基礎を固めてこその応用問題
1 司法試験の受験を決意した経緯、合格までの道のり
高校生の頃、大阪地検特捜部で障害者郵便制度悪用事件の主任検事が証拠の捏造を行った事件の報道を目にし、法曹実務家となって冤罪を予防するための仕事をしたいと考えました。
法律知識の学習は、自分の思いとは裏腹にコツを掴むのに時間がかかり、法科大学院の留年や1度目の司法試験の不合格も経験しました。その私を信じて受験を続けさせてくれた家族、自主ゼミで面倒を見てくれた大学院の友人や、答案添削をして下さった大学院や辰已の先生方のお蔭で合格できました。この場を借りて感謝申し上げます。
2 法科大学院受験前の学習状況
学部時代の学習は、法律系サークルにおける討論会やレクチャーの為の勉強、所属ゼミでの勉強が主な内容でした。これらは大いに学習意欲の沸く活動ではありましたが、試験勉強は大学3年生の後半まで疎かになっていました。法科大学院入試は、早稲田大学大学院法務研究科から合格をいただきましたが、将来の司法試験合格のための基礎知識が十分に固まっていない状態でした。
3 法科大学院入学後の学習状況
(1) 在学中
前述の通り基礎知識が十分に固まっていないまま私の法科大学院での生活が始まりました。このため、授業の予習・復習は効果的な物とはならず、私は既修2年をGPA不足で留年することとなりました。その後、ノートの取り方や基礎知識の見直しを行い、定期試験や司法試験の過去問を解く学習方法にし、修了は叶いました。
(2) 修了後(2021年1月まで)
修了後の私は、法科大学院3年に入ってから行っていた、過去問その他の問題を解いてはまとめノートを作るという方法を繰り返してきました。しかしながら、それらの方法は、図表を多用したまとめ方になっており、言語で理解するものではないことから、覚えたはずの事柄を試験本番で正しく文章化できない事態に陥りました。その結果、コロナ渦で例年よりも遅い実施となった8月の令和2年司法試験は、短答式試験では合格でしたが、論文式試験は実力が足りず、総合点でギリギリですが不合格となりました。
4 辰已講座の利用方法とその成果
短答式試験は2回共合格はしましたが、それほど良くはないので、成績の良かった方のお話をご参照下さい。以下、論文式試験につき、共通7科目と選択科目(経済法)に分けてお話します。
(1) 共通科目7科目について
共通7科目については、『司法試験[2021年対策]スタンダード論文答練 第2クール』(以下、「答練」)を受講しました。基礎知識の再確認についても進めつつ、どのような出題予想が考えられるかについて把握するために1週間に1日の頻度で答案作成を行い、添削を受けました。公法系、民事系、刑事系のそれぞれにつき3回ずつ、経済法(後述)につき2回、合計11回、本番と同じ時間制限の下、自宅で起案しました。
解説講義では、問題文を読みながら何に気づくかを詳しく解説していただけたため、自分の設問の読み方や自分の答案に何が足りなかったかを実感を持って知ることができました。
また、私は、令和2年司法試験が8月に実施された後、1月の合格発表で不合格が確定してようやく受験勉強を再開したこともあり、令和3年司法試験の合格に向けて使える時間が短い状況でした。この点、設問の解説の前後に行われた、受験生がこの時期に特にすべきこと(例:典型論点を整理して繰り返し確認せよ、分量配分をシミュレートしながら書け等)についてのお話や、短い時間で合格するための学習に関するアドバイスをいただきました。特に、刑事系科目の講義を担当された先生方(西口竜司先生、原 孝至先生、金沢幸彦先生)のアドバイスが有用でした。
(2) 選択科目(経済法)について
受講前の私は、独占禁止法及び一般指定に書かれた各行為要件の典型的適用例や、効果要件について正確な理解をできておらず、初見の問題で正確な条文選択や効果要件の充足性の分析を行えず、成績が伸びませんでした。
