2023年司法試験本試験論文式試験 講評
選択科目(倒産法) 公開:2023年8月15日
第2問は、民事再生法からの出題でした。継続的給付の義務を負う双務契約の処理という基本項目、及び、賃貸借契約の賃貸人に再生手続が開始された場合の敷金返還請求権の取扱いという重要項目に関する出題がなされました。
内容としては破産法と民事再生法の両方からの出題がなされた点、重要判例の理解、破産法と民事再生法の比較の観点、当事者の立場からの検討が求められた点では例年通りの出題でした。第2問において、再生計画に基づく具体的な弁済額の計算が求められましたが、計算の前提になる考え方は問題文に明示されていましたので、落ち着いて考えれば十分に解答可能であり、難易度も例年並みと思われます。
小問(1)①は、破産手続開始時に破産者の所有物が外国に所在する事案です。破産法34条1項かっこ書きにより、破産者の有する財産は、国内の所在の有無を問わずに破産財団とされますので、本問の雑貨も破産財団に属することとなります。
小問(1)②は、破産手続開始時に破産者が保有する現金の取扱いが問われています。破産法34条3項1号により99万円以下の現金は破産財団に属さない自由財産とされていますので、本問の現金90万円は破産財団に属さないこととなります。
小問(1)③は、破産者が相続する遺産の取扱いに関する事案です。破産財団への帰属の有無は、破産手続開始時を基準に判断されますが(破産法34条1項)、本問では、破産手続開始後に、破産者を法定相続人とする相続が開始されていますので、この相続に関する遺産は破産財団に属さないこととなります。
小問(1)④は、破産手続開始前に破産者を保険金受取人として契約された生命保険の死亡保険金請求権の取扱いが問われています。最高裁は、「破産手続開始前に成立した第三者のためにする生命保険契約に基づき破産者である死亡保険金受取人が有する死亡保険金請求権」につき、破産法34条2項に基づき死亡保険金受取人の破産財団に属するとしています(最判平成28年4月28日民集70巻4号1099頁)。この最高裁判例によれば、本問の保険金請求権は破産財団に属することになります。
小問(2)は、破産手続開始前に契約した貯蓄型医療保険について、申立代理人の立場に立って、当該保険契約を解約せずに継続させるための複数の手段を、破産債権者の利益を考慮しつつ検討することが求められています。
まず、破産者Aは自由財産に該当する現金90万円を保有していますので、このうち保険解約返戻金相当40万円を破産財団に組み入れることにより、解約返戻金を破産財団から放棄するよう破産管財人に申し入れることが考えられます。他の手段として、破産法34条4項に基づき解約返戻金を自由財産とするよう申し立てることが考えられます。
破産債権者の利益の観点からは、解約返戻金相当を破産財団に組み入れる前者の手段が望まれますが、破産者Aが新たな職に就くことが難しいなどの事情を考慮すると、破産者の申立代理人としては後者の手段も検討する必要があります。
小問(1)は、離婚に伴う財産分与として破産者AからDに譲渡された甲不動産について、Dから破産管財人Xに移転登記請求がなされた事案です。本問では、破産手続開始時点で、甲不動産の登記がA名義のままであり、Dへの所有権移転登記手続がなされていません。そこで、破産管財人Xとしては、破産手続開始前にDが第三者対抗要件としての登記を具備していないから甲不動産の所有権を破産管財人に対抗できないと反論することが考えられます。破産管財人の第三者性を踏まえて論じる必要があります。
小問(2)は、支払不能後、破産手続開始前になされた、離婚に伴う財産分与としての150万円の支払に対する否認権の成否が問われています。
詐害行為否認の成否については、離婚に伴う財産分与が、民法768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してなされた財産処分であると認められるような特段の事情のない限り詐害行為とはならない、とした判例(最判昭和58年12月19日民集37巻10号1532頁)の考え方を参考に、Dの反論と否認権の成否を述べる必要があります。本問では甲不動産の譲渡と150万円の支払は財産分与としては相当とされていますので、同判例の考え方によれば詐害行為否認は否定されることとなるでしょう。
次に、詐害行為否認が否定されるとしても、偏頗行為否認の成否について検討の必要があります。破産管財人Xは、DはAが支払不能に陥っている事実を認識していたのであり否認は成立すると主張し、他方で、Dとしては過大でない財産分与について偏頗行為否認の成立を認めることは、離婚後の生活の維持を考慮した財産分与の趣旨に反する、などと反論することが考えられます。結論は両論ありえますので、自分なりの結論を論理的に論じる必要があります。
民事再生法50条の対象となる「継続的給付の義務を負う双務契約」である電気供給契約に関して、再生債務者の申立代理人Cの電力会社D社への対応が問われています。
「①令和4年9月分」の電気料金について、再生手続開始申立前の給付に係る債権であるため再生債権となるものの、民事再生法50条1項により、電力会社D社は、当該再生債権について弁済がないことを理由に、再生手続開始後の電気供給義務を拒むことはできない、 旨を回答すべきと考えられます。
「②令和4年10月分」の電気料金については、再生手続開始申立日の属する期間内の電気供給に係るものですので、民事再生法50条2項により共益債権として随時弁済される旨、回答すべきと考えらえます。
