令和5年度司法書士試験筆記試験
基準点の発表を受けて
8月14日、法務省ホームページにおいて、令和5年度(2023年度)司法書士試験筆記試験択一式の基準点等が公表されました。
公表された基準点は次の通りです。
午前の部:満点105点中78点
午後の部択一式:満点105点中75点
午前または午後択一の点数のいずれかが基準点に達しない場合にはそれだけで不合格となります。
基準点以外に公表された資料は次の通りです。
受験者数:13,372名(昨年比105.1%)
本年も、午前の部・午後の部択一式ともに、平均点の発表はありませんでした。
※辰已法律研究所の計算によると、午前の部の平均点は62.1点、午後の部択一式の平均点は52.34点でした。
また、択一式の正解も公表されました。本年も複数解や正解なしの問題はありませんでした。
さらに、「令和5年度司法書士試験筆記試験(多肢択一式問題)得点順位別員数累計表」も公表されています。
これらについては、法務省ホームページをご覧ください。
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00469.html
令和5年度は、午前の部の基準点が78点(26問)、午後の部択一式の基準点が75点(25問)となりました。午前の部は昨年より3点(1問)下がり、午後の部は昨年と同じ基準点でした。
上記のように、午前の部の基準点は78点(26問)で昨年より3点(1問)下がりました。辰已法律研究所が行ったWEB択一再現に基づく科目別平均正答率によると、午前の部では、昨年と比較をして憲法が易化、民法は若干の難化、刑法はほぼ昨年並み、商法は若干の易化という結果が出ています。全体としてみると、問題の難易度は昨年から大きく変わっていませんが、出題数の多い民法が若干難化したことにより基準点が下がったものと思われます。出題形式としては、組合せ問題が33問(昨年34問)、単純正誤問題が2問(昨年1問)、個数問題が0問(昨年0問)、会話形式の問題が3問(昨年1問)ということで、前年度からの大きな変化はみられませんでした。
一方、午後の部択一式の基準点は75点(25問)で、昨年と同じ基準点となりました。WEB択一再現に基づく科目別平均正答率によると、いわゆるマイナー科目の中では、民事訴訟法・民事執行法・司法書士法の正答率が昨年より上がり、民事保全法と供託法の正答率が昨年より下がりました。主要科目である不動産登記法・商業登記法はともにほぼ昨年並みという結果が出ています。午後の部の出題形式をみると、組合せ問題が35問(昨年35問)、単純正誤問題が0問(昨年0問)、個数問題が0問(昨年0個)、会話形式の問題が2問(昨年2問)で、午前の部同様、こちらも大きな変化とはいえません。
午前・午後を通じて出題傾向の顕著な変化はみられず、基準点も午後の部択一式が昨年と同じで、全体として難易度にも大きな変化はみられませんでした。午前の部・午後の部択一式ともに過去問知識だけでは解けない問題が一定数含まれていましたが、それらも基礎的な事項を正確に理解していれば正解することは十分に可能な問題となっており、結果として基準点を大きく変動させることはありませんでした。今後の試験対策としては、従来同様、基礎的な事項をしっかり押さえ、正答率の高い問題を確実に得点していく勉強が最も有効だと思われます。
次に、基準点到達人数をみると、午前の部は昨年より557名増え、対受験者でみた基準点到達者の割合は昨年より2.8ポイント上がりました(31.4%)。これは近年では令和2年度に次いで高い到達率です。午後の部択一式は到達者数で96名、到達率でも1.8ポイントほど昨年より下がっていますが、これは大きな変化とはいえません。午前と午後択一との基準点到達率の差は令和2年度に近い状態に戻り、午前の部の基準点到達率が午後の部択一式の基準点到達率を10ポイント以上上回っています。
択一式基準点は午前の部・午後の部択一式双方での高得点者の「重なり」の調整結果です(下の表の中でDの数値のみ安定している点に注目)。よって、重要なのは記述式の採点をされたのが何人か、受験者数の変動に伴ってこの人数に変動があるのかということであり、これについては10月10日の法務省の発表を待って当欄に数値等の追加をいたします(上記「重なり」が判明しない段階での、偏差値等に基づく推測的なコメントは当研究所では差し控えます)。
最後に、「令和5年度司法書士試験筆記試験(多肢択一式問題)得点順位別員数累計表」をもとに、辰已法律研究所が作成した得点分布グラフを見てみましょう。
上記のように、午前の部の基準点は昨年より3点(1問)下がりました。得点別にみると、基準点である78点から90点までの比較的上位にいる受験者の人数が減っており、75点以下の得点別員数は増えている部分が見られますが、全体としては、午前の部の標準的なグラフの形と大きく異なるものではありません。基準点は下がりましたが、基準点到達人数は上記の通り増えており、基準点を昨年と同じ81点にしたとしても累計人数は3,545名で、昨年(3,642名)と比べて大きな差がないことからも、問題の難易度は昨年並みといってよいでしょう。
午後の部択一式のグラフの形は、例年、高得点域と低得点域にそれぞれ山があり、低得点域の山のほうが高いというのが標準的ですが、今年はまさにこの標準的な形に戻りました。60点~30点までの得点域で大きく人数を増やしているのが今年の特徴です。ただし、この得点域は基準点より下にあって合否には影響しない部分であるため、合否を争う受験者についてみるなら、得点分布の変化にあまり意味はないといえます。
今年は午前の部の基準点が3点(1問)下がり、午後の部択一式は昨年と同じという結果でしたが、以上に述べたように、得点分布としては特筆すべきことはありません。今年の結果を受けて、来年の本試験問題が大きく難化や易化、あるいは出題傾向が大きく変わるということは考えられません。