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令和7年度司法書士試験(午後の部)第30問、及び第33問について

はじめに

 令和7年度司法書士試験において出題された午後の部第30問及び第33問については、いずれも問題構成や正解肢の設定に重大な疑義が認められます。第30問では、誤りの記述が3つ存在し、組合せのうち1と3が正解として想定し得る状況となっております。また第33問では、設問の趣旨に照らして正解の肢が存在しない状況となっており、受験者はいずれの選択肢を選んでも不正解となる構造的欠陥が生じています。いずれの設問においても、適切な採点・評価がなされなければ、受験者に対する著しい不公正を招くことになります。

 そこで、辰已法律研究所は法務省に対し、問題文の疑義に起因して解答に迷った受験者が、択一式得点の確定に際して不利益を被らないよう要望する書面を提出いたしました。

 本稿は、これら2問の具体的な問題点と、辰已法律研究所が想定した解答に至る説明を、以下に掲載いたします。

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1 午後の部第30問について

 第30問では、株式の譲渡制限に関する規定の登記に関し、誤っているものの組合せを選択する問題でしたが、記述ア、イ及びウの3つが誤っているため、組合せのうち「1 アウ(解答率50.2%)※」及び「3 イウ(解答率41.0%)」がいずれも正解となります。

 試験問題冊子の表紙「注意」中に「解答欄へのマークは、各問につき1か所だけにしてください。二つ以上の箇所にマークがされている欄の解答は、無効とします。」と記載されていることから、各問の解答は一つしかないことが予定され、この記載から、受験者は、本問の解答として1又は3のいずれか1か所にのみマークをするという行動を選択せざるを得ません。後述するように、本問の正解として組合せ3(イとウ)を想定していると考えられますが、記述アを含む組合せ1(アとウ)を選択した受験者が、組合せ3を選択した受験者に対し、3点もの差をつけられる採点結果となることは公正とはいえません。

※辰已法律研究所の調査によるもの

⑴ 会社法施行前

 記述アと記述イは、いずれも、株式の譲渡制限に関する規定を変更する場合についての現行の会社法が施行される前の取扱いに準拠して出題されたものであり、記述アは正しい、記述イは誤りとすることが予定されていると推測できます。
 その取扱いとは、株式の譲渡制限に関する規定を変更する場合を、譲渡制限を要する範囲の(A)拡大と(B)縮小に分け、(A)については、新設の場合と同様、株主総会の特殊決議による定款変更及び株券を発行しているときは株券提供公告等の手続を要するが、(B)については、通常の定款手続として特別決議による株主総会決議で足り、株券提供公告等の手続を要しないとするものです(参考資料①②)。
 記述アは、(A)の拡大の場合に当たるので、株券提供公告を要し、これを証する書面の添付が必要だから正しい、記述イは、(B)の縮小の場合に当たるので、特別決議で足り、特殊決議は不要なので、添付する株主総会議事録の内容として、特殊決議の成立までは不要であるから誤っている、という出題の意図がうかがえます。

参考資料
①『新訂 詳解商業登記』(きんざい)上巻P847以下
②『新版 商業登記法逐条解説』(日本加除出版)P376

 

⑵ 会社法施行後

 しかし、現行の会社法の施行後、株式の譲渡制限の変更に必要な手続に関する上記(A)(B)の区別は意義を失い、株式の譲渡制限に関する規定の変更については、特別決議で行い、株券提供公告等の手続を要しないとの理解が一般的になったと考えられます。まず施行当時広く読まれたと考えられる会社法立案担当者による記事に「会社法107条2項1号ロの内容を変更する場合においては、承認したものとみなされる範囲の拡張・縮小にかかわらず、株主総会の特別決議があれば足りる」とあります(参考資料③)。このような立案担当官の見解に従って、会社法では株式譲渡制限の強化に当たる「一定の場合においては株式会社が第136条又は第137条第1項の承認をしたものとみなすときは、その旨」(会社法107条2項1号ロ)の削除等をする定款変更について特殊決議や株券提供公告を要しない、という理解が一般的になり、多くの実務書においてもそのように記載されることが多くなりました(参考資料④から⑥まで)。最近では、今年3月にテイハンから出版された書籍もこの理解で書かれていると思われます(参考資料⑦)。また、商法学者の書籍においても、立案担当官の上記の見解に対し、旧法の取扱いを維持すべきであるといった内容の反対説は見当たりません(例えば、参考文献⑧)。
 さらに、会社法施行後の平成26年度の司法書士試験において、午後の部第31問においては、株券提供公告をしたことを証する書面の添付の要否が問題となる登記として「株式の譲渡制限に関する規定の変更の登記」が挙げられていました(記述イ)。この問題は当該書面の添付を要する登記の個数を問うものでしたから、記述イ単体の正誤は明らかにはされていません。しかし、会社法施行前の取扱いを前提にするならば、変更の態様(拡大又は縮小)を明記せずに、株券提供公告手続の要否を問うことはできないはずですから、株式譲渡制限の変更にあっては、拡大・縮小を問わず株券提供公告を要しないとの見解に基づいて出題されたものと考えます。
 以上から、現行法の下では、令和7年度午後の部第30問記述アは誤りと判断せざるを得ません。