「③令和4年11月分」の電気料金については、再生手続開始前までの期間分は民事再生法50条2項により、再生手続開始後の期間分は民事再生法119条2号により、共益債権として随時弁済される旨、回答すべきと考えらえます。
小問(1)は、再生手続における敷金返還請求権の取扱いについて、破産手続との違いに触れつつ説明することが求められています。
破産手続では、敷金返還請求権は停止条件付きの破産債権となりますが、賃借人は、将来の敷金返還請求権との相殺に備えて賃料の寄託請求が可能です(破産法70条)。これに対し、再生手続では、賃借人が、再生手続開始後に弁済期が到来する賃料債務を弁済したときは、敷金返還請求権は再生手続開始時における賃料の6か月分に相当する額の範囲内における弁済額を限度として共益債権とされます(民事再生法92条3項)。
A社の再生手続では、再生手続開始後に弁済期が到来する12月分の賃料支払債務と修理費用の返還請求権とが相殺されていますので、民事再生法92条3項かっこ書により、同相殺により免れる賃料債務の額を控除した賃料5か月分の範囲内で、B社が現実に弁済をした賃料4か月分を限度として、敷金返還請求権は共益債権とされることになります。
小問(2)は、再生計画認可決定後に賃貸期間が満了となり、未払賃料が存在する状態で賃貸建物が明け渡された場合の、敷金返還請求権の具体的な弁済額について問われています。この場合、権利変更や未払賃金の充当の時期、先後関係について複数の考え方がありえますが、本問では、「敷金返還請求権については、明渡し時において、…賃借人の債務の額を控除した残額のうち、再生債権となるべき部分に対して、…権利変更を行うとの考え方に立つこととする」と、弁済額算定に際しての考え方が指定されていますので、指定された考え方に従い、具体的な弁済額を説明する必要があります。
具体的には、問題文で指定された考え方に基づき、まず、明渡し時において、敷金600万円から、賃借人の債務として未払賃料2か月分120万円と原状回復費用返還債務80万円の計200万円を控除した残額を計算すると400万円となります。このうち、共益債権となる賃料4か月分240万円を除いた再生債権となるべき部分160万円に対して、再生計画に従い弁済率40%を乗じた64万円が、敷金返還請求権に係る債務の弁済額となります。
選択科目(租税法) 公開:2023年8月15日
本年度の試験では、国税通則法を含む租税法全般を対象として、基本的な理解を問う出題がなされています。条文・基礎知識・判例の理解を問う設問がバランスよく出題されていること、解答すべき内容が明確に指定されていることなどから、出題傾向・形式は概ね例年通りであるといえます。難易度については、例年通りかやや易化したと考えられます。
次に、その所得分類が問題となります。最判平17・1・25に照らせば、上記権利行使益は、役員であるAに対する職務遂行の対価たる性質をもつ経済的利益と考えられるため、所28条1項の給与所得に該当します。
給与所得の収入金額は、役員報酬2100万円(所36条1項)及び上記権利行使益1000万円(同条2項、所令84条3項2号)を合計した3100万円です。当該金額から給与所得控除額195万円(所28条3項5号)を控除した2905万円が、給与所得の金額となり(同条2項)、ひいては総所得金額となります(所22条2項1号)。
第2に、Aは、令和3年中に取得した株式を令和4年中に売却したことから、同年分の短期譲渡所得が認められます(所33条1項、3項1号)。譲渡所得の金額の計算上、売却額1800万円が総収入金額に、行使時の株式の価額である1500万円が取得費に、株式売買手数料20万円が譲渡費用にそれぞれ算入され、さらに特別控除額50万円を控除した金額である280万円が、短期譲渡所得の金額となります(同条3項、4項)。
よって、総所得金額は、以上の合計額である2185万円となります(所22条2項1号)。
Bは、甲建物内で小料理店を営む個人であるため、事業所得(所27条1項)を生ずべき業務を営む者といえます。本件解決金は、実質的には、全体として立退きに伴うBの営業損失・収益を補填する性格のものと考えられるため、所令94条1項1号又は2号に該当します。したがって、本件解決金は非課税所得に該当しません。
本件解決金の上記性格に照らせば、その所得区分は事業所得となります。
これに対し、所轄税務署長は、上記のとおりBの請求には理由がないことから、Bに対し、更正をすべき理由がない旨の通知処分を行うことになります(同条4項)。
また、無償で取得した資産の取得価額についての明文規定は存在しませんが、取得時に時価で収益を認識すること(小問⑴)との平仄から、法22条4項により、(0円ではなく)時価である各3000万円が取得価額となります。(小問⑵)
そして、E社は、令和5年3月期中に、代物弁済の方法により上記債務を履行したことから、同事業年度において乙土地の譲渡損益を認識します。具体的には、上記債務に係る債務消滅益である3000万円が益金算入され(法22条2項)、乙土地の取得価額である3000万円が損金算入されます(同条3項1号)。
他方、この場合、E社はDに賃料相当額の役員給与を支給していると評価できます。そこで、定期同額給与(法34条1項1号)として法22条3項2号による損金算入が認められるかが問題となりますが、上記役員給与は、臨時的に支給されたものであって、「継続的」(法令69条1項2号)に供与されるものではなく、定期同額給与には該当しません。また、法34条1項2号又は3号にも該当しないため、上記役員給与の損金算入は認められません。
