。しかし、結果的にはいずれも短答式試験は突破したものの2000番台で不合格となってしまいました。
本当にこのままではヤバいと思ったのが4回目の受験時です。周りの友人たちや先輩方の多くが3回目までに合格し、4回目以降の合格率はかなり低いことが分かっていたからです。とはいっても3回目に落ちたショックからなかなか勉強が手につかず、本格的に勉強を始めたのはは10月半ばごろからでした。知識は増えているはずなのになぜ合格できないのかわからないという状況にあり、このまま自分だけで勉強していても合格は難しいのではないかと感じていました。そこで受験のプロである司法試験予備校を本格的に利用しようと考えました。予備校について調べていると、辰已専任講師・弁護士である西口竜司先生の小教室ゼミが大阪で実施されているという噂を聞き、これを受講することにしました。西口先生から答案を書くにあたり邪魔な知識が多いことを指摘されたため、まずは自分の中にある不要な知識を減らすことを意識して勉強しました。基本書の類はほとんど読まないようにし、問題を解く勉強を中心に行いました。使用教材は辰已のえんしゅう本をメインとして用いており、これを何度も繰り返しました。私は、以前から基本書を読んで難しい問題について思索を巡らせるということを好きでよく行っていました。しかし、振り返ってみるとこれは司法試験科目としての法律の勉強ではなく、学問としての法律の勉強になっていたなと反省しています。難しい法律問題について考えることは知的好奇心を刺激し楽しいものではありますが、司法試験との関係でいえば、単なる自己満足に過ぎませんでした。司法試験に合格するために必要なことは皆が答えられるような基本的な問題について、確実に問いに答えることができるように徹底的に訓練するということでした。そのような勉強方法は今までの自分の勉強からすると目から鱗が落ちるようなもので大幅に方針転換をすることになりました。予備校以外では、友人と時間だけを共有し、各々好きな勉強を行うというゼミを組んでいました。受験回数が多くなると精神的にも不安定になりがちであると思うので、このようなゼミを組み友人とたまに会話することで心理的にストレス解消になりますし、安定して勉強時間を確保することができたと思います。もっとも、この年は1700番台で不合格となってしまいました。この不合格を受け、将来をどうしようかと非常に悩みました。しかし、合格までの光が見えたことや西口先生に相談した際に来年の合格まで見届けたいという熱い声をかけて頂いたことから最後の司法試験に臨むことにしました。
最後の年ということもあり、引き続き西口先生の指導を仰ぐために個別指導を受けることとしました。個別指導は1対1で自己の答案について良いポイントや悪いポイントについて指摘するというものでした。小教室ゼミにおいては自分の答案がピックアップされなかった場合には、自分の答案に現れた思考過程や理解についての弱点を自覚できないまま、なあなあで済ませてしまっているということがあったように思います。私は出された問題について問題の裏に何か隠されているのではないかと問題文を必要以上に深く読み長時間悩んでしまい、難しく考えすぎるせいで思ったような答案が書けないということが多々ありました。また、答案構成をした後、答案を書いている段階であれ?この構成間違ってるんじゃね?と思い、最初の構成とは異なる構成で書いた結果として自爆したり、試験終了までに書ききれないという失敗を何回もしてきました。個別指導では毎回自分の答案を通じて、先生が文章の巧拙から論証のポイント、思考過程の正しい流れについてコメントして下さるので、毎回嫌というほどに自分の弱点と向き合うことができました。その結果として試験に合格するために自分がやるべきことを具体的に明らかにすることができました。また、私はメンタルの部分が弱いと先生にもたびたび指摘されていたので、意識して自分を奮い立たせるような言葉や歌、動画に触れるようにしていました。勉強方法としては、4回目の受験時と変わらず、基本書や百選については先生が特に勧められたもののみに目を通し、他は予備校本オンリーでひたすら問題を解くという学習を継続しました。問題を解く中で、重要な知識はまとめノートとして使用していた辰已の趣旨規範ハンドブックにまとめていました。予備校以外には、友人と過去問について時間を計って解くというゼミを行っていました。自分だけで時間を計って解くと気が緩みがちでダレるので、このような機会を設けて強制的に時間内に起案するということは非常に有用であったと思います。また、勉強の息抜きとして定期的に筋トレをしたり、映画を見に行ったりしていました。長くつらい戦いであるためこのような気分転換は良好なメンタルを保つためにとても役立ちました。
5 最後に
私が合格した令和2年度の司法試験はコロナの影響から司法試験の実施が延期されるという未曽有の事態となりました。4月に延期が発表されてからはもうすぐ終わると考えていたつらい日々が延長されたことでメンタル的には非常にきつかったことを覚えています。また、ロースクールが全面的に入室禁止となり、集中して勉強できる環境をつくるのに苦労しました。実際に、延期直後は机には向かっているもののなかなか勉強に身が入らないというような状況でした。8月の試験当日では、サーモグラフィーを用いた検査がなされ、私を含めた5回目の受験者はこれで引っかかったら終わりだと、みな極限の緊張状態であったと思います。加えて、試験直前期や本番中にも多くのトラブルがおき、私にとって今回の試験は受験した5回の中で1番大変な年となりました。合格発表のときには、最後の挑戦だったこともあり、怖すぎてなかなか番号を確認することができませんでした。先輩からおめでとうというメッセージが届き、確認してみると自分の番号があったことから、合格していることを知りました。自分の番号を確認した瞬間はうまく言葉にできませんが、嬉しいというよりもホッとしたという気持ちが強く、この時の感情は一生忘れないだろうなと感じています。私は合格までずいぶんと長く遠回りしました。しかし、合格してしまえば多くの苦労も思い出となり、いい笑い話となります。司法試験に向け長い間努力した日々は私の大きな糧となっており、そういう意味では、司法試験は私を育ててくれたのかなと勝手に感謝しています。私の合格は、一生懸命支えてくれた家族や友人、辰已法律研究所の皆様のご尽力があったからこそ叶えられた夢です。そして、司法試験に合格した今、法曹という仕事に憧れを持ち、目を輝かせていた昔の自分に夢が叶ったよと報告できたようで本当に嬉しく思います。本当にお世話になりました。ありがとうございました!!
辰已法律研究所 受講歴
・西口小教室