参考資料
③『立案担当者による新・会社法の解説』(商事法務)P85
④『商業登記全書第3巻 株式・種類株式』(中央経済社)第1版P208
⑤『募集株式と種類株式の実務』(中央経済社)第2版P243以下
⑥『論点解説 商業登記法コンメンタール』(きんざい)P247
⑦『登記実務シリーズ 種類株式・増減資・新株予約権の登記実務』(テイハン)P166以下
⑧江頭憲治郎『株式会社法』(有斐閣)第9版P379注5

2 午後の部第33問について

 第33問では、合同会社の登記に関し、誤っているものの組合せを選択する問題でしたが、記述イのみが誤りで、他の記述がすべて正しく、正解の組合せがありません。
 記述イが誤りと判断できた後、仮に記述アと記述エが正しい記述と判断していても、記述イを含む「1 アイ(解答率19.8%)」又は「3 イエ(解答率43.6%)」のいずれか1か所にのみマークをするという行動を選択せざるを得ません。また、記述アと記述エがあきらかに正しいと確信した受験者は、記述アと記述エがない「5 ウオ(解答率24.5%)」を選択する状況になります。本問がいずれの正解になるにせよ、正解の肢がないのですから、予定された正解となる組合せを選択した受験者に対し、他の選択をした受験者が3点もの差をつけられる採点結果となることは公正とはいえません。

⑴ 記述ア

 登記手続上、合同会社が株式交換完全親会社となる場合であっても、資本金の額の増加や業務執行社員の加入により合同会社の登記事項に変更を生じ、株式交換完全親会社において株式交換による変更の登記を申請する場合があるため、登記を申請することができる(商登法126条1項参照)。したがって本記述は正しい。

⑵ 記述イ

 本記述は、業務執行社員の業務執行権喪失の登記の申請をしなければならないとしている点で誤っている。合同会社の業務執行社員が総社員の同意により退社した場合、業務執行社員の「退社」の登記を申請する必要がある。なお、業務執行社員が業務執行社員でない社員となった場合には「業務執行権喪失」の登記を申請する。

⑶ 記述ウ

 合名会社が種類変更により合同会社となった場合の、合同会社についてする登記の申請書には、出資に係る払い込み及び給付が完了したことを証する書面を添付しなければならない(商登法105条2項2号)。したがって、本記述は正しい。

 ⑷ 記述エ

 組織変更による株式会社又は合同会社の設立の登記を受けようとする者は、組織変更をする会社の当該組織変更の直前における資産の額及び負債の額及び組織変更後の株式会社又は合同会社が当該組織変更に際して当該組織変更の直前の会社の株主又は社員に対して交付する財産(当該組織変更後の株式会社の株式及び合同会社の持分を除く。)の価額を記載した書面を、当該登記の申請書に添付しなければならない(登免法施行規12条4項)。したがって、本記述は正しい。

 ⑸ 記述オ

 合同会社の業務を執行する社員の業務執行権の消滅の訴えに係る請求を認容する判決が確定した場合、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、会社の本店の所在地を管轄する登記所にその登記を嘱託しなければならない(会社法937条1項1号ヲ)。したがって、本記述は正しい。

 以上第33問において、誤りは記述イのみとなります。選択肢にイのみはありませんので、解なしとなります。

 

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