答案の型と事実の評価
1 司法試験の受験を決意した経緯
大学入学当時、法曹になることを希望したわけではありませんでしたが、法学部に入学したので、司法試験に合格し、これから法曹となる方のお話を伺いました。その際に、法律を学んで、人の助けになりうるということに興味が湧き、司法試験受験を決意するに至りました。
2 予備試験合格までの学習状況
(1) 予備試験論文式試験について、はじめは、予備試験と、司法試験の違いを意識することなく、基本書や、参考書を読んで、法律知識を頭に入れる、という勉強をしていました。
そのうちに、論文式試験の対策として、問題演習をするようになり、優秀答案や、参考答案を読むようになり、そこで、予備試験と司法試験に通ずる、答案作成のコツと、予備試験と司法試験の、答案作成戦術上の違いを意識するようになりました。
前者は、答案には、科目、論点ごとに、決まった型が存在するということです。後者は、予備試験では、時間が短く、また、問題文中の、摘示すべき事実が、司法試験に比べて少ないということです。
これを意識するようになってからは、予備試験合格に向けて、いかにスムーズで、コンパクトな答案を書く準備をするか、ということに注力するようになりました。予備試験の論文式試験において、合格答案を書くには、学説の対立点に深入りしたり、あてはめにおいて、事実についての評価に、注力しすぎない、ということが必要ではないかと考えるようになったのです。上記のような部分は、上手に書ければ、加点につながり、超優秀答案となりうる部分であると思います。しかし、うまく書けなければ、答案を徒に複雑にし、答案作成中に、自分自身をも混乱させかねないものであると考えたためです。
そこで、時間が短く、問題文中の事実も少ない予備試験では、答案の型を整理し、準備することに時間を割きました。具体的には、5、6に後述致しますが、これにより、基本的なものであれば、どんな論点が来ても、スムーズでコンパクトな答案が書けるような準備を整えました。
そのような状態を作り上げながら、知人とゼミを組んで過去問を解き、合格者のアドバイスを受けながら、答案の改善点を見つけては、修正していくという方法で、勉強をしていました。
予備試験を受験し終えた感覚としては、これは、適切な準備であったように思います。
(2) 短答式試験については、司法試験より科目も多く、必然的に、幅広い知識が必要になると思いました。そこで、単に、短答式試験対策として、少し時間を割くというやり方ではなく、これを、基本的法的知識の勉強として、日々の勉強に組み込むことにしました。
これも、具体的には、5、6に後述致しますが、毎日コツコツと短答式試験の勉強をしていたことは、自身の法的知識のレベルを大きくあげることにつながったと思います。
3 予備試験合格後の学習状況
(1) 先述したように、予備試験と司法試験では、論文式試験において、実務基礎科目、一般教養科目がなくなり、選択科目が増えることに加え、試験時間、問題文中に挙げられる事実の量に、大きな違いがあります。しかし、逆に言えば、それ以外は、ほとんど変わりはありません。
そこで、私は、予備試験合格後は、司法試験合格者の参考答案を、どのような事実を拾い、それに対してどのような評価を加えているのか、という点に注目しながら、読んでいました。
司法試験では、あてはめにおける事実の評価が大事、とはよく言われることですし、私自身、その通りであると思います。予備試験合格後は、その事実評価の力を伸ばすには、どうしたらいいか、そのことを最も重視して勉強をしていました。具体的な内容は、4、5、6において後述致します。
(2) 短答式試験については、予備試験に比べ、科目が減ること、および、予備試験対策として、一度、時間をかけて知識を入れていたことから、あまり注力はせず、過去問を数度解きなおしてみる程度のことしかしていませんでした。
4 受験対策(辰已講座の利用)
司法試験対策として、2019年の、スタンダード論文答練(以下、スタ論)と、全国模試を利用しました。
スタ論については、先述した、司法試験における、事実の評価の訓練という点で、非常に役に立ちました。まず、スタ論の問題内容は、司法試験本番と、遜色ない内容と難易度となっています。このような問題に対して、事実の評価を見てもらうという意識のもとに、答案を作成していきました。
スタ論では、採点において、事実の一つ一つに、非常に細かく点がふられており、採点内容も充実しているように思いました。その採点を見ながら、この事実は摘示して、評価をできていたか、できていたとして、どのようなことが書けたときは高い評価を得られたか、といったことを中心に、復習をしていました。
また、各論点についての解説も充実しているため、それを読むことで、当該論点の学習に充分であったと思います。