選択科目(経済法) 公開:2023年8月16日
第2問は、共同の取引拒絶を中心とした問題でしたが、事実関係を丁寧に分析し、当てはめを適切に行うことが求められており、基本的な問題だったと思われます。
第1問及び第2問全体を通して、分析すべき内容や書くべきことの量が多かったと思われることから、時間配分などを上手く考えつつ、解く必要があった問題だったといえます。
小問(1)は、甲装置の製造を効率的に行うため、競合他社間で得意なカテゴリーに注力できるよう相互にOEM契約を締結することの独占禁止法上の評価を問われています。競合他社間の相互OEMについては、不当な取引制限(独占禁止法2条6項、3条後段)として問題となり得るものの、いわゆる非ハードコア・カルテルとして、一定の取引分野における競争を実質的に制限するか否かを具体的な事実関係に即して検討することになります。本件では、行為者の市場シェア、製造が統合することによる甲装置の販売における競争への影響(販売活動は独立して行われその点での競争は残ることや、OEM供給価格が製品に占める割合が高いこと等をそれぞれどのように評価するか)などの要素を総合的に考慮して、判断していくことが求められます。本件のような競合他社間の協業・提携に係る独占禁止法上の検討については、公正取引委員会が毎年出している「独占禁止法に関する相談事例集」を参照することが有益です(競合他社間の相互OEM取引については、令和3年度事例2として掲載されています。)。
小問(2)は、企業結合規制についての問題です。甲装置に組み込まれる乙機器の製造部門を共同新設分割によって統合することについて「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる」か否かを論じていくことになります(独占禁止法15条の2)。まず、現在3社しかいない乙機器の供給者が統合によって2社になることについての競争への影響を評価する必要があります。もともとW社以外に外販することが予定されていない商品であり乙機器分野での競争が存在していないこと、統合によるコストメリットによって甲装置分野の競争が促進されることをどう評価するか等がポイントとなります。そして、統合後のS社がW社への乙機器供給を制限することによって、W社を甲装置市場から排除するおそれがあるかについての検討も必要となり、問題と考える場合には、一定期間W社への供給義務を課す等の問題解消措置が考えられるところです。
競争事業者間で共同して特定の事業者と取引をしないことは、不当な取引制限、私的独占(独占禁止法2条5項、3条前段)及び不公正な取引方法(独占禁止法19条、一般指定2項)いずれにも該当し得る行為ですので、一通りの要件検討過程を記載する必要がありますが、本問においては、いずれにも共通する要件として、いわゆる意思の連絡が認められるか、すなわち、リース4社間で「メーカー2社が直接リースを行う場合には、甲機械の購入をしない」といった合意が成立していたかを丁寧に論じていく必要があります。その際に、A社、B社、C社とD社との違いについて詳細に認定をしていくことになります。a氏、b氏、c氏については、事前にリース2社の対応について「直接リースを続けるなら甲機械の購入はやめたい」という立場を明らかにしており、その後A社、B社、C社におけるリース2社への対応が一致していることから、特段の事情のない限り合意が推認されるといえます。a氏、b氏、c氏と比較してd氏の発言は、取引拒絶に向けた自身の立場について明確に表明したわけではなく、事後の行動としても同時に拒絶通知を行っているわけではないことを踏まえると、A社、B社、C社と比較してD社については丁寧に事実を拾い上げて当てはめをすることが求められるでしょう。そもそも打ち合わせを呼びかけたのがd氏であり、その場での各社の発言を認識していたこと、D社がメーカー2社のリース参入によって最も影響を受ける会社でありそれを他社が認識していたこと、時期は違うものの結果的に同一の事後対応を行っている等の事実関係を丁寧に拾い、D社についても合意が成立しているか否かを論じる必要があるでしょう。
選択科目(知的財産法) 公開:2023年8月15日
第1問の設問2は、令和元年の最高裁判決を勉強していない受験生には難問だったと思われます。今後の対策として、判例百選の改訂版が発行されていない現状では、法科大学院の授業等において、判例知識をアップデートしていく必要があるでしょう。
(2)は、補償金(35条4項の「相当の利益」)の消滅時効について問う問題です。消滅時効の起算点である「権利を行使することができるとき」(民法166条1項2号)は、Xの職務発明規程によれば、Xが特許権を取得した時です。したがって、消滅時効はまだ完成しておらず、Bの請求は認められます。
設問2は、最判令元.8.27(差戻後控訴審知高判令2.6.17)の事案を題材としたものです。審決取消訴訟の審理範囲に関する最大判昭51.3.10(メリヤス編機事件、百選〔第5版〕82事件)、取消判決の拘束力に関する最判平4.4.28(高速旋回式バレル研磨法事件、百選86事件)を前提としつつ、進歩性の判断において、引用発明からの動機付けの有無とは別に、予測できない顕著な効果を主張することができるかが問われます。(1)は、先行する審決取消訴訟におけると同じ引用例からの進歩性に関わる主張であり、平成4年最判によれば許されないように思われますが、令和元年最判はこれを審理すべきとするため、許されることとなります。(2)は、Xの主張は、令和元年最判(及び差戻後控訴審)で認められた主張であるから、妥当です。Cの主張は、原審の立場であり、令和元年最判により否定された考え方によるもので、妥当とはいえないでしょう(なお、予測できない顕著な効果を、進歩性判断における独立要件とする説と総合判断の要素の1つに過ぎないとする説の対立はありますが、XとCの主張はこの点を明示的に示しておらず、また、設問では主張の妥当性を問うているので、最判に準じた考え方を示せれば良いと考えます。)。