令和3年司法試験に向けては、答練の起案に加え、『スピードマスター経済法「構成要件と論証 3時間」』及び『経済法1位合格者による「答案戦略・経済法 3時間」』を受講しました。前者は、西口竜司先生が独占禁止法の各条文に定められた行為要件及び効果要件についてコンパクトにまとめたレジュメを元に頻出条文の復習をするものでした。後者では、合格者の方がどのように問題文を読んだかや、どのような時間配分で答案構成をしたかについて、講義してくださいました。これらの講座は何れも試験日の1ヶ月前の受講となりました。ですが、前者は基礎知識の確認ができたこと、後者は限られた試験時間の使い方を知ることができた点で役立ちました。この経験を基に改めて答練の問題や過去問の復習を行い、経済法の成績を向上させました。
5「私のノート作成術」「私がやって成功した方法」「私のスケジュール管理方法」
(1) 私のノート作成術
私が令和3年司法試験の合格に向けて抱える課題の1つが、多くの答案で規範(条文解釈)を正確に表現できていないことでした。これを克服するために特に意識したノートの作成方法は、規範を文章化することでした。図表を用いた整理は、覚えたこと・考えたことをまとめるのには役に立ちましたが、それらの知識を試験にすぐ使える形で頭に入れるのには向きません。このようなまとめノートを作るに当たっては、基本書の記述や、所謂「論証パターン」として予備校各社が出版したものを基に、答練で配布される答案例を参照しながらよりコンパクトなものにまとめるという作業を行いました。
(2) 私がやって成功した方法
私の学習方法は、(1)のようにして完成させたまとめノートの文章を、何も見ないで再現できるかを繰り返しテストするというものです。ここで気を付けたことは、判例の述べる基準のみならず、その後に列挙している考慮事項まで正確に列挙することでした。規範の理解の精度を上げたことで、問題文の読解や答案構成における事実の把握を正確に行えるようになり、応用問題にも対応できました。
(3) 私のスケジュール管理方法
私は、過去に行った科目の記録を残し、それを受けて次にどの科目に取り掛かるかを決めるという手法を取りました。そのための記録の取り方として、2通りの方法を実施しました。
1つは、1日の中で学習した科目を記録に残すという方法です。7時頃に起床後9時半まで短答を行った科目や、その後朝食を10時まで取った後に学習した論文の科目を記録に残しました。これは、特に短答式試験を必ず毎日解くための手法になります。
もう1つは、曜日毎に学習した科目を記録し、週単位で各科目の学習を行った日数を集計する方法です。これは、複数科目の内、自身の学習頻度が少ないものを特定し、それを優先的に行う為に行いました。これで科目間の学習の偏りをなくしました。
6 私が使用した本
以下に挙げました書籍は、私が使用したものを挙げており、必ずしも最新版のものではない場合もございますこと、ご了承ください。
(1) 基本書
・木下智史=伊藤建・著『基本憲法Ⅰ基本的人権』(日本評論社、平成29年2月17日発行)
:この本の良いところは、各人権について考えられる論点について最新の議論も踏まえてリストアップした上で詳しい議論に入っている点です。私は、これを読んで基礎固めした上で答練を受け、問題に応じた知識の使い方を掴みました。
・稲葉剛・人見剛・村上裕章・前田雅子・著『行政法(LEGAL QUEST)』(有斐閣、平成30年9月27日第4版発行)
:本文中の収録判例の多さや、その判旨のコンパクトなまとめ方が魅力的に感じました。行政法で論証パターンの作成でも、これをよく使いました。
・高橋美加・笠原武朗・久保大作・久保田安彦・著『会社法』(弘文堂、令和2年11月30日第3版第1刷発行)
