的確な情報収集と早めの準備が合格への近道である。
1 受験を決意した経緯
子供のときから弁護士という職業に漠然としたあこがれがあり、大学進学の際には法学部法律学科を選択したものの、その後政治学に興味がわき、政治学科の科目を中心に履修し、3年時には交換留学もしました。
しかし、留学中の経験を通して、大学院に進学して政治学を勉強するよりは、弁護士としてビジネスに携わりたいと思うようになり、帰国後に司法試験を受験することを決意しました。
2 ロー受験前の学習状況
日本に帰国したときはすでに4年の後期で、卒業のための単位取得に忙しく、司法試験の勉強をする時間は殆どありませんでした。結果的に卒業後にやっと適性試験、ロー入試の勉強を始めることができました。当時の自分は、司法試験の勉強を始めたのが他の人達よりも遅かったことと、同じように司法試験合格を目指す仲間が周りに全くいなかったことで、司法試験に関する情報が圧倒的に不足していました。勉強方法についていえば、最初は、とにかく教科書を読んで書いてあることを短期間で詰め込めば何とかなるだろうという安易な考えを持っていました。しかし、当然ながら勉強を初めて数ヶ月後には、そのような考えはあっさりと破綻することになりました。
加えて、卒業後は毎日ずっと家の中で一人で勉強していたので、誰とも話さない日が多くなり、だんだんと孤独を感じるようになりました。そのこともあって勉強が辛くなり、ロースクール入試に合格した後はしばらく司法試験の勉強から遠ざかってしまいました。今思えば、入学前のこの時期にこそしっかりと基礎を固めておくべきであったと反省していますが、勉強を始めた当時は、司法試験という巨大な壁に圧倒されてどうしたらいいのか分からなくなり、無意識に避けてしまったのだと思います。
3 ロースクール入学後の学習状況
ロースクール入学前と違い、ロースクールでは司法試験合格という同じ志を持った友人に恵まれました。ロースクールの授業は毎回ハードで、予習だけでもかなり時間が取られました。時には辛い時もありましたが、周りの友人が遅くまで自習室に残って勉強しているのを見て、自分もこのままでは負けてしまうと思い、必死に勉強しました。もっとも、ロースクールの授業では司法試験対策は全くと言っていいほどなかったので、司法試験合格との関係では効率はそこまで良くなかったかもしれません。私もその点は少し懸念して、短答の勉強ぐらいはすべきだと思い、毎日行き帰りの電車の中で短答の過去問をコツコツ進めていました。また、毎年予備試験も受験し、短答合格だけはしていました。
4 辰已講座の利用方法
私は、辰已を知るのが遅かったので、もっと早く知っていればと思いました。最初は別の予備校の講座を受講しており、そちら一筋だったのですが、ロースクールの友人たちの多くが、辰已の書籍や講座、答練を評価しているのを聞いて、辰已に興味を持つようになりました。大学の生協で試しに趣旨規範本を購入して見たところ、ロースクールの授業にも対応できるような内容でとても出来が良いと感じたので、以後辰已の書籍には大きな信頼を置くようになりました。
一回目の司法試験に落ちた後、友人に辰已の答練のクオリティーの高さと的中率の高さを聞いて、二回目の受験の際には必ず辰已の模試を受けようと思い、3月に全国模試を受講しました。全国模試は本番と同等の環境で緊張感があり、問題も基本から応用までよく練られていたので、私の辰已に対する信頼は確信に変わりました。本試験の成績も辰已の全国模試の成績とほぼ同等だったので、受験者の集団の中で自分の実力を正確に測ることが出来ていたのだと思います。
5 ノート作成術
とにかく趣旨規範本に情報を一元化することです。まずは趣旨規範本を一読して、論文に最低限必要な知識をインプットしました。そして、普段演習書を使って答案構成をしたり、答練を解いて解説を読んだりしていく中で、これは使えると思った規範や考え方を趣旨規範本の余白部分にどんどん書き込んでいきました。すでに趣旨規範本に記載されている内容と対比しながら違いを意識して書き込むことで、自分の中で論点の位置づけを再整理する良い機会にもなりました。最終的に、私が書き込んだ趣旨規範本は、試験直前に見返せるオリジナルノートになりました。真っ白なノートに一から自分でノートを作成するのと比べて、明らかに合理的かつ効率的であったと思います。私の周りの合格者の人たちも皆同じように趣旨規範本をベースにオリジナルノートを作り上げていたので、もはや必携の書といっても過言ではないと思います。
6 私が使用した本
前述した趣旨規範本に加えて、私が役に立ったと思った辰已の書籍は、『合格思考民法』です。一回目の受験で不合格になった後、民法の実力不足を感じたので合格した友人に相談したところ、オススメされたのがこの本でした。民法は事例に違いはあっても基本的には旧試験の過去問と同様の問題がくり返し問われている事が多いので、本書のように旧試験の過去問を題材として、民法の基本的な考え方が順を追って平易にわかりやすく解説されているのは自分にとってはかなり有用であったと思います。
また、過去問の分析をするにあたって、辰已の『ぶんせき本』も役に立ちました。特に役に立ったのが答案例です。私はこの本を知るまで他人の答案をきちんと読んだことがなかったので、合格者と不合格者の答案が比較されている本書は、自分の答案を見直す上で非常に参考になりました。合格者の答案は、問題提起、条文の指摘、趣旨、規範定立、あてはめのすべてが、文章全体の流れと一貫性を意識して論述されており、文章として読みやすくなっていました。それに比べて自分の答案は、とりあえず知っている論点で問題提起をして、覚えた規範を吐き出して、それっぽく強引に当てはめるといった内容で、その差は明白でした。今思えば、これが俗に言う「論点に飛びつく」とか「文章になっていない」という指摘の真意なのだと思います。
