経済法はあてはめ勝負
1 経済法を選んだ理由
私が経済法を選択した最大の理由は、「短期間で実力を伸ばすことができる」と聞いたからです。私は法科大学院既修2年生(学部卒業翌年)の予備試験に合格したため、選択科目についてほとんど勉強したことがない状態で、予備合格発表から司法試験までの短い期間で法科大学院を卒業する人達と対等に戦えるまで実力を伸ばす必要がありました。そのため、選択科目についてはコストパフォーマンスが高い科目を選ぼうと思っていました。
予備試験合格時において、選択科目の学習は学部時代に労働法を少し授業で学んだことがある程度でした。もっとも、労働法は、範囲がとても広いうえに覚えるべき規範や判断基準が多数あります。そのため、実務においてはよく使うと聞いていたものの、試験科目として選ぶには向かないと感じていました。
そんなとき、学部時代にお世話になっていた先輩から経済法は覚えることが少ないこと、司法試験での出題分野がある程度予想できること、どのようなことを規制する法律なのかのイメージ等を伺ったところ、たしかに短期間である程度の水準まで達することができそうだと感じました。そこで、経済法を選択することを決めました。
私が選択科目を決めたのは予備試験合格直後でしたが、今後は予備試験論文式の一般教養科目が廃止され、選択科目になることと思います。そのため、予備試験受験生は、早い段階から選択科目を勉強する必要があるでしょう。
2 経済法のメリット・デメリット
そもそも、試験科目として「経済法」という括り方がされていますが、「経済法」という法律はなく、実際に出題されるのは「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(通称:独占禁止法)」だけです。この法律は、100条ほどしか規定がありません。また、「一般指定」と呼ばれる規定も参照することがありますが、こちらも15項のみです。そのため、条文数が少なく、法律の全体像の把握に時間がかかりません。
また、覚えるべき定義、規範が少ないです。最初に総則的な事項について理解してしまえば、あとは当初の知識をベースに思考できる場面が多いです。そのため、法科大学院でゆっくり勉強する時間の少ない予備試験受験生にとっては、取り組みやすい科目だと思います。
何より、面白い科目だと思います。司法試験の問題は、基本科目と同様に判例を素材に出題されるため、判例を勉強することが重要になります。そのため百選事例を読みこむ勉強をするのですが、それらの事例には、自分の見聞きしたことのある大企業が登場し、事例を読む中で、商品やサービスがどのような経路で売られているのか、どのような企業努力がされているのかを学ぶ中で知ることができます。判例の事案を読んでいるというより、1つの短い物語を読んでいるような感覚で勉強できるかもしれません。
他方で、覚えることが少ないため、現場での事案分析とあてはめで勝負がつくことが多いです。適用する条文を間違えると、以後の論述に一切点数が付かないおそれもあります。イメージとしては、殺人で検討すべき事案なのに、強盗罪を検討し続ける感じでしょうか。行政法の訴訟選択とも少し似ているかもしれません。
また、近年は若干事案が長文化・難化している傾向にあるので、競争圧力の生じ方を読み解くのが難しい問題も存在します。もちろん司法試験の問題なので、思考力が試される問題が出題されますが、実際の商売や市場をイメージすれば、他の科目よりは取り組みやすいと思います。
3 法科大学院での選択科目学習状況
私は、既修2年生として入学した前期で労働法の講義を受講しました。実務でよく使われるので、いつか学ぶ必要があると耳にしていたため、興味がありました。しかし、予備試験の勉強との両立、環境の変化、なれない生活時間、法科大学院でのイベント等が重なり、あまり良い評価をもらえませんでした。体感としても、授業で学んだというアドバンテージよりも、ここから合格水準までもっていく距離の方が長いように感じました。そのため、先述のように、労働法を選択科目にするのはやめました。その他の科目について学習したことはありませんでした。
4 経済法攻略方法
まずは、各条文の要件の定義を覚えることです。科目の性質として刑法に近いものがあります。基本的には、条文の文言の中から要件を抽出し、定義を書いて、あてはめ、結論を導く。この作業を繰り返していくことになります。そのため、要件の定義を覚えなければスタートラインに立てません。そのため、問題演習をしつつ、定義を使いながら覚えていきましょう。
そして、問題で問われている行為が、市場における競争に対してどのような影響を与えるのか、常にイメージしながら勉強してください。独禁法は、市場における自由な競争を制限する行為を取り締まるものです。例えば、大企業同士で商品の価格を申し合わせて高額に設定したりすることです。この行為が行われると、市場における価格競争が制限されますよね。これは簡単な例ですが、司法試験の問題でも、価格制限行為の規制は多く問われています。このように具体的にイメージする学習を繰り返していれば、本番で複雑な事例が出題されても、一歩一歩紐解いていくことができるでしょう。
この具体的なイメージ掴むために、判例や、公正取引委員会の審決を学習しててください。判例の事案を読んで、適用されている条文を知り、当該事案ではどのような競争制限効果が生じているのか確認していく。この作業により、相場観が掴めてくると思います。
5 受験対策で使用した本
辰已の『趣旨規範ハンドブック(1冊だけで経済法)』で定義を覚え、辰已の選択科目集中答練と、『論点解析経済法』という演習書でアウトプットを行いました。そして、辞書的に『経済法入門』を参照することもありました。もっとも、基本的に定義を覚え、あてはめていく作業になるので、辰已の趣旨規範ハンドブックに知識を一元化していきました。必要最小限の知識が記載されているので、非常に助かりました。
6 辰已講座の利用方法
選択科目集中答練を受講して、インプットしつつ、アウトプットも同時並行で行っていました。最初は、不当な取引制限が出た時には完璧に書けるようにしよう(不当な取引制限は、ほぼ毎年司法試験で出題される条文です。イメージですが、刑法で毎年強盗が出題されるような感じでしょうか)、他の条文が出たら、定義を覚えていれば頑張って書いて、覚えていなければ、この事案ではどのような競争制限効果が生じていて、何が問題になっているのかだけでも読み解こう、という心構えで受けていました。
受講し、答案が返却されたら、まずはわからなかった定義を確認して暗記する努力をしつつ、優秀答案を読んで、どのように事案分析をしているのかを参考にしていました。
私は全8回のコースを受講しましたが、自主的に2周目も取り組みました。
7 反省とアドバイス
① 初学者の方へ
やはり、インプットはアウトプットと同時に行うと非常に効率が良いです。私は最初のうち「まだ定義を覚えきっていないから…」と演習を遠ざけていました。しかし、これだとなかなか記憶に残りません。まずは構成だけでもよいので、早く演習書を1周しましょう。そして、出会った定義を具体的な事例やイメージとセットで覚えていってください。
② 次回受験する方へ
条文選択を失敗する不安などがあると思いますが、たとえ間違っても点数がそれほど悪くないことも大いに想定できます。司法試験委員が最も答案で書いてほしいのは、当該事案で問題となっている行為から、市場の競争がどうのように影響されるのかです。ここさえ的確に読み解ければ、それほど悪い点数はつかないでしょう。しかも、選択科目は2題出題されますが、片方は比較的取り組みやすい問題の場合が多いです。過去問を解いていてお気づきの方もいると思います。経済法はあてはめ勝負なので、事実をたくさん拾って評価する作業を繰り返していけば、きっと点数が付きます!頑張ってください!
辰已法律研究所 受講歴
・選択科目集中答練