設問3は、用途発明の特許権の技術的範囲と差止請求の可否を問う問題です。用途発明の「実施」(2条3項1号)とは、当該用途のための生産、使用、譲渡等をいうところ、D製剤の添付文書には、治療剤の用途と予防剤の用途の双方が記載されています。そこで、D製剤の販売の差止め及び廃棄を請求することは、過剰差止めとなるのではないかが問題となります。この点、東地判平4.10.23(フマル酸ケトチフェン事件)は、被告製品のうち当該用途を含むものに限って差し止める一部認容判決を行ったもので、被告は「右予防剤としての用途と他用途とを明確に区別して製剤販売していないのであるから、被告らが、その製剤品についてアレルギー性喘息の予防剤以外の用途をも差し止められる結果となったとしてもやむを得ないものといわざるをえない」と判示しましたが、過剰差止めであるとの批判もあります。
設問2の(1)では、Xは著作者として表示されておらず氏名表示権(19条1項)、撮り直すことで表現に変更があると思われるので同一性保持権(20条1)、Xの著作物に依拠してその表現上の本質的特徴を直接感得できるものを有形的に再製したので複製権(21条)、放送したので公衆送信権(23条1項)の侵害を主張すべきです。この点、複製権と翻案権(27条)との区別が問題となりますが、Yが新たな創作性を付与したとはいい難いことからすれば、複製権の侵害を主張すべきです(東高判平13.6.21(すいか写真事件)では、翻案権の侵害を否定。)。(2)では、Xは、Y映像の放送の差止めと廃棄、損害賠償、名誉回復(115条)としての謝罪広告等の請求をなし得ます。妥当性について、放送は終わっているから差止めの要件をみたさないとも思われますが、Yは将来的に同種の番組を作成する際に使用することも視野に入れており、認められます。
設問3の(1)では、犬に映像を見せることは、上映(2条1項17条)にあたりますが、公に(22条の2)、すなわち公衆に直接見せ又は聞かせること(22条)を目的としていません。なぜなら、「公衆」とは、不特定または多数の「者」(2条5項)をいうからです。したがって、上映権の侵害はありません。また、これを伝達権(23条2項)の問題と考えても同様です。そして、そのような非侵害行為の前段階として複製することは、30条の4の思想又は感情の享受を目的としない利用として認められます。また、当該複製されたX映像2は実験後に削除されたから、将来反復して使用される可能性のある形態の再製物の作成ではなく、「複製」には当たりません(東地判平12.5.16(スターデジオ事件)参照)。(2)では、Yが飼い主3名に見せたと評価できないため、YがXの著作権を侵害したということはできません(逆の評価もあり得ます。)。
選択科目(労働法) 公開:2023年8月15日
論文本試験の労働法の設問については、第1問が個別的労働関係に関する出題であることは一貫しています。これに対し、第2問については、集団的労働関係に関して出題されるか、もしくは個別的労働関係に関する論点と集団的労働関係に関する論点との融合問題が出題される傾向にあります。本年度については、第1問は、例年通り、個別的労働関係に関する出題がされ、第2問では、集団的労働関係に関する出題がなされており、出題の領域(個別法か集団法か)という点については、従前からのオーソドックスな形となりました。労働法の設問領域については、近年、第2問について集団的労働関係法だけでなく、個別的労働関係法との融合問題が出題される、あるいは第2問の小問の一部に、集団的労働関係法ではなく、個別的労働関係法からの出題がなされる等、集団的労働関係法のウェイトが下がる出題形式となる年度もありますが、少なくとも集団的労働関係法に関する出題が全くなされないといった例はなく、集団的労働関係法の領域の学習についても、一定の注力が必要であることは、今後も変わらないものと思われます。
なお、近年は、比較的直近の注目される裁判例で示されているテーマや、学会で注目されているテーマがしばしば出題される傾向にありますが、今年度についても、第1問は、比較的最近の注目すべき下級審裁判例が参考となる出題がされていますし、第2問も、派遣労働における団体交渉義務、労働協約の規範的効力の限界という、比較的最近学界において議論になり、あるいは重要な最高裁判例が示された論点からの出題となっています。昨年度の第2問目では、2018年に改正が行われたばかりのパート有期法(しかも、2020年秋の最高裁判決で論点の1つとなった、賞与に関する格差)が問われる論点が出題されています。以上のような傾向からすれば、受験生としては、直近の法改正や議論となった(下級審判決を含む)裁判例、ここ最近(5~10年程度で)学界で議論となっている論点や、重要な最高裁判例が示された論点については、今後とも、重点的にフォローをしておく必要がありそうです。
他方で、昨年度までの数年間は、特定の出題委員が執筆した体系書においてのみ言及されている論点や、特定の出題委員が近年精力的に議論を行っている論点が出題される傾向がみられましたが、今年度の出題範囲については、出題委員の問題関心からの影響を明確にみて取ることはできませんでした。このあたりは、出題委員の交代によって傾向の変化が生じた可能性もありますが、今後も、出題委員の最近の問題関心を最低限フォローしておくことは必要かもしれません。