また、他人の答案を読むことで、模範答案とは違った試験時間内で書ける「現実的な答案」を学べることも大きいと思います。
他には、演習書として『憲法ガール』、『事例研究行政法』、『ロープラクティス商法』『ロープラクティス民事訴訟法』、『刑法事例演習教材』、『事例演習刑事訴訟法』『ケーススタディ経済法』などを使いました。
7 自己の反省を踏まえたアドバイス
私が一回目に落ちた理由は、司法試験対策を始めるのが遅かったことが最大の理由だと思います。3年になってもロースクールの授業の方に目がいってしまい、本格的に試験対策に乗り出したのは年明けからでした。その対策の内容も、とにかく過去問をひたすら解くといったものでした。過去問がすでに十数年分積み上がっていることを考えると、本試験までには書くだけで精一杯といったところで、出題趣旨や採点実感を読みながら腰を据えてじっくり考えるといった機会を持つことはほとんどできませんでした。
二回目の受験に向けて勉強をする際には、とにかく考える時間を多く持つようにしました。一回目のときの勉強で、出題形式と答案を書くこと自体には慣れていたので、答練の日以外には、答案を書くことよりも演習書の問題をじっくり整理しながら考える時間を多く取りました。あえて基礎から時間をかけて丁寧に考えることで、自分の中でうまく説明できない箇所は単に規範を丸暗記していただけだったということが浮き彫りになりました。
結局のところ、私にとっては、最初のうちから焦らずにじっくり時間をかけて考えることが合格への近道だったのだと思います。司法試験は覚えることが多くて気づかないうちに暗記に偏りがちですが、法的思考力が養われていないとその暗記も役に立ちません。なるべく時間に余裕をもって、自分の頭で考える時間を十分に確保するべきだと思いました。
他には、短答での足切りを警戒しすぎて、短答の勉強に時間を割きすぎたのも原因として挙げられると思います。司法試験はあくまで論文が勝負です、短答には時間をかけすぎないようにすべきだと思います。
8 ロースクール在学生へのアドバイス
とにかく試験対策は早めにすべきです。ロースクールの勉強と司法試験は、関係はあるにしても別物と考えるべきです。タイトなスケジュールの中厳しいとは思いますが、一回目で合格を狙うのなら覚悟を決めなければなりません。特に未修の人は息をつく暇もないと思いますがなんとか歯を食いしばって耐えてください。
9 リベンジ合格を目指す人へのアドバイス
まずなぜ自分が落ちたかを考えるべきです。試験後に送られてくる成績表をよく見てください。論点に全く気づくことが出来ずに歯が立たなかったのなら単なる知識不足の可能性もありますが、論点には気づけているのに良い成績がもらえなかったのなら、自分の答案が法的な文章になっていないことを疑うべきです。法律問題を考える際にたどるべき思考過程が反映されていない答案は理解不足を疑われても仕方がありません。必ず条文の趣旨から考えて、自分にとって腑に落ちる規範、当てはめになっているかを考えてみたほうが良いと思います。
また、合格した友人を捕まえてアドバイスをもらうのも良いと思います。私が一回目不合格になった後にまずやったことが、合格発表後に学校の自習室に荷物を取りに来た合格者の同級生を捕まえて、彼らが使った参考書を聞いたり、勉強方法についてアドバイスをもらうことでした。合格者のアドバイスは当時の自分にとって本当にためになりました。
勉強計画については、合格発表直後の、まだ少し時間に余裕があるうちにじっくりと計画を立てて、残りの期間はそれを毎日確実にこなしていくという方法が良いと思います。もっとも、必ずしも予定通りに順調にいくとは限りません。私は計画に無理が生じそうになったら、最初の計画を見直して適宜修正していくことを繰り返して本番まで勉強を続けました。その際、司法試験は長い戦いなので無理は禁物だと思い、自分を追い込みすぎないようにして、苦痛を感じない程度の負荷で毎日の勉強を習慣化することを意識していました。
リベンジ合格を目指す人は、不合格になった直後は気分が落ち込んで何をする気も起きないと思いますが、それではなにも始まらないので、落ち込むのは数日にして、さっさとベッドから出て答練を申し込みに行きましょう。特に初回は気が重く、かつ準備不足で望むことになるかもしれませんが、体を無理やり起こしてでも早めに意識を試験モードに切り替えるべきです。私も不合格後に初めて答練を受けたときには最悪の気分でしたが、いざ問題を解き始めると、今のままではいけないという危機感を持つことができ、二回目の受験に向けて早めに動き出すことが出来ました。結局、早めに気持ちを切り替えて行動することがリベンジ合格に最も必要なことではないかと思います。
あとは、孤独にならないようにしてください。確かに司法試験の受験は個人勝負ですが、普段の勉強は同じ志を持った友人と励まし合い教え合う集団戦です。孤独になると辛いときに相談する相手がいなくなり、予期せぬ方向に行ってしまう可能性もあるので、平素から友人を大切にし、また、自分を支えてくれる家族に感謝するようにしましょう。
最後に、これからまた長いようで短い戦いが始まりますが、辛い勉強も今年が最後だというつもりで、諦めずに続ければ必ず結果はついてきます。頑張ってください。応援しています。
辰已法律研究所 受講歴
【2019年対策】
・司法試験全国公開模試