全国模試については、司法試験のレベルを知るという意味では、私は、スタ論で十分だと思いましたが、司法試験のスケジュールを体験しておくという意味で、いい機会であると思います。また、スタ論に加えて、全国模試の問題を解き、解説を読むことで、司法試験で実際に出る問題と似た問題や、論点に、事前に触れている可能性が高くなります。そのような機会は、非常に重要で、代えがたいものであると思います。
5 私がとっていた勉強方法
(1) 予備試験受験段階では、先述したように、答案の型を身につけ、スムーズでコンパクトな答案を作成できる準備をすることを心掛けていました。
具体的には、憲法や、行政法、刑法、刑事訴訟法といった、答案の定型的な書き方が確立されているものについては、辰已のえんしゅう本の参考答案を分析したり、優秀者の話を聞きながら、科目、論点等ごとに、書き方をまとめたノートを作成しました。
これを作成し、何度も読み直し、加筆修正していくことで、どのような問題、論点が来ても、頭の中に、どうやって書いていくかの流れが浮かぶようになりました。一見、複雑で難しいような問題であっても、基本の書き方が確立されていれば、対応も可能であり、実際に受験した予備試験においても、どうやって書いていくか、という点に悩まずにすみました。
(2) 司法試験については、予備試験合格段階で、法的知識については、司法試験合格に充分なレベルに達したと考え、4において先述したように、あとは、あてはめを充実させることに特化して勉強をしました。
その際、役に立った考え方として、事実の評価は、自由であるとの考え方があげられます。
もちろん、荒唐無稽なことをいってもだめですが、法の趣旨や、社会通念に従って、自分で考えたものであれば、事実をどう評価し、法的な意味を持たせるかは、自由であったように思います。自分で考えた、ということが伝わる答案であれば、スタ論においても、高い点数がついていたし、採点者のコメントも、高評価であったように思います。
優秀答案を見て、どのようなことを書くかを学ぶとともに、それを基に、自分で考えて書いてみる、ということを意識して、答案を作成していたことが、合格につながったのではないかと思います。
6 私が使用した本(辰已の書籍)
① えんしゅう本
予備試験受験時に、主に使っていました。
基本的な論点が、網羅的にカバーされており、答案例が、非常に、コンパクト、かつ、スムーズです。これを真似するだけでも、答案の書き方が、一通り身につくのではないでしょうか。
各論点の解説も、必要十分な範囲であると思います。人によっては、物足りないかもしれませんが、足りない部分は、自分で補完すればよいと思います。読みやすいうえに、実用的であり、私の場合、予備試験合格に欠かせない一冊であったと思います。
② 趣旨規範ハンドブック
私の場合は、この本に出会うのが遅く、司法試験直前期に、公法系のものを使用したのみですが、とてもコンパクトに、重要な情報がまとまっていると思います。答案を書いていけばわかることですが、法の趣旨というのは、非常に重要です。これを理解しておくことで、論点が自然と理解できるようになるし、判例などの規範も、暗記ではなく、自分のものとして、使えるようになります。
その点で、基本論点、重要論点につき、趣旨をまとめて、網羅的に示してくれているこの本は、有用であると思います。一から自分でまとめノートを作る方がもちろん勉強にはなりますが、時間もかかります。それならば、この本を基に、加筆修正して、まとめノートにしていくのもよいかもしれないと思える一冊でした。
7 これから受験する人へのアドバイス
予備試験、司法試験と、合格まで勉強を続けるのは、基本的に、つらい毎日です。勉強を投げ出したくなる時も私自身何度もありました。それでも、努力をし、忍耐を続ければ、大きな喜びが待っています。予備試験も、司法試験も、決して、才能や、頭の良さがなければ受からないという試験ではありません。努力と忍耐の先に、必ず合格が勝ち取れる試験です。
なるべく、その忍耐のつらい時期を減らすためには、正しいやり方で努力する必要があります。人によって、最善の方法は異なりますから、必ずしも一つの方法を、これが正しいと教えることはできませんが、先輩、友人、予備校、教授、いろんな人が、正しい努力のやり方を教えてくれるはずです。努力自体は、一人でやるものですが、どう努力したらいいか、その方法は、人を頼って、見つけるのがよいと思います。一人では、間違っているかもわかりづらいものです。この体験記も、そのようなやり方を見つける助けの一つになれば幸いです。
皆様の成功を心からお祈り申し上げます。
辰已法律研究所 受講歴
・2019年スタンダード論文答練
・司法試験全国模試