また、解答に際して問われる能力についても留意すべき点が見られます。以前の労働法の試験では、きわめてオーソドックスかつシンプルな論点を提示しつつ、事例中における事実関係を適切に抽出し、あてはめをおこなう能力が問われる出題が多くみられました。しかし、ここ数年、問われる論点そのものがややマイナーな論点であったり、論点そのものはメジャーな論点ではあるものの、設問レベルでは、当該論点についての一定以上の深い理解や、応用力がなければ対応することが難しい出題が増えているように思います。本年度の設問についても、事実の摘示及びその評価を中心としたあてはめの力を問うというよりは、設問においてどのような法的な問題が生じるのか、当該論点においてどのような議論があり得るのか、自らがとる規範について、根拠をもって論理的に説明できるかについての能力が問われる、法理論的な理解力・構成力が問われる設問となっています。このような傾向からは、事例の中から適切な事実を抽出し、評価を行う「あてはめ」の技術的な力というよりは、個々の論点についての深い理解や、応用的な考察力を高める学習が、今後はより重要となってくるかもしれません。
もっとも、本問は、片山組事件最判の枠組みを知っていれば、それを事案に当てはめて、それで解決するというわけではなく、片山組事件最判が示した枠組みにもとづく処理を前提に、具体的な判断をめぐっての応用的な出題になっています。さらに、設問1、設問2ともに、比較的最近の、議論を呼んだ下級審判決を下敷きにした出題と考えられ、これらの下級審裁判例およびそれをめぐる議論について学習しているか、もしくは初見の応用的な論点への対応力を問われる出題になったと思われます。
まず、判断枠組みについては、前記したように、片山組事件最判で示された判断を参照しつつ、Xが「債務の本旨に従った労働義務の履行が可能であったか」を判断する形をとるのが妥当でしょう。そのうえで、本問で問題となるのは、Xが職種の限定のない労働契約であって、(片山組事件最判を参照するならば)復職の可能性について幅広く検討されるべきであると考えられる一方、X自身は現職での復職を強く希望している点をどう考えるかです。すなわち、復職可能性の判定について、使用者が客観的な立場から幅広く検討することが求められるのか、それとも、労働者が復職を希望ないし求めている範囲の中で検討すれば足りると考えるのかという問題に帰着します。下級審裁判例でも、この点についての考え方は分かれており、解答の際に、いずれの立場を取ることも許容されるというべきでしょう。むしろ重要なことは、自らがとる立場について、説得的に論拠を説明できるかどうかにあると思われます。
片山組事件最判では、「債務の本旨に従った労働義務の履行」と認めるにあたり、諸般の事情に照らし、当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務が存在し、労務の提供が可能であって、当該労働者が労務の提供を申し出ていることを要件としているようにも読み取れます。この判旨を文字通りに受け止めるのであれば、Xが現職での復帰を強く希望していることをもって、他の業務については、「労働者が当該労務の提供を申し出ていない」として復職可能性を検討しなくてもよいと考えることも可能でしょう(同様の結論を示した最近の下級審判決として、日東電工事件(大阪高判令3.7.30)があります。)。他方で、片山組事件最判の趣旨を、日本における職種限定のない正社員については幅広い指揮命令・配置の権限が使用者に認められる帰結として、労働者の(債務の本旨に従った)労務遂行の可能性を幅広く検討することを使用者に求める趣旨と理解すれば、労働者が申し出ている業務以外の配置の可能性についても幅広く検討しなければならない(配置可能な部署に復帰させたうえで、労働者が当該部署での就労を拒否した場合には、業務命令違反として対応すればよい。)との解釈もあり得るところでしょう。
答案構成としては、片山組事件最判で示された枠組をベースとしつつ、設問中に示された事実を活用しながら、本件においてXが「債務の本旨に従った労働義務の履行」が可能であったのかを検討することとなりますが、単に事実を指摘するだけではなく、上記のような論点があることを意識しながら論証すること(=本問において問題となるのは何か、その点についてどのように考えるべきかを論理的に説明すること)ができるかどうかが、好評価を得られるか否かの分かれ目となったのではないかと思われます。
もっとも、本問の肝となるのは、「同年7月1日以降については、実際に同課で就労していたのであるから、少なくとも当該就労分の賃金は支払われるべき」の部分をどう考えるかでしょう。設問文中にある通り、この期間は、「休職扱いのまま」簡易な業務を行なうものとして出勤、就労していた(いわゆる「リハビリ勤務(試し出勤)」)のであり、これについて、法的にはどのように考えたらよいのかが問われています。この点についても、比較的最近、リハビリ勤務中の就労につき、最低賃金法の適用が争われた下級審裁判例があり(NHK(名古屋放送局)事件:名古屋高判平30.6.26、労判1189号51頁)、同事件を意識した出題ではないかと予想されます。同事件では、リハビリ勤務につき、債務の本旨に従った労働義務の履行とは言えないとして、通常の賃金の支払請求を棄却する一方、労働者の労務提供は指揮命令に従ったものであり、労働基準法上の賃金の要件である「労働」には該当するとして、最低賃金法に基づく最低賃金相当額の支払を命じるという判断が示されています。こうした「リハビリ勤務」が労働にあたるか否かの判断基準については、学説上は、労働基準法9条所定の「労働者」にあたるかどうかの判断基準(指揮命令下の労働であるといえるか)を参照する見解が示されている一方、こうした「リハビリ勤務」については、インターンや訓練目的の就労と同様、そもそも報酬の支払を想定されていないものであって、「労働」とはいえないと解する見解も示されており、多様な結論・論証の可能性が考えられるところです。いずれにせよ、問題の所在を正確に理解し、自己の見解を根拠をもって論理的に展開できているかどうかが、好評価を得られるか否かの分かれ目になったものと思われます。