:会社法の条文は、条文数が多い、1つの条文に括弧書きが幾つも含まれる等の理由から、他の試験科目の条文に比べて特に読みにくいという印象がありました。この本は、図表や「条文ガイド」と呼ばれる条文の引き方を記した項目が添付されており、常に条文を試験中に引くことを意識して本文を読むことができました。また、論証パターンの作成でも、この本を使用しました。
・高橋宏志・著『民事訴訟法概論』(有斐閣、平成28年3月15日初版第1刷発行)
:民訴法の基礎知識の確認は、この本がコンパクトで良いと思います。
・大塚裕史・十河太朗・塩谷毅・豊田兼彦・著『基本刑法Ⅰ』(日本評論社、平成28年3月20日第2版第1刷発行)
・大塚裕史・十河太朗・塩谷毅・豊田兼彦・著『基本刑法Ⅱ』(日本評論社、平成27年11月20日第1版第3刷発行)
:これら2冊が、刑法の学習で私の使用した基本書です。各論点の説明の冒頭で事例(多くは判例を簡略化したもの)を挙げてその解決方法を探るという形で論点の解説が行われており、問題の所在を把握しやすいです。
(2) 辰已書籍で役に立ったもの
・新庄健二・著『新・Professorシリーズ司法試験論文過去問 LIVE解説講義本 新庄健二刑訴法』(辰已法律研究所、平成26年4月25日発行)
:主に、過去問の分析の際に使用しました。著者である新庄先生が設問をどのように読まれ、どのように答案構成したかについて、実務の状況も交えて詳しく解説していらっしゃいます。私は、この本を読みながら、過去問にマーキングを施し、刑訴法の問題文の読み方を学びました。
7 これから受験する人へのアドバイス
(1) LS在学生へのアドバイス
まず、1・2年及び3年前期の必修科目の予習・復習を確実に行い、基礎を固めて下さい。その後、3年後期の応用演習を如何に有効活用するかが重要です。応用演習では、担当教授から添削課題が受講生に配布され、それを受講生が提出して添削を受けるという授業が多いです。3年の夏休み迄に基礎固めが十分にできていないと、添削課題をこなすことに追われてしまい、先生の添削指導を十分に吸収することができません。夏休み迄に、基礎固めのため、各論点の論証パターン(まとめノート)を一通り作り、応用演習では、その規範を空で正確に表現できているか、当てはめでそれを正しく使いこなせているかについて先生から客観的評価を得て修正を施すという形で添削課題を利用するのが良いと思います。
また、授業が午前中にない日は、午前中に短答問題を1問でも解く時間を作ると良いです。論文式問題の検討は、時間を決めてやっているつもりでも分からない点が出てくるとついつい時間を引き延ばしてしまい、短答が疎かになりがちです。なので、論文をやる前に必ず短答の問題を解く時間を設けておくことが、短答の勉強を行うために重要です。
(2) 来年のリベンジ合格を目指している方へのアドバイス
リベンジ合格を目指している方にも、今からでもまとめノートの作り方を見直すことをお勧め致します。応用問題は、基礎知識が固まっているからこそ解くことができます。規範をコンパクトに文章化し、それを空で言えるようにする(書けるようにする)練習を必ずして下さい。
また、規範の暗記の正確性や、当てはめにおいてその規範を使いこなせているかについて客観的な評価を得る目的で、答練や模擬試験を利用して下さい。これらのサービスは、このような目標意識を持って利用することで初めて生きるものです(勿論、本番と同じ制限時間と雰囲気で答案を書くという目的もあります)。
試験当日も、暗記事項をまとめたものを試験直前まで確認しておくことをお勧めします。
(3) 最後に
最後に、(1)(2)何れの受験生にも大事ことを1つ。言い古された事ですが、早寝早起きの朝型の生活を心がけて下さい。
辰已法律研究所 受講歴
【2021年対策】
・スタンダード論文答練(第2クール)
・福田俊彦 短答合格塾24時間 憲民刑一括【DVD】
・経済法1位合格者による「答案戦略・経済法 3時間」【WEB】
・スピードマスター経済法「構成要件と論証 3時間」【WEB】