そこで、問題となる派遣先の「使用者」性についてですが、労働契約基準説の立場からは、派遣先が派遣労働者の雇用そのものについて全体的に現実的・具体的な支配を及ぼしていることを要する(あるいは、実質的な関与・影響力を及ぼしていることを要する。)とする見解に加え、派遣労働者については、適法な労働者派遣に基づく派遣労働者の契約に関する事項に関しては派遣元が原則として団体交渉義務を負うとする見解も示されています。他方で、派遣労働者についても、問題となっている労働条件等に付き、現実的かつ具体的な支配力を及ぼしているのであれば、当該事項については派遣先が団体交渉義務を負う「使用者」と認められ得る旨を示す学説、およびこのような考え方を示唆する下級審裁判例も存在します。したがって、本問においては、いずれの結論をとるかにかかわらず、朝日放送事件最判の枠組みを基礎としつつも、これが労働者派遣の場合においても適用され得るのか、また労働者派遣の場合における「使用者」の判断基準をどのように考えるのか、論理的な規範定立と、それを踏まえた上でのあてはめができているかどうかが、高評価の答案となるかの2つ目の分かれ目になったものと思われます(本問の場合、勤務実態が勤務計画書から逸脱し、その結果として割増賃金の未払が生じていたという事実が存在することから、これをもって通常の労働者派遣の枠組みを逸脱した(派遣先による指揮命令にかかわる)労働基準法上の問題が生じているとして、派遣先の使用者性を認めるような論証もあり得るところでしょう。)。
なお、事例の内容から、事業場外労働のみなし労働時間制が問題となった、阪急トラベルサービス事件(最二小判平26.1.24労判1088号5頁、百選41事件)を想起した受験生もいたかもしれません。しかし、本問で問われているのは、あくまでもA社が団体交渉に応ずべき使用者と言えるかであり、この見地から(のみ)論じる必要がある点には注意が必要だったと言えるでしょう(本問のベースの1つとなっているのは、阪急トラベルサービス事件と同じ当事者による、阪急交通社事件(東京地判平25.12.5労判1091号14頁)だろうとは思われますが。)。
注意すべきは、労働協約の規範的効力の限界が問題となる場合、朝日火災海上(石堂)事件(最一小判平9.3.27労判713号27頁-百選91事件)を思い浮かべる受験生が多いと思いますが、同事件は労働条件の不利益変更が問題となった事案であるのに対し、本問は、未払賃金債権の放棄が問題となった事案だということです。したがって、本問については、上記朝日火災海上(石堂)事件最判の枠組みを用いて論じることは、誤りということになります。
すなわち、本問については、端的に、労働協約は、組合員個々人の既に発生している権利の処分等については、その一般的権限の範囲外(すでに発生した個々人の権利は「労働条件」ではない)であって、当該個々人の授権を得ない限り、労働協約に基づく処分はできない旨を論じればよいということになります。なお、この点を問題とした最近の判例として、平尾事件(最一小判平31.4.25労経速2385号3頁)があり、ここでも、比較的最近の裁判例をベースした出題がされていることは注目しておく必要があるでしょう。
選択科目(環境法) 公開:2023年8月15日
1 はじめに
第1問は、騒音訴訟の訴訟要件及び違法性の判断枠組みについて、民事訴訟及び行政訴訟の異同並びに判例及び学説の理解が問われています。
第2問は、リサイクルにかかる事業者の負担の公平性について、負担の実質的根拠・考え方、条文知識、制度理解、立法論等が問われています。
〔小問1〕は、道路騒音及び航空機騒音訴訟の対比並びに道路騒音訴訟における差止請求訴訟及び損害賠償請求訴訟の対比を問う内容です。大阪国際空港訴訟最高裁大法廷判決は、空港の供用差止請求が不可避的に航空行政権の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含すること(不可分一体論)を理由として、民事差止訴訟を不適法としました。一方、資料では、警察庁・環境庁・通商産業省・運輸省・建設省の各局長からの各都道府県知事等宛て通知があります。この資料に照らし道路騒音訴訟で不可分一体論が妥当しないことを問う内容です。
〔小問2〕は、道路騒音訴訟のうち違法性の判断枠組みを問う内容です。違法性の判断枠組みとして受忍限度論が用いられ、受忍限度論の判断枠組みについて差止めの場合は損害賠償の場合に比べて高い違法性が要求される立場(違法性段階説)の検討を問う内容です。参考となる判決としては、国道43号線判決(最判平成7.7.7)等が考えられます。
〔小問1〕は、差止請求について民事訴訟及び行政訴訟の比較検討を問う内容です。行政訴訟はともかくとしてと断った上で民事差止訴訟を不適法としてきた裁判実務の理解を踏まえて記載するとなおよいと考えられます。事実行為としての自衛隊機の運航に処分性を肯定し、自衛隊基地周辺住民の原告適格を肯定し、その他訴訟要件をみたすとして、処分差止訴訟を適法とした厚木基地第4次訴訟判決(最判平成28.12.8)等を踏まえた検討ができるとさらによいと考えられます。
〔小問2〕は、小問1で記載した訴訟の本案の違法性の判断枠組みを問う内容です。小問1で処分差止訴訟の提起が可能とした場合、裁量逸脱・濫用の判断枠組みを検討することが求められています。この場合、参考となる判例は厚木基地第4次訴訟判決(最判平成28.12.8)等が考えられます。
〔小問3〕は、処分差止訴訟における裁量逸脱・濫用論と、民事差止訴訟における受忍限度論の比較を問う内容です。判断要素を含めて実質的な違いがあるか否かの検討等が求められています。公共性の検討もできればなおよいと考えられます。
〔小問1〕は、拡大生産者責任の考え方を問う内容です。
〔小問2〕は、費用負担の考え方を体現する条文を問う内容です。まず、特定事業者の再商品化義務を定める容器包装リサイクル法11条ないし13条の説明が考えられます。また、その履行方法を定めた同法14条、15条、21条、23条等の説明も考えられます。このうち、独自ルート(同法15条)の実例はないとされています。その背景には、事業者の排出見込み量や認定の申請は事業者側のイニシアティブに任されている部分が大きく、支払うべき委託料や再処理費用を支払っていないフリーライダーが多く存在すること等が考えられます。
〔小問3〕は、事業者の責務という形式で規定する循環型社会形成推進基本法11条を問う内容です。
〔小問1〕は、実際に容器の製造に関与していないともいえる特定容器利用事業者に費用負担を課す実質的根拠として、拡大生産者責任の考え方を問う内容です。
〔小問2〕は、容器包装リサイクル法11条2項2号ロを問う内容です。
〔小問3〕は、環境配慮設計(エコデザイン)推進のため調整料金制度を導入する仕組みや立法論を問う内容です。資料をみながら、事業者に対し、売れ残るなどした未使用繊維製品の廃棄の禁止を明文化するといった立法論等を指摘することが考えられます。
〔小問4〕は、再商品化義務の履行確保を問う内容です。委託料の支払は再商品化義務の履行とされます。委託料の支払留保について行政側が採ることのできる措置は、指導及び助言(容器包装リサイクル法19条)、勧告(同法20条1項)、公表(同条2項)、命令(同条3項)が考えられます。なお、命令違反には刑事罰(同法46条)があることを指摘できればなおよいと考えられます。
選択科目(国際関係法〔公法系〕) 公開:2023年8月15日
A国の主張としては、まず①選択条項受諾宣言により、一応の管轄権は存在するといえます。次に、②境界画定の合意の達成(国連海洋法条約第74条1項、第83条1項)は、合意までの過渡的期間において、埋立てや軍事活動から保全されるべき権利と見込まれます。境界確定の最終合意を妨げない努力義務があるなかで(同第74条3項、第83条3項)、紛争の悪化防止は権利保全に補完的といえます。紛争の悪化防止については、ガイアナ・スリナム事件(仲裁裁判判決、2007年、百選105事件)や、大西洋海洋境界画定事件(ITLOS、2017年)などに依拠できるとよいでしょう。最後に、③埋立てによる島の拡大や軍事活動による人の死傷は、回復不能な侵害となりうるため、緊急に停止させる必要性があると主張できます。
B国としては、南シナ海事件判決(仲裁判決、2016年、百選36事件)を参考に、まずはγ島が島であることを主張できます。そのうえで、上記①の段階でγ島が基点となることを主張すべきとも考えられますが、問題文でB国自身が関連事情(②)として考慮すべきと主張しているので、それに従うとよいでしょう。本問と同様の位置の島(コーン諸島)が問題となったカリブ海大西洋海洋境界画定事件(ICJ判決、2018年)では、コーン諸島を基点として等距離線を引いたうえで(①)、同諸島の小ささと本土からの距離に鑑み、関連事情として半分効果のみを付与するとされました(②)。解答では、本判決に依拠できることが望ましいですが、英仏大陸棚事件(仲裁判決、1977年、判例国際法47事件)等の他の判決でも代用できます。最後に、③については、著しい不均衡はないと主張することになります。
また、仮に当該直線基線が認められるとしても、それ以前に内水でなかった水域においては、無害通航権が認められます(第8条2項)。軍艦に関するB国国内法がないなか、C国軍艦X号による直線基線と低潮線との間の海域の迅速かつ継続的な通航は、無害性と通航の要件を満たしているといえます。そのため、X号の通航は適法な無害通航権の行使であり、主権侵害には当たらないと反論できるでしょう(第2、17~32条)。
条文の文脈から、「のために」の解釈として、航行が産業に関連しているだけでは十分ではなく、B国の主権を侵害しないことが求められます。この点、A国による①石炭輸送船に観光客を乗せる航行は、主権を侵害しない観光産業にとどまるものと考えられます。逆に、②研究目的の生物資源調査や、③D国への兵器等の輸送航行は、産業に関係しても、主権を侵害しうるためP協定違反と考えられます。
国家責任条文第25条によれば、緊急避難の要件としては、①重大かつ差し迫った脅威の存在、②国の根本的利益を守る目的、③必要性(他にとりうる手段がないこと)、④相手国又は国際社会全体の根本的利益を大きく損なわないこと、⑤緊急事態の発生に自国が寄与していないこと、が挙げられます。経済的苦境や環境保護を理由とするダム建設中止は、要件③や④を満たさず、違法性は阻却されないと考えられます。以上より、R協定違反により国家責任が発生し、原状回復としてダム建設を再開しないのであれば、損害賠償の支払い義務があると考えられます(国家責任条文第35、36条)。
選択科目(国際関係法〔私法系〕) 公開:2023年8月15日
今年の「国際関係法(私法系)」の出題は、出題順序が例年と異なっており、受験生は一瞬驚いたことでしょう。すなわち、例年は、第1問が国際家族法、第2問が国際財産法に関する問題でしたが、今年は、第1問が国際財産法、第2問が国際家族法に関する問題となっており、第1問と第2問の順序が逆でした。ただ、内容は例年どおりであったと言うことができると思います。第1問と第2問それぞれへの配点も、50点ずつでした。
国際私法、国際民事手続法、国際取引法という区分からは、今年は、国際取引法からの出題はなかったと言うことができるでしょう。
1 〔設問1〕
〔小問1〕
売買契約②における本件条項(P地方裁判所を専属的管轄裁判所とする管轄合意条項)が、債権①の弁済を求める日本での裁判で、相殺の抗弁を主張することを禁じる趣旨も含むかについて論じればよいでしょう。相殺の抗弁を禁じることをうかがわせる事情がない限りは、外国裁判所を専属管轄裁判所とする管轄合意は、日本での裁判で相殺の抗弁を主張することを禁じる趣旨を含むことにはならないと思われます。
〔小問2〕
相殺の準拠法に関する明文規定は存在しないことを述べた上で、相殺の準拠法に関しては、(a)受働債権の準拠法によるとの見解や、(b)受働債権の準拠法と自働債権の準拠法が累積的に適用されるとの見解等が主張されていることを説明する必要があります。その上で、法の適用に関する通則法(以下では、「通則法」と呼びます。)7条によって、債権①の準拠法は日本法、債権②の準拠法は甲国法となることをふまえて、相殺の準拠法に関して、私見を論じればよいでしょう。
〔小問1〕
〔小問2〕
本問の解答においては、「権利質はその客体たる権利を支配し、その運命に直接影響を与えるものであるから、これに適用すべき法律は、客体たる債権自体準拠法による」と判示した最判昭和53年4月20日(民集32巻3号616頁)を、まず思い出す必要があります。そして、債権譲渡担保権の設定の第三者対抗要件は、(a)物権の準拠法(通則法13条)による、(b)客体たる債権の準拠法による、(c)債権譲渡の準拠法(通則法23条)によるとの見解が考えられることを説明し、その準拠法について、私見を論じればよいでしょう。
それにより、日本法が準拠法になると考える場合には、日本民法上、債権①の取得について、CとDのどちらが対抗要件を具備したということができるかを説明しなければなりません。
〔第2問〕
1 〔設問1〕
〔小問1〕
まず、認知の方式は、通則法34条によることを述べた上で、「成立について適用すべき法」と「行為地法」のいずれかに適合すればよいことを説明する必要があります。そして、「成立について適用すべき法」は、日本法(出生時の認知者の本国法、認知時の認知者の本国法:通則法29条1項前段、2項前段)、又は、甲国法(認知時の子の本国法:通則法29条2項前段)となり、また、「行為地法」は、甲国法となることから、認知の方式は、日本法又は甲国法いずれかに適合すればよいことを説明しなければなりません。その結果、本件認知は、甲国法に適合することから、方式上有効に成立していると結論すればよいでしょう。
〔小問2〕
通則法29条により、選択的に適用される法のうちの1つによって認知が認められた場合は、その法が認知の無効を規律することとなるが、複数の法により認知が認められた場合には、その全ての法によって認知の無効が認められなければならないと解されることを、まず説明する必要があります。その上で、本問では、日本法と甲国法両方によって、認知が認められるので、その両方の法によって認知の無効が認められなければならないことを説明しなければなりません。そうすると、日本法では、認知無効の訴えには出訴期限は定められていませんが、甲国法③によると、認知無効の訴えの出訴期限は、認知時から7年ですので、認知無効の訴えはできないことになります。
しかし、血縁上の父がXではないにもかかわらず、出訴期限を理由に、認知無効を争えないという結果は、日本の公序良俗に反することになるとも考えられます。この点について、血縁上の父がBであることが不明である場合には、通則法29条1項前段が指定する乙国法④により、Bが法律上の父とならないこと、血縁上の父がBであることが証明された場合には、同規定により、Bが法律上の父となることをふまえて、私見を論じればよいでしょう。
2〔設問2〕
まず、民事執行法24条5項によれば、外国判決についての執行判決を求める訴えでは、外国判決が確定したこと、及び、民事訴訟法118条各号に掲げる要件を具備することが必要となるため、離婚の認容と同時にされた財産分与に関する裁判の承認でも、民事訴訟法118条各号の要件を満たすことが必要になることを説明しなければなりません。その上で、同条1号の間接管轄権の要件は、判決国法である甲国法を基準にすべきではなく、承認国法である日本法を基準とすべきことを説明し、日本法の間接管轄権に関する基準は、直接管轄権に関する基準と同じであると考える(鏡像理論)かどうかについて、私見を論じればよいでしょう。そして、人事訴訟法3条の4第2項の要件をもとに、同条1号の要件が具備されるかどうかを検討すればよいでしょう。
4 的中情報★★★
現在調査中です。判明次第,公開いたします。